BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第68話

 宇崎義彦(男子2番)和歌山啓一(男子21番)の二人と別れた姫野勇樹(男子15番)は、元来た道を戻って、B−5に掛かった吊り橋を渡っていた。
―今誰かに襲われたりしたら、シャレにならないな…。
 勇樹は思った。事実、この吊り橋はかなり古いようだったし、逃げる方向が限られている。
―まあ、このマシンガンがあれば、どうにかなるかもな。
 勇樹は、右手に握り締めた、マイクロウージーを見つめた。
 
富森杏樹(女子12番)があの廃校の出口で待っていないことに気付き、探し始めてから、もう丸一日が経とうとしている。
 その間、色々なことがあった。いや、ありすぎた。
 勇樹はもはや、肉体的にも精神的にも疲れきっていた。少し前に仲間の
立川大成(男子12番)を殴ってしまったのも、普段ならあの程度で殴ったりはしないはずだった。
 だが、殴ってしまった。疲れと、杏樹が見つからない苛立ちを、思わず大成にぶつけてしまった。
 今では、勇樹は大成を殴ったことを後悔していた。義彦たちには、自分が大成を殴ったのは当然だ、といった感じで説明したが、本当のところは、そう考えていた。
 大成は、勇樹をどう思っているだろうか? 恨まれたりしただろうか? だが、もう大成が勇樹をどう思ったかは分からないのだ。
 しかし、義彦たちが脱出の計画を立てているという話に、勇樹は驚いた。
 このゲームからの脱出法を考え出した義彦の知性に、ほとほと感服した。
―それに比べて俺は…、杏樹を探して、見つけた後のことを考えてなかった…宇崎は…あいつは、スゲーや。
 だが、脱出法があると分かると、俄然気合が入った。
 何としても杏樹を見つける。そして出来れば大成も探し出して脱出する。
 それが、自分にとっての最善の策だと、勇樹は考えていた。
 そして、吊り橋を渡り終えた勇樹は、さらに東へと歩を進め、会場の端になる、A−6に出た。
 そこで勇樹は、誰かの身体が転がっているのを見た。勇樹はじっくりと、その身体が誰なのかを判断しようとした。
 すぐに勇樹は思い当たった。
元野一美(女子19番)の死体なのだ。これは。
 勇樹は、
国吉賢太(男子7番)が言っていたことを思い出した。
―A−6で、元野さんと一緒にいたから、襲ったんだ。富森さんは西に逃げた―
「元野…」
 勇樹は、呟いていた。
 杏樹の幼馴染で、いつも杏樹が頼りにしていた存在。
 勇樹も、一美のことはかなり信頼していた。彼女の姉御肌な雰囲気は、勇樹にそう思わせるには十分すぎるほどだった。
「お前…杏樹を守ろうとしてくれてたんだろうな…。大丈夫だ。ここに杏樹はいないけど、俺が今度は杏樹を守るからな。安心して見ててくれ…」
 その場ですぐに勇樹は、一美の死体の近くにしゃがみ込み、手を合わせて目を閉じ、拝んだ。
 しばらくしてから、勇樹は立ち上がり、歩き出そうとした。その時だった。
「…姫野君じゃないか」
 頭上からそんな声がし、勇樹は立ち止まって上を見上げた。
 この声には聴き覚えがあった。相手が誰か、勇樹は確信を持っていた。
 勇樹の確信は当たっていた。頭上の木の上から、勇樹を呼び止めたのは、元野一美を殺した男、国吉賢太だった。
「お前が何故…ここにいる?」
 勇樹は賢太の顔を確認するとすぐに、マイクロウージーを賢太に向けて、言った。
「まあ…何となくね。それより…銃を降ろしてくれるかな? 僕は今のところ、君と戦う気は無いからさ」
「…どういうことだ?」
「君に、良い情報を教えてあげようかと思ってさ。ちょっと前…40分くらい前かなC−7あたりで、富森さんに会ったよ」
―何!?
 勇樹は驚きを隠せなかった。40分前といったら、まだ勇樹はC−8で大成の傍にいた。そんな近くに、杏樹はいたのだ。
「お前、まさか…」
「あっ、怪我とかはさせてないよ? 君に言われたとおりにしといたからさ」
「そ、そうか…。杏樹は、どんな風だったんだ? 教えてくれ!」
 すると賢太は、少し間をおいて、言った。
「中元さんに襲われてたよ。それを見つけた僕が中元さんを撃って…別れたよ。しかし富森さんって凄いね。咄嗟にアルコールランプに火を点けて中元さんにぶつけて反撃してたんだから」
 賢太の言葉に、少し勇樹は驚いた。
 大人しく、人を傷つけるような行為が出来なかった杏樹がそういう行為に及ぶとは、思っていなかった。
「強いね…富森さんも、姫野君もさぁ…、凄いや。僕は弱いからなぁ…」
「何言ってんだ?」
 突然の賢太の発言に、勇樹は更に戸惑った。
―強いだの…弱いだの…一体どうしたんだ?
 だが、そんなことを気にしている暇は、勇樹には無かった。
 今は、一刻も早く杏樹を見つけ、さらに大成を見つけて、義彦たちの脱出策に乗らなければならない。
 そこでふと、勇樹は賢太のことを考えた。
―国吉に、宇崎たちの居場所を教えても大丈夫だろうか? 国吉が宇崎たちを殺してしまったりしないだろうか? 相手はやる気だと公言しているし…、でも、宇崎と和歌山は国吉の親友だし…。
 その時、賢太が勇樹の考えを読んだかのように、言った。
「姫野君…僕が義彦を殺さないという保証は無いよ」
―な!? 何でこいつは…!
 さらに賢太は続けた。
「でも…僕がこれ以上迷ったりしたら、僕のよりどころは、義彦しかないんだ。だから…教えてくれるかな? 義彦の居場所」
 勇樹は、賢太の言葉を信じることにした。賢太の言葉に、嘘はないと、直感したからだ。
「分かった、教えるよ。B−1の廃墟に宇崎と和歌山はいる」
 勇樹はそう言って、すぐにその場を離れた。
 だんだん、国吉賢太という人物が分からなくなってきた。賢太は、今何を考えているのだろうか?
 勇樹には、その答えは出せそうもなかった。

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