BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第70話
―う…う〜ん…。
畑槙乃(女子15番)は、暗い暗い、静寂の中にいた。
―あれ? 私って何やってたんだっけ? えっと…確か旅行の打ち合わせをやってて…えと、それから…何やってたんだっけ…思い出せないや…?
槙乃の記憶は、完全に混乱していた。その時、闇の向こうから、声が聞こえた。
―あなたは、プログラムに参加しているのよ? 覚えてない?
―えっ? 嘘でしょ!?
槙乃は信じられなかった。まさか自分のクラスがプログラムに巻き込まれたなどと。
だが、そこに一人の女子生徒の姿が現れた。
それは、槙乃の友人の一人、結城真保(女子21番)だった。
―本当よ、槙乃。私もこうして…。
そう、真保が言った途端、彼女の額からゆるゆると血が流れ始めた。槙乃はその姿に、驚いたが、真保は構わずに続けた。
―死んでしまったもの。
―その通りよ。
さらに声が聞こえ、今度は槙乃が「ヒロミィ」と呼んでいた友人、板橋浩美(女子2番)が現われていた。
―私も真保と同じよ。こうして…。
その瞬間、目の前で浩美の左こめかみに穴が開いた。それでも浩美は語り続ける。
―死んだわ。
槙乃はその姿に恐怖し、後ずさりをしようとした。するとさらに、谷川つかさ(女子10番)が現われた。
―槙乃。これは夢でも何でもないのよ。現に私も…。
そしてまた、つかさの身体に穴が開いた。
―こうやって、死んでしまったわ。
つかさが、言った。
―そんな! 嘘嘘嘘嘘嘘嘘!
「嘘よぉーっ!」
そこで槙乃は、意識を取り戻した。
―ここは…何処?
槙乃は、辺りを見渡した。そこはどう考えても、旅館の一室だった。
そこで槙乃は全て思い出した。板橋浩美に追われ、現われた「彼女」に助けられたことを。
―そうだ、彼女は何処に―!
そう思って槙乃は、身体を動かそうとした。だが、動かない。
槙乃は不審に思って、自分の身体を見てみた。そして、驚愕した。
槙乃の身体は、ロープか何かで、綺麗に縛られていて、身動き一つ取れない状況になっていたのだ。
―なっ、何なのこれ!
槙乃は必死で身を捩じらせたが、きっちり縛られたそれは、到底解けそうに無かった。
なおも槙乃がもがいていると、誰かが来る気配がした。
「あっ、畑さん。起きたんだぁ…」
そう言って、その人物は槙乃の前に現われた。そう、その人物こそ、槙乃を助けてくれた人物だった。
「ねぇ…何なのこれ? どういうことなの? ねぇ…向井さん!」
槙乃は、目の前の少女、向井遥(女子18番)に問い掛けた。
「見れば分かるでしょう? そういうことよ」
自分を助けてくれたときとは違う、遥の態度に、槙乃は戦慄した。
槙乃は、助けてもらったときは考えなかった、向井遥についての情報を手繰り寄せた。
向井遥。上祭中三年図書委員。常に何か本を読んでいて、今年の秋まで図書委員長だった。トレードマークは、いかにも勉強が出来るといった感じの銀縁眼鏡。それ以外は槙乃には分からない。
だが、その遥が何故こうして、自分を拘束しているのか? いやそれ以前に彼女はどうやって自分を拘束したのだろうか?
そこで槙乃は、あることを思い出した。
ここに連れて来られてすぐに、彼女に食事を出してもらったことを。そしてその後の記憶が、曖昧なのだということを。
「まさか…向井さん…」
すると遥は微笑んで、言った。
「ええ。一服盛らせてもらったわ。ほらコレ…私の支給武器なの」
そして遥は、ポケットから小さな薬瓶を取り出し、それを槙乃に見せた。
「睡眠薬」
そこで槙乃は、全てを察知した。
遥は槙乃の食事に、睡眠薬を入れ、眠っている間に拘束したのだ。
「でも何で!? 何でこんなことを!」
槙乃は遥に向かって叫んだ。
「私ね…ある望みがあったの。その望みを抱くようになったのは、五年前のことよ。五年前のテロ…知ってるわよね?」
槙乃は頷いた。もちろんだ。あの凄惨な事件を知らない者がいるはずが無い。
「私は、あのテロに…仙台で被害にあったのよ」
「えっ!?」
槙乃は驚いた。こんな、自分の分からないところにもあのテロの犠牲者がいたのだ。
槙乃も、親友のつかさや、焼津洋次(男子19番)、あと山原加奈子(女子20番)などがテロのために引っ越してきたことは知っていたが、まさか遥もそうだとは思っていなかった。
「私はそこで…地獄を見たわ。あちこちに転がる死体の山。そして私は政府の調査隊にすら発見されること無く、三日間現場にいたのよ。やがて私は慣れたわ。死体にも、血にも、腐臭にも」
槙乃は遥が見たであろう光景を想像しながら、戦慄していた。
遥は、まだ話を続けていた。
「慣れたというよりも…好きになったというべきかしら? そして私は…自ら死体を作りたくなった。そう、殺人を犯したくなったのよ。それも、特に残酷に…ね」
「何よ…それ」
「でもそんなことは出来ない。犯罪だもの。でも私はある人物に…、そう思うのもあの状況では自然だと教えられた。そして…テロの全ての真実も教えられたわ。そして私は、その方の下についた。でも…その方は…教祖様は、私の望みを認めて下さらなかった。だから私は背いた。だってもう…我慢できないんだもの」
「…!」
槙乃は全てを悟った。
遥は、偶然出会った槙乃を、望みを果たすために拘束したということに。
「嫌! 嫌ぁっ!」
槙乃は身を捩じらせて叫んだ。しかし遥は言った。
「駄目よ。折角手に入れた獲物なんだもの…早く血を見たいの。この欲望を満たしたいの! だから…」
そう言って遥は、槙乃のものだったシーナイフを振り上げた。
「嫌ぁぁぁぁぁ!」
ナイフは槙乃の身体に振り下ろされ、その左胸を正確に貫いた。
「あ…っ」
槙乃は、すぐにその生命活動を停止した。
だが、遥はひたすらに、一心不乱に槙乃の身体にナイフを突き刺し続けた。やがて槙乃の身体は、ただの肉塊に成り果てていた。
そして遥は、槙乃の身体を、手でちぎった。
「ふふふ…ああ…これよ…これなのよ…私が求めていたのは…最高よ! もう…快感!」
遥は、叫んでいた。
女子15番 畑槙乃 ゲーム退場
<残り11+2人>