BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第71話
―まさか、私がここまで生き残るなんて…、誰が予想したんだろうか?
そう思いながら、河原真澄(女子4番)は、空を見上げた。真っ昼間だというのに、雪はひたすらに降り続ける。
彼女は、このゲームが始まってからというものの、誰とも出会うことが無かった。というよりも、誰かと会いたいとは思わなかった。
そんな真澄に支給された物は―、『情報』が入る道具…ザウルスと呼ばれる、携帯端末だった。
その説明書には、こう書いてあった。
『この支給武器が当たったあなたはラッキー! ひょっとしたら何もしなくても長生きできるかもしれませんよ? このザウルスは、死亡者が出るごとにメールで連絡があなたに入るといったスグレモノ! さらに、質問があればメールで送れば、私、尾賀野がメールで返事をします。但し、個人名を使用したメール、ゲームのルールを根幹から覆すような内容のメールは受け付けません。それでは、頑張って下さいね! …尾賀野飽人』
真澄は、すぐにこれを活用することを決めていた。まず、一回目の放送が終わった後で、既に殺人を犯し、尚且つまだ生存している生徒が何人いるのかを質問した。
すぐに、返事は来た。メールには、
『六人いるよ』
とだけ書かれていた。これで真澄は、少なくとも六人、やる気の者がいると判断した。
その後も、次々に死亡者についてのメールも来た。そしてそれからは、真澄は『自分に一番近いところにいる人間は、どの辺りにいるか』といった質問を、繰り返した。
それによって、真澄は誰とも会わずにここまで生き延びることが出来た。
そして現在、残った生徒は真澄を含めて11人になった(特別参加者とかいう人たちを含めると13人だが)。
放送では特別参加者を含めて残り17人になっていたが、その後で曽野亮(男子11番)、谷川つかさ(女子10番)、中元理沙(女子13番)、畑槙乃(女子15番)の死が、メールで知らされたのでその人数になる。
―ひょっとしたら、優勝だって出来るかもしれない。
真澄はそう思うようになっていた。
―そうよ。残りが二人になるまで逃げ延びて、それからこれで相手の名前を出さずに居場所を聞き出し、騙し討ちで倒せば、私が優勝できるんじゃない?
だから、途中立ち寄った民家で、文化包丁とカッターナイフを調達した。
―優勝できる。
そう思うと、恐怖など感じなくなっていた。
本来、真澄はこんな性格ではなかった。だが、『優勝、生還』という言葉が現実味を帯びてきた瞬間、最初、人殺しなど出来ないと怯えていた真澄は、変わったのだ。
そう、クラスメイトを殺すことに躊躇いなど感じなくなるほどに。
自分では感じていなかったが、真澄もまた、プログラムで精神を侵されてしまったのだ。
―生き残ったら何をしようかな? まず他県に転校になるのよね? そしたら、ここでは手に入らなかった友達を作って、楽しく楽しく生活して…大人になったら、いっそのこと、プログラムについての本でも出してやろうかしら? 『河原真澄著、これがプログラムで生き残る方法!』なんてね。大ベストセラーになったりして。ふふ。
真澄は、どんどん妄想を膨らませていた。だが、すぐに我に返った。
―そうだ。ここは禁止エリアになったんだっけ。移動移動。
真澄は、自分がいたエリア、E−1から移動する準備を始めた(途中であの山原加奈子(女子20番)の死体が隣のエリアの川原に転がっていたが、真澄は別に気にしなかった。だってもう死んでるんだし、気にしても仕方が無いと思うもの)。
同時に、真澄はザウルスにメールを書き込み、送信した。
『一番近くにいる生徒がどのエリアにいるか教えて下さい』と。
そして真澄はザウルスをしまって、移動を始めた。取り敢えずは、南に移動してみることにした。
途中、G−1で結城真保(女子21番)と板橋浩美(女子2番)の死体を発見した。真保は額に穴が開き、浩美は左こめかみを撃ち抜かれていた。
しかし、どうでもよかった。
―死んだ人のことを気にしてても、始まらないし…ね。
そして今度は東へ移動を始め、すぐにG−2に辿り着いた。そこで、ザウルスが、メールの着信音を放った。
「あっ…」
すぐに真澄は液晶画面を見た。そこには、こう書かれていた。
『すぐ近くにいるよ』
「そ、そんな…!」
思わず真澄が、そう言った時だった。真澄の腹部から、痛みが走った。
「え…」
真澄はその腹部を見た。その、真澄の腹部からは、止め処なく血液が溢れ出ていた。
真澄は振り返り、そして見た。
鮮血に染まったレイピアを右手に持った、横井翔(男子特別参加者)の姿を。
「―――!」
真澄はすぐに、文化包丁を振るい、同時に左手でカッターナイフを握った。ザウルスが地面に落ちたが、そんなことには構っていられない。
今は命が危ないのだ。一つの道具のために命を落とすわけにはいかなかった。
ひたすらに真澄は文化包丁を振るった。
―死にたくない! 死にたくなんかない!
その一心だった。
やがて、翔の右手に、包丁の峰が当たり、翔はレイピアを取り落とした。
―やった! 死ね―!
真澄は翔に向かって、包丁を振るった。
しかし、真澄があることに気付いた直後、真澄の命は、現世から旅立っていた。
真澄が最後に見たもの、それは…翔が、拳銃を(それは、曽野亮から奪ったグロッグ18だった)抜き、それの銃口を真澄の頭に向け、撃った光景だった。
真澄の頭部は銃弾が着弾すると同時に弾け飛び、力を失った真澄の身体は、ゆっくりと仰向けに倒れこんだ。
「意外と…やるんだな。でも…俺に気付かないっていうのは…大チョンボだったようだ」
そう言うと、翔は地面に転がったザウルスに気付くことなく、それを踏み壊して、立ち去った。
女子4番 河原真澄 ゲーム退場
<残り10+2人>