BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第72話

 エリアで言うと、H−4。
「これで六人…」
 
横井翔(男子特別参加者)は、ぼそっと呟いた。
 ついさっき、翔は
河原真澄(女子4番)をこの手に掛けた。最初はグロッグで後頭部を撃ち抜いてやろうかと考えたが、真澄が何かを取り出そうとして、隙だらけになったために、急遽レイピアでの攻撃に踏み切った。
 相手が拳銃などを持っているようには見えなかったし、何よりも翔は、刃物の扱いには自信を持っていたが…正直、銃火器の扱いは苦手なのだ。
 だからこそ、至近距離でしかグロッグを使わなかった。
 翔は常に、暗殺の任務には刃物を愛用した。
 先日は、最近発覚したクーデター計画の黒幕とされる政治家のボディーガードとして潜入して、警備の任に就いた者たちを全員斬って捨て、その政治家を一突きで殺してやった後で爆薬を仕掛けてその政治家の屋敷を爆破して、すべてを闇に消してやった。
―やはり、俺は刃物でないと…。
 だが、このプログラムにおける指令は、まだ果たせていない。
 今回のターゲット、神保義郎らしき人物が未だ見つからないのだ。これは想定していない事態だった。
 だが翔は焦ったりはしなかった。
 何故なら、他にも
牧原玲(女子特別参加者)がこのゲームにおいて、神保義郎を探している。大体、見つけられなかったところで、そうなったらこのゲームで優勝すればよいことだからだ。
 その場合、玲は強敵だろうが、翔は玲にも勝つつもりでいる。
 だが当然、他の対象クラスの生徒たちにも気は抜けない。ここまで残ったからには、相当の実力者もいるはずだ。
 気を抜いたらやられる可能性もある。それは翔も良く理解していた。
「う…っ」
 ふと、翔は頭痛を感じ、立ち止まった。
 何故なのかは知らないが、
島野明子(女子8番)を殺したあたりから、頭痛に悩まされるようになった。
 良心の呵責ということもないはずだ。翔は、とっくに情など捨てて闘っているのだから。
 そして同時に、意味不明の幻覚が見えるのだ。
 翔の周りで崩れ落ちる二人の男女。その場に立ち尽くし、動けない翔。そしてそんな翔と対峙しているのは…血染めの刀を持った、翔の父平次郎。
―これは一体何なのだろうか?
 翔には、その幻覚の意味は分かりかねた。だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
―神保義郎を、探さなければ。
 翔は再び、歩き出そうとした。
 その時、背後から声がした。
「君…横井翔君だね?」
 翔はその言葉に反応して振り返った。
―何者だ!? この対象クラスの生徒で、俺をわざわざ呼び止める奴が…?
 そこには、右手に拳銃を握っている男子生徒、
白鳥浩介(男子9番)がいた。
「…誰だ?」
「俺は呉道教教祖、白鳥浩介だ」
 その言葉に、翔は何か聞き覚えがあった。そして、思い出したことを、目の前の教祖を名乗る少年に言った。
「ほう…、あの、政府からも危険視されている呉道教の?」
 呉道教は確か、翔の記憶ではこの大東亜共和国政府を倒そうと唱え続けた、最も危険な教団ということだったが、確か五年前のテロで壊滅状態になったはずだった。
 しかも五年前の教祖、白鳥栄伝(しらとりえいでん)は確か、そのテロで死亡したはずだった。
―ん? まてよ? 白鳥…?
「そうか。君が白鳥栄伝の後継者か」
「ああ。その通りだ。そして俺は、このゲームでの優勝を狙っている」
「何だって? 政府転覆すら考える教団の教祖が、このプログラムで優勝?」
「そうだ。だが優勝するにしてもしないにしても、君と牧原玲に、言うことがあってね…」
 白鳥浩介と名乗る、その翔の目の前の少年は、翔よりも年下とは思えない物腰で、話した。
 翔は、浩介が何を言おうとしているのか、気になった。
「…言いたいことは何だ?」
「…横井翔、君の失われた過去の記憶のことだ」
「…何? 俺の記憶?」
 翔は、ますます気になってしまった。
「…俺は、君の両親を知っているんだ。君の父親は、呉道教に入信していて、勢力を拡大していた呉道教の大阪支部長だったんだ」
「…何だと!?」
 翔は、とんでもないことを訊いてしまった気がした。
「君の本名は…藤平卓真と言うんだ。思い出せるかい?」
「し、知らない!」
 翔は、叫んだ。これ以上訊くと、何かが壊れてしまいそうな気がした。全て、自分の勘だったが。
―ふじひらたくま? そんな奴知らない! 誰だ! 俺じゃない! 俺じゃないんだ! そんな名前が、俺の名前のはずが…!
「我々呉道教は、先代の指導の下で反政府的な組織になっていった。そして、先代は大掛かりなデモを行うと決めた。歴史を、本来より早く変えると言ってね。その連絡は藤平良二…君の父親が率いていた大阪支部にも入った。だがテロがデモの予定日より早く発生…そして藤平夫妻の消息は途絶えた」
 翔は、耳を塞ごうとした。だが、浩介はそんな翔に近づいて、その腕を取った。
「聴け、横井翔、いや藤平卓真! 俺はこれを君に聞かせる必要がある! 君を全てから解き放つためにも」
 そして、浩介は続けた。
「そして君の両親の遺体が、大阪市内で発見されたんだ。表向きは、テロで死んだことになっている。だが違う。我々呉道教の力を殺ぐために政府に殺されたんだ。そうでなければ…広島の郊外にあった本部まで壊滅し、先代や前幹部が死ぬ理由がない。テロは都市部で起きていたんだから。そして我々はこの二人の死について調べた結果、大体誰が犯人だったのかを突き止められた。それは当時57歳の老兵ながら、最前線で活躍していた専守防衛陸軍小隊長、横井平次郎だ」
―え…?
 その言葉を訊いた瞬間、翔の目の前の映像は、色を失った。浩介の姿も、モノクロ映像になった。
―そんな…、父上が…俺の本当の両親を殺した…。
―じゃあ、何故俺を育ててくれた? まさか、良心の呵責とか、そういうものなのか?
―何故父上は首を吊った? ひょっとしてそれは…俺に対する、罪の意識?
「う…うあああああああああああああ」
 翔は、力の限り叫んだ。
 哀しかった。自分を育ててくれた平次郎が、本当の両親を、殺したと知って。
―いや、嘘だ! そうだ…きっとそうだ…奴は嘘をついているんだ! 俺を倒すために、精神的に俺を揺さぶろうとしてるんだ! そうだ! きっと…!
「嘘をつくなぁぁぁぁぁ!!!」
 翔は、浩介の手を振り解くと、グロッグを抜き出した。
 だがその瞬間、浩介がそれを叩き落し、コルト・ガバメントを翔に向けて、言った。
「やはり…受け入れてはくれないか。それも許容範囲のうちだ…。だからこそ、俺は君に真実を伝えたうえで葬る!」
 銃声が響き渡った。だが、翔は浩介のガバメントから放たれた銃弾をかわし、すぐにグロッグを拾い上げて走った。
―ちくしょう! ふざけるな! 次に会ったら、あいつを絶対に殺してやる! 父上が本当の両親を殺した? そんなの、嘘に決まってる!
 だが翔は、もはや以前の冷静さを失っていた。

                           <残り10+2人>


   次のページ  前のページ  名簿一覧   表紙