BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第76話
一つの銃声が、廃墟で見張りをしていた和歌山啓一(男子21番)の耳に届いた。かなり近い場所での銃声だった。
―何だ!? 誰かがまた死んだのか!? でも今度は誰が?
啓一は慌てた。
―近くってことは、そのうちこっちにも来るか?
前の放送で残りは横井翔(男子特別参加者)、牧原玲(女子特別参加者)を含めて12人となったことが伝えられた。特別参加者二人はもちろん、親友の国吉賢太(男子7番)、白鳥浩介(男子9番)もこのゲームに乗っていることも、姫野勇樹(男子15番)に教えられた。
他にもスタート地点で焼津洋次(男子19番)を殺した吉田晋平(男子20番)もまだ生き残っているし、世良涼香(女子9番)も乗っている可能性がある(この二人は少し前に死んだが、そんなことは啓一は知らない)。
つまり、半分がやる気の人間なのである。
―一体どうすればいい? どうすれば…。
啓一が悩んでいたその時、廃墟近くに人影が見えた気がした。
間違いない! きっとこの人物は、さっきの銃声に関係している! つまり、やる気の可能性が…!
そう思って、啓一が手に持った金属バットを構えたとき、背後から宇崎義彦(男子2番)の声がした。
「啓一、爆弾が完成したぞ」
そして義彦が、廃墟の入り口までやってきた。義彦はやって来るなり、人影を見て言った。
「賢太か?」
その呼びかけに、人影―国吉賢太が反応した。
「やっぱり義彦か。となればそこにいるもう一人は啓一だね?」
その声は相変わらずの、穏やかな声だった。だが、啓一は安心してはいなかった。
姫野勇樹が言った、「国吉はやる気だった」という言葉が、啓一の心に未だ緊張をもたらしていた。
義彦は啓一の様子を見て、言った。
「安心しろ、啓一。賢太がここに来たということは、賢太は俺たちを殺すことに迷いがあるってことだ。なら、幾分か安心だと思うぞ」
すると賢太も言った。
「さすが義彦。よく分かってる。少なくとも、僕は今、二人を殺しはしない」
二人にそう言われたからには、啓一も納得せざるを得なかった。
すぐに義彦と啓一は賢太を廃墟のホールに招き、全てを話した。
ここで義彦、啓一、狩野貴仁(男子5番)、城戸比呂斗(男子6番)、津脇邦幸(男子13番)、菊池麻琴(女子5番)の六人で集まり、脱出の計画を立てたこと。
爆弾の材料を取りに行ったが、牧原玲に襲われて散り散りになってしまったこと。
次の放送で邦幸が死んだことが分かり、その次の放送でも比呂斗、麻琴、そして貴仁の死が報告されたこと。
何故か貴仁が現われ、ガソリンを持ってきたこと。
姫野勇樹がやって来て、色々な情報を残して行ってくれたこと。
そして二人は、敢えて賢太がどうしていたかは訊かなかった。
全てを訊いた後で、賢太が言った。
「そう。脱出を…なら、僕も手伝おうか?」
「え?」
啓一はただただ、驚いた。
ゲームに乗っているはずの賢太が、あろうことか自分たちの脱出計画に乗ると言ってきているのだ。一体何故だか、啓一には分からなかった。
すぐに義彦が言った。
「自分の目的は、脱出しても果たすことが出来ると思ったから…ってとこだろ」
「御名答。よく分かってるね、義彦。とにかく、僕も協力する。だから、何とか脱出しよう」
賢太がそう言ってくれたことが、啓一は嬉しかった。このゲームの間、ずっと会えなかった賢太が、今ここにいる。そして自分たちに協力してくれる。
―本当なら、ここに浩介もいてほしいところだけど…。
そして啓一は、言った。
「じゃあ、もう爆弾は出来てるんだし、あとは本部に爆弾をぶちかますだけだけど…あそこはもう、禁止エリアに…」
「ここには、ライトバンが一台置いてあるんだ。ガソリンはある。それに乗せて、途中まで俺たちが運転すればいい。あとは頃合を見てアクセルを固定して車から脱出すればいい」
「なるほど…!」
「それじゃあ、これから爆弾をライトバンに積み込むから、手伝ってくれ」
「分かった、手伝おう」
「了解!」
賢太と啓一は揃って言った。
そして義彦、賢太、啓一で爆弾を運び始めた。裏口から出て、外に停めてあるライトバンに乗せる。
―遂に、脱出できるんだ!
―貴仁、津脇、城戸、菊池。俺たち遂に脱出できるんだ!
―姫野。お前と富森も脱出させてやるからな!
―浩介。何処にいるかは分からないけど…お前も脱出するときは一緒だぞ!
啓一が仲間たちのことを思い返していた、その時だった。
ズドン、と大きな音が辺りに響き渡り、同時に啓一は、自分が倒れるのが分かった。
―あれ? 一体…何が…。
啓一は自分の腹部を押さえた。どくどくと、激しく血が溢れている。
―撃たれた!? 一体、誰に…?
啓一は、横倒しに倒れた状態のまま、首を動かした。
猟銃を構えた牧原玲がそこに、いた。
<残り8+2人>