BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第78話

 和歌山啓一が牧原玲に殺された頃、義彦と賢太は爆弾を持って裏口に停めてあるライトバンのところまでやってきた。
 先程聞こえた、啓一と玲の声。そして銃声。それは啓一が死んだことを意味しているのかどうか、義彦には分からなかった。
「賢太…啓一は…?」
「…もう銃声がしないってことは…」
 賢太はそこで言葉を切った。銃声がもうしない。それはつまり啓一と玲の戦いが終わった。つまり武器を持たない啓一が敗れ、死んだということを意味しているからだ。
「くそっ…」
「義彦、とにかく今は啓一が言ったように、自分なりのケジメをつけよう」
「ああ…」
 義彦がそう言ってライトバンに乗り込もうとしたとき、銃声と共に、賢太の身体が崩れ落ちた。
「賢太!」
 義彦は賢太に駆け寄った。賢太の腹部が鮮血で染まっていた。その鮮血は止まることなく溢れ出していく。
「義彦…来たよ。彼女」
 賢太が言った。それを聞いて、義彦は振り返った。そこには猟銃を持った玲が再び立っていた。
「牧原…啓一は…」
「殺したよ。首輪を撃ち抜いて首を吹っ飛ばしたわ」
 玲は即答した。
「何…だと…? 何故そんな酷いことを!」
「うるさい! お前をひたすらに苦しませてやるためだ! お前は奴よりもっと苦しみぬいて死なせてやる!」
 そう叫んで、玲は猟銃を義彦に向けて撃ってきた。義彦は倒れている賢太を連れて、ライトバンの裏に隠れた。
「いいか? お前や同じテロリストどものせいで、私の仲間たちは死んでいったんだ! 遺体すら見つからなかった! 被害者の合同葬儀でも、私の仲間たちは遺体もなしに葬儀をすることになったんだ! そして私も…見ろ!」
 玲はそう言って、着ている服の右の袖と履いているズボンの右足を捲ってみせた。その中に隠れていたものに、義彦は驚愕した。
 そこには、無骨な金属で出来た、機械の腕と、機械の足があったのだから。
「私もこうして右手足を失った。まあ、幸いにも左利きだったから助かったけどね。でもこうして、機械の手足なんていう嫌なものを着けることになってしまったわ。その代わりに、凄い力が手に入ったけど…、本当はそんなものなんか欲しくはなかった! 仲間たちと一緒に幸せに生きたかった! それを奪ったお前を許すわけにはいかない!」
―なるほど。そりゃ恨まれて当然だ。
「私は仲間たちの仇をとる! 死ねーっ!」
 玲がまた、猟銃を放ってきた。何度も何度も吐き出された銃弾は、ライトバンの車体に当たり続けた。
 すると賢太が、むくりと起き上がった。
「け、賢太…」
「義彦…僕が牧原さんを倒すよ」
 そう言って賢太は、クロスボウとガレーシーを持って立ち上がろうとした…しかし、ふらついてまた倒れた。
 当然だ。玲に撃たれた傷からは未だに血液が溢れ続けているのだから。
「無茶だ、賢太! そんな傷で出て行ったって…! 賢太、ここから出るぞ!」
 義彦はすぐに異変に気付き、ライトバンの陰から賢太と共に飛び出し、裏口近くに走った。直後にライトバンが轟音と共に爆発した。おそらく、玲の放った銃弾が車の何処かの部位に損傷を与え、そこで発生した火花がもとでガソリンに引火したのだろう。
―何にせよ、危なかったな…。もう少しで俺たちも黒焦げに…。
「あれ? 賢太は…!」
 そこで義彦は気が付いた。傷が痛んで逃げ遅れた賢太が、ライトバンと裏口のちょうど中間地点にいることに。そして玲がそちらに銃口を向けたことに。
「賢太っ!」
「義彦…大丈夫だよ」
―馬鹿な! そんなはずないだろ! 牧原にとっての、格好の的になってんだぞ!?
 義彦がそう思っていると、賢太が言った。
「義彦。僕も啓一と同じだ。義彦には作戦を成功させて欲しい。僕の理解者だった義彦には…生きていて欲しい。それが僕の望みだ。復讐とか、そんなのもうどうでも良くなってきたんだ…。だから早く行ってくれ! 頼む…」
 賢太の言葉はそこまでで終わった。言葉が終わらないうちに、玲が猟銃から放った銃弾が賢太の胸部を貫いたのだ。
 賢太の身体はゆっくりと、仰向けに倒れた。もう、ぴくりとも動くことはなかった。
「けっ…賢太ぁぁぁ!」
 義彦は叫んでいた。そんな義彦に、玲は言った。
「どう? 大切な人間を失った気持ちは? 私もあの時、同じ気持ちを味わったのよ? 分かる、この気持ち? 分かる? この辛さが!?」
「ああ…分かるよ…すまなかったと、思っている。でも俺は…生きたい。生きてケジメをつけたいんだ。啓一や賢太のためにも」
「…生きたいですって? 許されないわそんなこと! あの時死んだ私の仲間たちだって、生きたかったのよ!? 人殺しのくせに、いけしゃあしゃあと生き残って! 絶対に殺してやる!」
 玲の眼に涙が浮かび、同時にその表情が怒りで満ち始めた。
「殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!」
「死ぬ訳にはいかないんだ。俺は脱出する!」
 そう叫んで義彦はライトバンに駆け寄った。
―まだ爆弾は積んではいないから、すぐにここから運び出さないと…!
 だが、義彦は戦慄した。
 既に爆弾は、無かった。最初の爆発で、誘爆してしまっていたのだ。
「そんな…」
「これで終わりよ。地獄に落ちろ!」
 玲がそう言い放つと同時に、猟銃を義彦目掛けて撃ってきた。
 そのときの光景が、義彦にはスローモーションに見えた気がした。自分に向かってだんだんと迫ってくる鉛弾。
―駄目だったみたい、だな。俺…。ごめんな、啓一、賢太、貴仁、城戸、菊池、津脇。それに姫野。脱出は、叶わなかったよ…。
―やっぱ、俺も年貢の納め時だったのかな…? なあ、クソ親父よ。
 そして銃弾は、義彦の胸部を正確に捉え、その身体を貫いた。
 同時に義彦の心臓が銃弾に破壊され、その運動を終えた。機能しなくなった義彦の身体は、そのまま仰向けに崩れ落ちた。
「さようなら、極悪人」
 玲は義彦の骸に向かってそう呟くと、その場を立ち去った。
 ライトバンから出ていた炎は、義彦の骸を呑み込んでいった。続いて、近くにあった賢太の骸も…。
 そしてその炎は、その五分後に派遣された本部の消火隊によって消火されるまで燃え続けた。

 男子2番 宇崎義彦
 男子7番 国吉賢太 ゲーム退場

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