BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
フィニッシュ
Now5students and1persons remaining.
第81話
「しかし、横井が死んでしまうとはな」
本部のモニタールームで、ソファーに身を預けていた尾賀野飽人(岡山県大佐町立上祭中学校3年プログラム担当教官)は、生徒の首輪の反応が映し出されたモニターを見ながら言った。
「そのセリフ、もう三回は聞いたぞ」
傍らに立っていた彬合晴知(同プログラム担当教官補佐)が、そう呟いた。
「全く、俺の予想外れちゃいましたよー」
モニターに向かっていた兵士、亜幌が振り向いて言った。
「それを言うなら俺だって外しちゃったよ!」
隣にいた兵士、朱葉町が亜幌に不機嫌そうな口調で言った。よっぽど自分が賭けていた世良涼香(女子9番)が死んだ事が悔しかったらしい。
「何とか神保義郎は死んでくれたけど…ペース悪いな」
尾賀野はぼそっと呟いた。
神保義郎こと(尾賀野たちは、義彦が神保義郎だと知って驚いた。彼が怪しいのでは、と出発前に軽く話しかけてみたがその時は良い反応をされなかった)宇崎義彦(男子2番)の死を伝える放送が終わってから一時間。横井翔(男子特別参加者)が死んでから未だに死者は出ない。
サクサク進んだほうが楽だと思っていた尾賀野にとっては、嫌な展開だった。
ここで尾賀野は、生き残っている生徒たちの動向をモニターで確認してみた。
白鳥浩介(男子9番)は、まだI−7から動こうとはしていない。積極的に動くような言動を以前見せていたはずなのに…何故だろうか?
一人でいることもあって、ずっと無言だ。
立川大成(男子12番)は、山を下ってE−6を歩いているようだ。
傷の状態はやはり、思わしくなさそうで、さっきから荒い息遣いが聴こえてくる。
姫野勇樹(男子15番)は、たった今F−8に入ったところだ。
横井翔を殺したことを、まだ少し引きずっているようだ。こんな状態で大丈夫だろうか?
富森杏樹(女子12番)は、少し前まで立川大成がいたD−6にいるようだ。大成が遺していったらしい血痕が気になっているようだ。
彼女の記憶が戻るのかどうかは、尾賀野も多少気になっていた。
向井遥(女子18番)は旅館を出てからも、J−6で海岸を眺めている。
どうやら彼女は精神状態が良くないようだ。白鳥浩介と会ったらどうなるのだろうか?
牧原玲(女子特別参加者)は、まだC−1から動こうとしていない。まあ、目的の半分は達成したといって良いのだから、身体を休めることにしたのだろう。
こうしてみると、玲以外の全員が比較的近い場所にいるのが分かった。
特に立川大成、姫野勇樹、富森杏樹の三人は揃って近い場所にいる。これならいずれ三人は出会うだろう。
「さて…と。どうなることやら…」
尾賀野がそう呟いたとき、モニターに向かっていた兵士の一人、襟沙(えりさ)が言った。
「尾賀野教官! 生徒二人が接触しそうです」
「ん? 誰と誰だ?」
「はい、男子9番と女子18番です。ほんの少し前に移動を始めた男子9番がJ−6に向かっています」
「白鳥と…向井か。なるほど、面白い戦いが見られるかもな」
尾賀野は、そう呟いていた。
白鳥浩介は市役所を出て、先程から海岸沿いに歩いていた。
―残った生徒は、俺を含めて七人か…。もうすぐ決着が着くな。でも、さっきの銃声で、誰か死んだのだろうか?
そんなことを思いながら歩いていると、浩介は目の前に、一人の女子生徒が立っているのを見た。
―もう生き残ってる女子では、彼女しかいないな。
「向井君」
浩介は、目の前の少女―向井遥に声を掛けた…直後だった。
「あああああっ」
遥はいきなり、手に持ったシーナイフで浩介に飛び掛ってきた。
「む、向井君!」
「うるさい! どうせ私のことなど、分かってくれてもいないくせに! 親切面しないで! 死ね! 死んでしまえ!」
「向井君! いつ私がそんなことを言った? 何を根拠にそんなことを…」
すると遥は、急にその動きを止めて言った。
「あなたは私の願いを聞き入れて下さらなかった。そして私が畑さんを拘束したと知ったときも…!」
「―――!」
浩介は、愕然としていた。
―そうか。彼女はそう受け止めていたのか。しかし…殺意にまで繋がるとは…哀しいな…。信者に罵られたのは初めてだ…。こんな私が、果たして目標を果たすことが出来るのだろうか…。
浩介は、そんなことを思っていた。
「向井君。君への言い方が間違っていたようだ。すまなかった…」
「うるさい! 死んでしまえ! もうあなたは信用できない!」
そう叫んで、遥はシーナイフを振るった。その軌道は明らかに、浩介の眉間を目掛けていた。
「くっ――!」
バン。
銃声と、一瞬の空白。
何が起きたか、浩介は認識できていなかった。
一瞬飛んだ意識。それが戻ったとき、浩介は確認した。
硝煙の上るコルト・ガバメントの銃口。額を撃ち抜かれて倒れ伏した遥。死んでいるのは明らかだ。
「…そんな…」
浩介は呆然としていた。しかし、遥を撃ち殺したことに呆然としていたのではなかった。
恐怖だ。遥に向けて引き金を引いたのは、恐怖からだった。恐怖などに負けて、信者を撃ち殺してしまった自分が、腹立たしかった。
「くそっ…」
浩介は、自分の行為を悔やんでいた。
女子18番 向井遥 ゲーム退場
<残り4+1人>