BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第82話
向井遥が射殺された音は、会場中に響き渡っていた。
それは、牧原玲(女子特別参加者)のいたエリア、C−1にも聴こえていた。
相変わらず身体を休めていた玲は、一発の銃声を聴いて覚醒した。
―銃声―一発だけだけど確かにした…。
玲は横たえていた身体を起こして、銃声のした方角を見た。今から行っても、十分に間に合う距離のはずだ。
―行こう。優勝してテロリスト共をこれからも殺すために。
玲は立ち上がり、歩き始めた。
その頃、向井遥を射殺した白鳥浩介は、H−4を歩いていた。
恐怖に負けて、信者を撃ち殺した心の弱い自分。それと浩介は必死で向き合おうとしていた。
―負けてはいけないんだ、白鳥浩介。お前には、やらなければならないことがあるだろう!? だから…ここで躓くわけにはいかないんだ!? 浩介は何とか、ここにきて出てきた自分の「弱さ」を抑え切ろうとしていた。
そして川べりを歩き、G−4に入ろうとしたときだった。
「ん…?」
浩介の手にある探知機の液晶画面に、反応があったのだ。
その生徒番号は―「F特」。
―彼女か!?
浩介は探知機をデイパックにしまい、注意しながら歩を進めた。いくら彼女に―牧原玲に全てを伝えるつもりでも、有無を言わさず襲われる可能性のほうが高いのだ。注意を怠ってはならない。
そして、彼女は突如現われた。
しかも浩介の横に回りこんでいた。
「くっ!」
玲がその手に握った猟銃の引き金を引くと同時に、浩介は横に飛び退いた。
「…あと五人倒せば、私は優勝できる…そしてテロリスト共をこの手で滅ぼしてやる!」
―やはり…彼女は…真実だけでも、伝える必要があるな。
「牧原」
浩介は、一言彼女の名を呼んだ。一瞬玲がびくっとした。おそらくこのゲームが始まってから、殆ど名前など呼ばれなかったから(当たり前と言えば当たり前だが)驚いているのだろう。
「俺は君に言いたかったことがあるんだ、聞いてくれ」
「何故…私に言いたいことなどがあるの。初対面のはずよ」
「…俺は君の事は知っているんだ。いろいろ、調べたからね。そして俺は知っているんだ。五年前のテロの真相を。俺はそれを君に聞かせて、全てを知ってほしいんだ」
すると玲は、一瞬の反応を見せた後叫んだ。
「うるさい! あのテロは神保義郎たちが起こした最低のテロ! それが真相よ!」
玲がまた、猟銃を構えた。
―聞く耳を持たない、か…。この場ですぐに殺すか? いやしかし、彼女には全てを知ってもらいたい。そうでなければ、義彦が浮かばれない! 無実の罪で、汚名を着せられたまま死んだ義彦への、せめてもの手向けに!
浩介もすぐに、応戦のためにコルト・ガバメントを右手にしっかりと握って、また言った。
「牧原、聞くんだ! 義彦は…神保義郎は無実なんだ! この事件の裏には、どす黒い最低の思惑が隠されてたんだ!」
「神保義郎が…無実? そんなわけないわ! 現に奴らは、犯行声明まで出してるのよ!? 神保義郎たちがこのテロの犯人だという証拠じゃない!」
それを聞いて、浩介は噛んで含めるように言った。
「いいか、牧原…。確かに奴らは犯行声明は出したかもしれない。でも実は、犯行前に犯人たちが死んでいたとしたらどうだ? 犯行声明が出たとマスコミは報道していたが、それが犯行予告だとしたら? 俺はその全文を手に入れることに成功してるから分かる、あれは犯行声明じゃない、犯行予告だ!」
「…!」
すると玲は、しばしの間黙っていたがすぐに言った。
「どちらにしろ、奴らがテロを行おうとしたのは事実じゃない! いや、本当にテロを行ったのに違いないわ! それに、あなたの言う犯行予告文とやらを出してみなさいよ!」
―やはり、理解してはもらえないか…。
「紅の星」の犯行予告文は確かに、浩介は手に入れていた(どんなルートで手に入れたのかは、話が長くなるから割愛だ)が、まさか必要になるとは思っていなかったので、ここにはないのだ。
あのコピーは今も、呉道教本部の金庫の中だ。
―もう、無理かもしれないな…。
そう思ったが早いか、浩介はコルト・ガバメントの銃口を玲の胸部目掛けて、撃った。
放たれた銃弾は真っ直ぐに玲目掛けて飛んで行き、見事玲の左胸に命中した…はずだった。
玲は確かに、少し後ろに身体を傾けこそしたが、すぐに何ともなく再び猟銃を浩介に構えたのだ。
―何!? どういうことだ?
―…なるほど。君も私と「同類」ということか…。
―私の、負けだよ。
玲の猟銃の銃口から放たれた銃弾は、正確に浩介の胸を捉え、浩介の身体は仰向けに崩れ落ち、川の中にその身体が落ちた。
玲はすぐに、浩介の身体を確認してみた。撃たれた胸の銃創からは、大量の鮮血が流れ出していた。このままでは血液が全部抜けてしまうのではないか、というくらいに。
―死んだようね。
玲は浩介の手にあるコルト・ガバメントを拾おうかと思ったが、水が入ったことによる故障などがあるかもしれないと思い直し、地上に残された浩介のデイパックもそのままにしてその場を立ち去った。
こうして呉道教教祖、白鳥浩介は死んだ。
男子9番 白鳥浩介 ゲーム退場
<残り3+1人>