BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第84話

 大成は、その光景を霞みつつあるその眼で、じっと茂みの中から見ていた。
―勇樹。良かったな。富森に逢えて、良かったな。どちらにしろ、これで俺の出る幕はないのかもしれない。頑張れよ、勇樹、富森。
 だが大成はまだ、自分の出番がまだ残っていることを知らなかった…。

「杏樹…」
 勇樹は、まだ泣いている杏樹に、話しかけた。
 すると杏樹は、はっとした顔で勇樹から離れた。
「どうした?」
「ご、ごめん…あんまり嬉しかったからつい…」
 杏樹はそう言って、顔を赤くした。きっとさっきまで勇樹に身体を預けて泣いていたことを言っているのだろう、と勇樹は解釈した。
「別に構わない。相手が杏樹なら…さ」
「…うん」
 そして勇樹は、杏樹にもう一度話しかけた。
「なあ、杏樹…お前さ、今まで何やってた? 谷川たちといたときの話なら、谷川から聞いたけどそれ以外は…?」
「え…? 谷川さんと一緒に…いたの?」
「ああ。谷川が死ぬまで、な。あいつ、お前を探すの手伝ってくれてたんだ。でも俺はあいつを守ってはやれなかった」
「そんな…勇樹がそこまで背負い込む必要は無いよ…」
 杏樹はそう言って微笑んだ。かわいい、と勇樹は改めて思った。でも、大分無理して笑っているのは分かった。
 そして杏樹は今まで何をしていたかを語りだした。
 
瀬古雅史(女子10番)に襲われ、そこを元野一美(女子19番)に助けてもらったこと。
 その一美が
国吉賢太(男子7番)に殺され、逃げたこと(これは勇樹も賢太本人から聞いていた)。
 その後で川に落ち、
谷川つかさ(女子10番)たちに助けられたこと。そしてその後、江田恵子(女子3番)保坂小雪(女子16番)を殺し、恐怖してそこから逃げたこと。
 つかさたちのグループから逃げ出してちょっとして、
世良涼香(女子9番)に出会い、彼女が瀬古雅史を躊躇せずに殺そうとしたのを見て逃げ出したこと。
 それからはしばらく誰にも会わず、二日目の昼に
中元理沙(女子13番)に襲われたところを、国吉賢太に助けてもらったこと(これも賢太から聞いている)。
 
牧原玲(女子特別参加者)に襲われたときにも、連続した銃声に助けられたこと(勇樹はすぐに、それが自分のマイクロウージーが放った音だと気付いたが、敢えて言わなかった。今そんなことを言っても仕方がない)。
 
古賀健二(男子8番)たちの死体を見つけたこと。
 全てを語った後、杏樹は言った。
「そう言えば勇樹…国吉君に私を殺すなって頼んだってホント…?」
「えっ!?」
 勇樹は狼狽した。まさか杏樹がそのことを知っているとは夢にも思っていなかったのだ。
―国吉の奴…杏樹に言ったのか…。
 内心勇樹は、「カッコつけすぎ」と思われたくもなかったので賢太にはこのことを杏樹に言ってほしくなかったのだ。だがそんなことはもういい。
 ここにこうして杏樹がいることが、何よりも嬉しかった。
「あとは…大成だけだな…」
「そうか…立川君、まだ名前呼ばれてなかったっけ…まだ生きてるんだよね?」
「多分な。でも俺、あいつと会ったときに喧嘩別れしちまったからさ…会って謝りたいんだよな…それで…出来たら脱出方法を探して…一緒に生きて帰りたいんだよ。杏樹と、大成と」

 その声は、茂みの中の大成にも聴こえていた。
―ゆ、勇樹…。謝りたい…?
―あんな弱気なことばっか言ってた俺を…許してくれるのか…?
 そう思うと大成は、いてもたってもいられずに、すぐに勇樹のもとへ向かおうとした。その時だった。
 まだ勇樹たちは気付いていないが、少し遠くのほうの茂みから銃口らしきものがのぞいていることに大成が気が付いたのは。
 そしてその銃口の先は…二人に向けられていた。
―勇樹! 富森!
 そこからの大成は、もう無我夢中だった。
「危ない! 逃げろーっ!」
 そう叫ぶと同時に、大成はさっきまで動けなかったとは思えないくらいのスピードで、勇樹たちと銃口の間に立った。
 その直後、銃声が響いた。

                           <残り3+1人>


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