BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第85話

「危ない! 逃げろーっ!」
 その声に勇樹と杏樹は揃って反応し、振り向いた。
 そしてそこには、自分たちを狙った一つの銃口と、自分たちと銃口の間に割って入る立川大成の姿があった。
「た、大成…!」
 そして銃声が響き、同時に血飛沫が舞って大成の身体が崩れ落ちた。その瞬間が、勇樹にはスローモーションにしか見えなかった。
「お、おい、大成…」
 勇樹はすぐに大成に駆け寄った。だが、大成を無情にも撃ち抜いた銃口が勇樹と杏樹に向かって鉛弾を放ってくる。このままでは大成だけではなく、勇樹と杏樹も危険だった。
「しっかり掴まってろよ、大成!」
 勇樹は自分の背中に、体格の良い大成の身体を何とか乗せると、必死で駆け出して木の陰に隠れた。杏樹もそれに続いた。

「大成、しっかりしろ、大成!」
 勇樹は地面に下ろした大成に向かって叫んだ。
「うるせーな…まだ一応…生きてるよ…」
 大成がそう呟く。しかし、大成の身体には先程の傷以外にも
横井翔(男子特別参加者)に撃たれた傷と大きな刺し傷(吉田晋平(男子20番)に刺された傷だ)があり、そこからも大量の血液が流失している。
 このままでは確実に、大成の身体は血液を殆ど失い、死んでしまうだろう。
「大成…」
「慌てるなって。どっちにしろ、放っといたらどの道死んでた。さっきっからずっとフラフラだったからな…」
 そこで杏樹が、言った。
「じゃあ、私が見つけたあの…血の痕は…」
「ああ…富森はあの血痕を辿ってここに来たのか。あれは俺の血だ。何だ…お前ら俺がいなきゃ会えなかったかもしれなかったのかよ…ハハハ…」
「軽口叩いてんじゃねぇ!」
 勇樹は叫んだ。
「お前、自分の状況分かってるのか!? 死にそうなんだぞ? なら喋るな! 体力を温存しろ!」
「バッカヤロウ、どの道死んでた命だぞ? ならこうやって、何かを守って死ねるだけ本望ってやつだよ」
 そして更に、大成は続けた。
「俺さ、お前に言われてからずっと…考えてた。自分は弱い人間なんだなってさ。だから…どうやったら強い人間でいられるか必死で考えた。そのうちに、死ぬかもなってくらいの大怪我して…思った。犬死したくないって。同じ死でも、人のために何かやって死ぬのとただ野垂れ死ぬのとどっちが良いと思う?」
「…」
 勇樹は答えられなかった。大成は更に続けた。
「どっちが良いか、もちろん分かるよな? 強さを持ったお前ならな…もちろん人のために何かやって死ぬ方だ。俺はどうせなら人のために…勇樹、強いお前のために死んでやりたかったんだ…」
 勇樹は、何も言えなかった。
 つい、大成を罵倒してしまったあの時から、大成は勇樹の言葉から様々なことを考え、その結論―今の状態に至ったという事実に何も言えなかった。
「お前は俺とは違って強いんだからな、富森を守ってやれよ?」
「でも…脱出も出来ないのにどうやって杏樹を守れって言うんだよ!」
 すると大成は、言葉を荒げた。
「馬鹿かお前は! やる前から諦めるな! そんなことじゃ、あの時の、お前が罵倒した俺と同じじゃねぇか! ふざけんな、お前まで弱くなるのは許さねぇぞ!」
 そう言ったあとで、大成はふっと眼を閉じた。
「俺の言いたいことはそれだけだ。後はお前らがやるしかないんだよな…正直」
 その姿に、勇樹は驚いた。
「ちょ、ちょっと待てよ大成! 死ぬなよ、死ぬんじゃねぇよ!」
「…うるせー、死に行く奴を引き止めてんなよ…」
 そして大成は一息ついた後、言った。
「…じゃあな、勇樹、富森」
 その直後、大成の胸の上下の運動が止まった。それはつまり、大成の呼吸運動が終わった…それは、立川大成という男の魂が現世から旅立ったことを示していた。
―えっ―。
 勇樹には最初、その現実が受け入れられなかった。
 最初に死んだ
三木元太(男子18番)はともかく、これまでに死んだ仲間、平田義教(男子16番)津脇邦幸(男子13番)城戸比呂斗(男子6番)はその死に様も死体も見ていないせいか、その死に現実味がなかなか湧かなかったのだ。
 だが大成は目の前で死んだ。しかも、自分と杏樹を庇って。
―皆死んだ…。仲間が皆…大成が俺を庇って死んだ…。
―さっきの奴が殺した!
「…出て来いクソ野郎! 俺がぶっ潰してやる!」
 勇樹はその場で、マイクロウージーを構え、大成の命を奪った銃声が響いた方向に向かって引き金を引き絞った。
 連続した銃声が辺りに響いたあと、その場に現われたのは、猟銃を手に持った
牧原玲(女子特別参加者)だった。
 勇樹は叫んだ。
「お前が大成をやったのか!」
「ええ…私がやったわ。そこにあと一人いるのかしら? ならあとは横井君ね」
「横井は俺が殺した」
「あら。ならこれが最終決戦ってわけね?」
 その言葉に、勇樹は首をかしげた。
 
横井翔(男子特別参加者)が死んでいるとしても、まだ白鳥浩介(男子9番)向井遥(女子18番)が残っているはずだ。
「牧原…まだ白鳥と向井が残っているんじゃないのか?」
 すると玲は答えた。
「残りの二人のうちの白鳥君…だったかしら? 彼は私が殺したわ。よりによってテロの真実とか何とか言って私を説得しようとしてたけど…何が言いたかったのかしらね」
―白鳥が…説得?
 ただやる気なだけだと思っていた白鳥浩介が玲を説得しようとしていた事実には、勇樹も驚いた。そして思った。浩介は実は悪とは言えないのかもしれない、と。
「後の一人も死体を見つけたわ。だから残りはここにいる三人だけよ」
―そうか。もう白鳥も向井もこの世の人じゃないってわけだな。それならこれが最終決戦だな。
「俺たちはお前なんかに負けたりしねぇぞ」
「それはこっちの台詞よ!」
 そしてその場に、連続した銃声と、一発の銃声が同時に響いた。

 男子12番 立川大成 ゲーム退場

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