BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第86話
ザパッ、ザパッ、ザパッ。
結構痛かった。しかし、死ぬほどじゃない。
寒い。真冬の今、この場所は凍えそうに寒い。
でも勝たなければならない。勝たなければならない。
それが今の自分に課せられた使命なのだろう。
罪を犯している、自分の使命―。
銃を取る。
そして、銃声が響いた。
牧原玲の猟銃から放たれた銃弾は、姫野勇樹と富森杏樹が隠れていた木を捉えた。木は、みしみしと軋み始めた。
勇樹も同時にマイクロウージーの引き金を引き絞ったが、雨あられと放たれた銃弾は一つも玲の身体を掠めることはなかった。
「杏樹、ここは危ない! ここを離れるぞ!」
「う、うん」
勇樹は杏樹を連れて、木の陰から飛び出した。玲が二人目掛けて猟銃を乱射してくる。
そして同時に、さっきまで二人のいた木が、折れて崩れ落ちた。そう、二人を庇って死んだ立川大成の亡骸をも巻き添えにして。
「大成の身体が…」
勇樹は呟いた。
「立川君の身体が…」
勇樹と杏樹のいる場所からは、大成の身体がどうなったかは全く見えない。しかし木の大きさから考えると、簡単に大成の亡骸は潰されてしまっただろう。
「大成…」
勇樹の身体が震えた。
最後の仲間だった大成。勇樹と杏樹を庇った大成。そして…最期に自分たちに言葉を遺した大成。
―富森を守ってやれよ?
もう一度、あの大成の声が蘇った気がした。
―大成―!
勇樹は玲にマイクロウージーの銃口を向けた。
「俺は勝つ! 勝って杏樹を守る!」
すると、杏樹も勇樹の持っていたワルサーを勝手に取り出すと、玲に構えた。杏樹の手が震えている。
「あ、杏樹! お前は戦わなくていい! 俺が杏樹を守ってやるから!」
だが、杏樹は答えた。
「勇樹に守られてばかりじゃ…駄目なんだよ。私も戦う。それに…」
一旦置いて、杏樹は言った。
「1対2の方が、有利でしょ?」
「…バーカ…よし、勝つぞ!」
勇樹は叫んだ。
「奴に勝つぞ! 勝って、俺たちは生きよう! 生きてやろう!」
そして勇樹はマイクロウージーの引き金を絞った。
ぱらららら。
またしても雨あられと銃弾が放たれる。そのうちの一発が、玲の右脇腹を掠め、玲が少し顔をしかめた。
―勝つ! 勝つ! 勝つ!
勇樹はひたすらに、玲に向けてマイクロウージーを撃ち続けた。背後では杏樹がワルサーを撃っている音が聞こえる。
すべては生きるため。仲間が全て死んだ今、残された杏樹と共に生き続けるため。そのために勇樹は撃ち続けた。
だが、終わりの時は近づいていたのだ。
玲が放った猟銃の銃弾が、杏樹の胸部を捉えた。崩れ落ちる杏樹の姿を、勇樹の眼は見ていた。
「杏樹ー!」
―奴が大成を殺した。そして杏樹を撃った!
「うおおおおーっ!」
勇樹はマイクロウージーのありったけの弾を玲目掛けて撃ち続けた。すると銃弾の殆どが玲の身体に吸い込まれていく。玲の身体が崩れ落ちた。
玲の身体はもう、動かなかった。
まだ勇樹は、マイクロウージーの引き金を引き続けていた。そして気付いた。玲が倒れていることに。
―勝った…のか?
―勝った。牧原に勝った。
「…!」
勇樹はすぐに、倒れている杏樹に駆け寄った。杏樹はまだ、生きていたが、その表情は死の間際の大成のそれと似ていた。
「ゆう…き…」
「勝ったぞ、俺は牧原に勝った! 俺たちは生きられるんだ! 脱出の方法をもう一度、一緒に探して! 二人で生きて帰ろう! な!?」
「ありがとう…でもね…私は…勇樹に会えただけで良かったよ…私は多分…死ぬと思うの…」
勇樹は叫んだ。眼にまた涙が浮かぶ。
「死ぬな杏樹! お前はまだ死んじゃいけない! 死なせない!」
「ごめんね…勇樹…私が最初、スタート地点で勇樹を待って、たら…ずうっと一緒に…いられたのに、ね…」
「これからも一緒だ! これで終わりになんかならない!」
「私もその、つもり…だけど…勇樹には生きててほしいから…だから…」
「さようなら、勇樹」
そう言って杏樹の眼は閉じられ、もう二度と開くことはなかった。
「杏樹…?」
勇樹は杏樹の口元に手をかざした。息をしていない。先程の大成と同じように。
「あ…杏樹ーっ!」
勇樹は泣き叫んだ。もう、全てを失った気持ちだった。
「最期の対面は済んだ?」
突如、勇樹の頭上から声がした。勇樹は振り返り、そして驚愕した。
そこにはさっき自分が倒したはずの玲がスミスアンドウエッソン357マグナムを持って立っていたのだから。
そしてその銃口は、勇樹の額に向けられていた。
「何故…生きている?」
「これよ」
玲はそう言って、自らの上着を剥ぎ取った。その下には、ごわごわしたチョッキがあった。
「防弾チョッキ。最初に神社で会った女の子…天野さんだったかしら? 彼女がデイパックごとこれを落としていったの。まあ、手とかには思いっきりあなたの銃弾を受けたけど」
「そうか。そのせいで生きてたんだな…。頭を狙っとけば良かったわけだ」
「そういうこと。それじゃ、私の優勝ってことだけど…言いたいことはある?」
勇樹は少し考えた後で、言った。
「ないよ。きっと杏樹と、向こうでもいられるだろうから」
「そう…」
「あっ、一つだけ。生き残ってから、幸せに暮らせよ」
玲は答えた。
「ありがとう…優しいのね」
「別に…生き残った奴に不幸に生きられちゃ敵わないからな」
「分かったわ。それじゃ…さよなら」
玲は引き金を引いた。すぐに勇樹の額に一つの穴が開き、勇樹の身体は杏樹の骸と重なるようにして崩れ落ちた。
こうして、姫野勇樹は生涯を閉じた。
玲はその場に立ち尽くしていた。
男子15番 姫野勇樹
女子12番 富森杏樹 ゲーム退場
<残り1人/ゲーム終了・以上岡山県大佐町立上祭中学校3年プログラム実施本部選手確認モニタより>