BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第87話
―もう、残ったのは自分一人…。
牧原玲(女子特別参加者)は地面に座り込んで、ゲーム終了のアナウンスを待っていた。
すぐ近くには折り重なって倒れる姫野勇樹(男子15番)と富森杏樹(女子12番)の亡骸がある。
二人の言動からして、きっと二人は恋人同士だったのだろう。そんな二人の未来を閉ざしたのは自分だと思うと、哀しくなった。
そして折れた木の下には立川大成(男子12番)の亡骸があるはずだ。
親友(言動からそう予想した)の勇樹とその恋人を庇って死んだその姿には、玲も少しばかり感動した。
「ごめんなさいね…私はまだ生きて、テロリストたちに復讐したいから…」
玲はそう呟きながら、あのテロで亡くした仲間たち―養護施設の仲間たちを思い出していた。
―私にいつも優しい言葉を掛けてくれたお母さん。
養護施設の仕事に追われてても、片時も私のことを忘れたことはないって言ってた。
いつか言ってくれたよね、「お母さんは玲のことが大好きだからね。大事な大事な、たった一人の子供だからね」って。
私、そんなお母さんが大好きだったよ。
「大好き」なんて言葉、もう掛けてあげられないけど。
―私の一番の友達だった、秋吉翔子(あきよししょうこ)。
いつも一緒にいたっけ。
でも彼女もあのテロで、吹っ飛ばされてしまって死体も見つからなかった。きっと、それぐらいグチャグチャになってしまったのかな?
―乱暴者だった、沖原浩一(おきはらこういち)君。
でも私は、浩一君が本当は優しいんだってこと知ってたよ。
だって親がいないからって仲間がいじめられると、いつも相手に仕返しに行ってた。
そんな君も、結局あの時見つからなかった。君の死体が見つかったのは、テロの一週間後だったかな?
―気が弱くて、皆の前で何も言えなかった野口利洋(のぐちとしひろ)君。
でも君は、絵が凄く上手だったよね。
いつだったか、君に絵を教えてもらったとき、私が「凄いね、野口君」って言ったら、凄く嬉しそうな顔してたのを覚えてる。
「僕、画家になりたいんだ」
そんなことを言ってた。
でも君の夢はもう、永遠に叶わなくなっちゃったんだよね。
―そして、谷司郎(たにしろう)君。
君は仲間の間でも人気者だったよね。
誰とでも話せて、優しくて…私ともたくさん話をしたっけ。
私、実は司郎君のことが好きだったんだよ? 小学生の頃の、ほんの他愛もない恋心だったけど。
でも私はこんな身体になってから、君より好きな人を見つけられないよ。
私の心もやっぱりあのテロから、病んでるのかな?
教えてよ、翔子。
教えてよ、沖原君。
教えてよ、野口君。
教えてよ…司郎君…。
私は…牧原玲は…人間じゃなくなっちゃったのかな…?
変だよね…ついさっきまで、皆を殺したテロリストたちが滅ぼせるんなら私がどうなったって良いって…思ってたのに…。
さっきの二人を見てから…なんか変だよ…。
人間以外のものに自分が変わっちゃいそうなのが…嫌だよ…怖いよ…。
その時、だった。
「牧原玲さん」
尾賀野の声だ。そうだ。ゲームはもう終了したのだ。
しかし、尾賀野の一言は、玲の予想していないものだった。
「残念だけど、後一人生徒が残ってるよ。その生徒と戦って勝たないと、優勝にならないからね」
―どういうこと? まだ生きている生徒が?
―そんなバカな! 一体誰が生きているの?
―既に生き残っていたうち私を除く全員が死んだはずなのに…、まさか横井君?
―しかし、彼は姫野君が殺したと言っていたし…。
玲が様々な考えを巡らせている最中、一つの銃声は響いた。
その銃声と共に飛んできた銃弾を、玲は避けることも出来ずに左肩に受けた。
「くう…っ」
玲はすぐに立ち上がり、銃弾の飛んできた方向に目をやった。そしてそこにあった信じられない光景に、玲は眼を疑った。
自分が殺したはずの男、白鳥浩介(男子9番)が全身水に濡れた状態で、玲に向けて拳銃―それはあの時、浩介が持っていたコルト・ガバメントとは違う銃―板橋浩美(女子2番)が使っていたブローニングハイパワーが握られていた。
「そんな…何故あなたが生きているの…私が殺し、その身体は川へと落ちたはずよ! 事実、あなたの胸からは大量の血が出ていた! この真冬の川に落ちれば普通は死ぬわ! 何故生きているの…」
「全ては、君と同じからくりさ」
浩介は言った。
「俺も防弾チョッキを着ていたんだ、残念だったな。血は集落にあった店で手に入れたトマトジュースをビニール袋に入れて胸に仕込んでおいたんだ。しかし君ほどの優秀な人物が相手の頭を撃ち抜いて確実に殺そうとしなかったあたり、俺は運が良いのかもしれない」
―何故だ? 防弾チョッキは確かにあの時、天野洋子(女子1番)のデイパックにあった。支給武器が同じものということは有り得ない! 何故だ!
「何故防弾チョッキを俺が手に入れたか、分からないって顔をしてるな」
浩介はまるで玲の考えを読んだかのように言った。
「これはボーナスアイテムらしいんだ。C−10エリアに偶然立ち寄った際に手に入れた。あそこには地図にも書いてあるある建物が建っている。何か分かるか?」
「…! まさか…」
「そう。専守防衛軍の基地さ。この会場の一部に、専守防衛軍の駐屯地の一部が入っていたんだ。俺がそこに辿り着いたのも、偶然それを発見したのも、まさしく俺の運が良かったからだな」
玲は愕然とした。浩介の、とてつもない強運。そしてその浩介の頭を撃たなかった自分のミスに、愕然とした。
「まあ、良かった。俺はまだ、君に言ってないことがあるんだから」
浩介は一旦話を止めると、また話し始めた。
「五年前のテロの真相を…今度こそ語らせてもらおう」
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