BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第88話

「横井には結局、全部は話せずじまいだったが…君には話しておかなくてはいけない」
 浩介は憂うような顔つきで、玲に向かって言った。
「テロの真相…? 以前も言ったはずよ! あれは「紅の星」の手による無差別テロ! それが真相! あなたの言うことには何一つ証拠がないわ! 「紅の星」の犯行予告文とやらもここには無さそうじゃない?」
 玲は叫んだ。だが、実際のところ、浩介の雰囲気に圧されていた。
 浩介の醸し出しているその雰囲気は、もはや男子中学生のそれではなく、玲すらも軽く飲み込んでしまいそうな、そんな雰囲気だった。
「確かに犯行予告文は俺はここに持ってきていない。それが必要になるとは思っていなかったからね。だが…テロについて教団が独自調査した際に手に入れたものがあるよ、これだ」
 そう言って浩介は、玲の目の前に、一つの金属片を示してみせた。
「これは広島でのテロの際に使用されたと思われる爆弾の破片だ。これの表面をよく見てみるといい」
 玲は、そんなものは無視するつもりだった。だが、身体は自然とその金属片の表面を見ていた。
 そこには、こう刻印されていた。

『Daitoua−su−ko−5』

「君ならそれが何か、分かるはずだ」
 玲は、眼を疑った。この刻印。それは―、
『大東亜崇高5号』。
 大東亜共和国が誇る、最強の威力を持つ爆弾の名称だったのだ(実物を見たことがあるからよく分かっていた)。
 それがテロ現場で見つかったということは―。
「分かったかな? あのテロは大東亜崇高5号を使用して行われたテロということになる。しかもこの爆弾が使用されたと思われる広島のテロと同じだけの爆発が他の地方都市などでも起きている。これが意味するものは何か? それは―あのテロが国家の手による反政府組織を殲滅するための陰謀だったということだ!」
―そんな…!
 玲は、愕然とした。
 今まで恨んできた神保義郎たちがテロを行ったのではなく、玲が信じてきた政府がこのテロを…!
 だが玲はそれでも、一抹の望みを託した疑問を投げかけた。
「しかし…なら理由は? 政府がそこまでの大量虐殺を行う動機は?」
「簡単なことさ。さっきも言ったように反政府組織にこの罪を擦り付けて、邪魔な反政府組織を潰すため。これだけの被害が出るテロを反政府組織が起こしたとなれば、国民の怒りは皆反政府組織に向き、彼らは活動が出来なくなる。そして国民は政府のやり方の矛盾に眼を背けることになる。結果的に政府にとっての唯一の脅威が無くなるのさ」
「しかし…国民が死んだりしたら…国が成り立たなくなる! それは政府にとっても不利なだけじゃないの!?」
 だが浩介は更に続けた。
「政府のトップのイカレた連中には、国民がたくさん死のうが関係ないのさ。政府のトップの奴らにとっては自分たちの利権の方が大事。下の奴らも逆らったらどうなるか分からないから逆らわない。モットーは長いものには巻かれろ。全く腐った国だ」
「そんなことが…嘘…」
―政府があのテロを起こした―?
―それじゃ、神保義郎は…!
 浩介はまたしても、玲の考えが分かったかのように言った。
「そういうことだ。義彦も被害者だった。しかもあいつは、もともとテロリストになんかなりたいと思っていなかった」
「あ…あああ…」
 玲の身体が、カタカタと震え始めた。
 絶望した。自分の行い全てが否定された気がした。しかし自分は罪を犯した。
 無実の人間を―神保義郎を殺した。本当の犯人は、自分のすぐ傍にいたことに気付かずに。
「牧原…確かに君は無実の人間を殺した。しかしそれは政府に踊らされていただけのこと。君に落ち度はないんだよ。俺がこの国を変えてやる。君や横井、そしてこのクラスの全員のためにも…だから…」
 そして浩介は玲に向けてブローニングハイパワーを構えた。
「もう、ゆっくり休んでいいんだ」
 浩介がブローニングの引き金を絞り、放たれた銃弾は正確に玲の眉間を撃ち抜き、玲の脳を破壊した。
 玲の身体は後ろへとゆっくり傾き、そのまま地面に倒れこみ、動かなくなった。
 こうして牧原玲という、一人の少女の魂は仲間のもとへと旅立った。
 浩介はそんな玲の亡骸をじっと見据えていた。
 そしてその直後、ゲーム終了を告げるアナウンスが始まった。

 女子特別参加者 牧原玲 ゲーム退場

<残り1人/ゲーム終了・以上岡山県大佐町立上祭中学校3年プログラム実施本部選手確認モニタより>


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