BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
―時田さんの後は、あなたに話を伺いたいのですが…。
―あっ、別に構いませんよ? そうですね…あの人が初めて僕たちの前に現れたのは…五年前の暮れでした…。
エピローグ2〜瀬古貴史の証言〜
2017年、東京郊外のある講堂。そこが何の講堂なのかは瀬古貴史(24歳・瀬古雅史(岡山県大佐町立上祭中3年男子10番)の弟)には分かっていなかった。だがとにかく貴史はそこに来た。
この日、ここで貴史たちのリーダー、時田裕司(ついこの間までリーダーは米帝にいたので会ったことはないが)が話を行うというのだ。だが、非合法の反政府組織である自分たちがこのような講堂で話ができるというのは、一体どういうことなのか。
「時田さんは一体、何でこんな所で話をするんだろうな」
隣に立っていた、貴史の恩人であり仲間の世良涼平(34歳・世良涼香(女子9番)の兄)が言った。
貴史は2001年のテロの際、植物状態となった。そして5年後に目覚めた。その時初めて知った。兄の雅史がプログラムに巻き込まれ、反抗した両親も死んでしまったことを。そして兄は…無言の帰宅をした。
貴史は5年間の眠りから目覚めたばかりで上手く動かない身体をおして葬式に出た(喪主は父方の祖父がやった)。
その時に雅史の顔を出棺の際に見た。そして思った。
自分が眠ってしまってから5年…兄の顔は思春期を迎えたこともあってか、自分の記憶にある兄の顔とは違っていたことに。
それを知ると貴史は無性に悲しくなった。さらに、雅史が死んだまさにその頃、貴史は眼を覚ましたことを知ると、涙が溢れて止まらなかった。
何故なら目覚める寸前、貴史は兄の夢を見たのだ。寂しそうな顔をした兄が…自分に「父さんと母さんを頼む」と言って、消える夢を(両親は既に死んでいたのだが、兄はそれを知らなかったはずだ)。
貴史は悔しかった。プログラムさえなかったら、いずれ自分と兄、両親は一緒にこれからも生きていけたはずだったのだ。だが兄も両親も、プログラムが―政府が奪った。
それ以来貴史は、政府を恨み続けた。それから貴史は必死でリハビリで運動機能を取り戻し、眠っている間に遅れた勉強も取り戻した。
そして貴史が退院したとき、何故か貴史を引き取りたいと言ってきた人がいたのだ。
それが世良涼平だった。
涼平から貴史は様々なことを聞いた。涼平の妹も、貴史の兄と同じプログラムに巻き込まれて死んだこと。
色々あって、10歳のときに妹は家出し、その時に鑑別所に入っていた自分(理由はそれも妹絡みだということだ)に会いに来たこと。
そしてそれ以来会うことは滅多になかったが、妹のことはいつも心配していたこと。
そして鑑別所を出て数年した頃、妹が死んだことを聞かされたこと。
―同じだ、と貴史は思った。
涼平も貴史と同じ気持ちを味わったはずなのだ。そして涼平が、反政府組織の「大東亜解放戦線」の日本支部(リーダーのいる本部は米帝にある、と聞かされた)のメンバーだと知った貴史は言った。
―僕も入れて下さい、と。
あれから10年近く経った。貴史ももう20歳を過ぎ、軽く兄の年齢を超えてしまった。
「まあ、今度の計画と関係があるんだろうな」
涼平が呟いた。
そう、この大東亜共和国を覆すための計画をリーダーが立てたと訊く。ならば今回は、それに関連した話を行うのだろう。
「本部は、何人ぐらいメンバーがいるんでしょうかね、涼平さん」
「さぁな。まあ俺たち支部と合わせれば千はいくんじゃないか?」
「そうですね…」
そんな話をしながら二人は講堂の中に入った。中には支部の知った顔や、見たことのない顔(おそらく本部のメンバーだろう)が何人もいた。
「おーい、貴史、世良さん」
そう言って声を掛けてきたのは、同じ組織の仲間の谷司郎(27歳・牧原玲(女子特別参加者)の仲間の一人)だった。
司郎はあのテロ当時孤児院にいて、あのテロで大怪我を負ったものの、奇跡的に無事だったそうだ。しかし他の孤児院の仲間たちは遂に見つからなかった。
そしてその後、仲間の生き残りの一人が専守防衛軍の兵士となって、テロを起こしたと思われていた反政府組織らを壊滅させようとしていたという話を聞いた。
そしてその仲間は、貴史の兄や涼平の妹が参加したプログラムに特別参加者として参加し、死んだのだそうだ。
司郎は以前言っていた。
―俺のせいで、彼女は道を誤ったんだ。俺が…俺だけでも生きていると知っていたら、彼女は道を誤らなかったかもしれない。俺は彼女を―初恋の人の人生を狂わせた。その贖罪のために俺はここにいるんだ。
そうではない、と貴史は言いたかった。しかし、言えなかったしそれ以前にそんなことを言っても結局司郎は自分を責め続けると思っていた。
そんなことを思っていると、ふいにざわついた声が止まった。
「時田さんが出てくるぞ」
司郎が呟いた。
そして講堂のステージに、彼は―時田裕司は立った。その姿は30代に見えたが、雰囲気はもっと年上の大人の雰囲気だな、と貴史は思っていた。
裕司は、壇上のスタンドに立てられたマイクを取って、言った。
「えー…皆さん。今回、我々のような非合法の組織がこのような立派な会場で話を出来るのには訳があります」
―訳…?
貴史は思った。
「今回、我々はこの大東亜共和国の体制を覆す計画を実行に移すことになりました。だが、装備も戦力も政府を相手とするには不足しています」
会場中がしんとなった。だが裕司は続けた。
「しかし今回ある人物から、資金と戦力、装備を提供してもらうことになりました。その人物は僅か26歳ではありますが、私はその人物を信用してみることにしました。それでは、その人物の登場です」
そう言って裕司がその場から退き、代わって一人の男が現われた。
「初めまして。私は…白鳥浩介と申します」