BATTLE ROYALE
最後の聖戦


エピローグ3〜最後の聖戦〜

 2017年12月24日深夜。大東亜共和国の中心ともいえる、総統官邸。
 そこが見える場所に、密かに集まっていた軍団があった。
 そう、「大東亜解放戦線」のメンバーたちだった。
「よし、それではこれから作戦の概要を話す」
 その軍団の中心にいた男、時田裕司が言った。それを訊きながら、その場にいた瀬古貴史は手に持ったアサルトライフルをぎゅっと握り締めた。
 先日の集まりで現われた男、白鳥浩介のことはよく知っていた。
 兄の
瀬古雅史(男子10番)や、今も隣にいる世良涼平の妹、涼香が死んだプログラムの優勝者。そして同時に、今や全国に支部を持つ「呉道教」の教祖。
 しかしそんな男が何故今目の前に現われ、しかも自分たちに協力するのかが貴史には分からなかった。
 それは涼平や、谷司郎なども同じだったはずだ。
 だが浩介は壇上で語った。

―…かつてのあのテロで呉道教が壊滅寸前になり、自分が10歳にして教祖になったこと。そしてこの国を変えることを誓ったこと。
―…プログラムに巻き込まれることを知り、国を変えるために生還する道を選んだこと。
―…そして優勝、数々の罵声、そして嫌がらせに遭いながらも教団の活動を必死に続け、教団の規模も莫大な財力も手に入れたこと。

 そして彼はその場で最後にこう言ったのだ。
―きっと誰も私を許してくれる者はいないはずです。誰もが私を憎み続けるのだと思います。でも私はこの国を変えたいのです。それがこの手を血に染めた私の役目です。
 気付けばその場にいた誰もが、彼の言葉に感銘を受けていた。だからこそ誰もが彼の協力を受け入れたのだ。

 裕司が作戦の概要を話し終えた。
 その作戦とは、「大東亜解放戦線」メンバーと呉道教信者を足して三手に分け、一方が総統官邸、もう一方が専守防衛軍本部、さらにもう一方が警視庁を制圧する作戦だった。
 貴史、涼平、司郎は裕司、白石京介、青山彰子ら一部の幹部と共に総統官邸組となることが決まった。
 その時、裕司の隣に座っていた浩介が言った。
「時田さん…私も総統官邸に連れて行ってはくれませんか?」
「え?」
「なに…今の総統は私と深い因縁のある人なので…最期の挨拶を、と思いまして…」
 裕司は少し考えた後、言った。
「いいでしょう」
 12月24日、23時12分作戦開始―。

 その頃、総統官邸。
 執務室にて、一人の男…総統が窓の外を眺めていた。そこに一人の男が入ってきた。
「総統…そろそろ…お帰りになられたほうが…」
「いや…まだいい…」
 総統は呟いた。
 その言葉を訊くと、男は礼をして執務室を出て行った。
「……」
 総統はまだ、外を眺めていた。
 何時からこの国は、そして私は、狂ってしまったのだろうか。先天的なものだろうか? それとも後天的に? だとしたらどこから? 答えの見つからないこの問いについて、総統になってからいつも考えるようになった。
 10年前に一人、そして5年前にもまた一人、旧友が自分のもとを離れて行った。今では連絡も取れないままだ。
 二人はこの国が既に腐っていることが分かっていたのだろうか? 10年前に離れた旧友は、政府のあの陰謀以来、沈んだ表情が増えていた。 その後仕事を辞め、一人で音楽の仕事を始めていた。その時は連絡しあっていたが、翌年からは連絡がつかない。
 5年前に離れた旧友は、自分が総統になろうと思う、と告白した1週間後にいなくなった。何も言わなかった。
 彼もまた、この国のいかれた部分を、腐ってしまった患部を見たのだろう。気付くのが自分より早かっただけだ。
 もし自分の方が早く気付いていたら、自分が彼で彼が自分になっていたのだろう。
 もうこの国は戻れないところまで来ている。国体護持のために国民を犠牲にするような国はもう、崩れるしかないのだろう…。
 その時だった。さっき出て行った男が(自分の秘書だ)勢いよくドアを開けた。そして男は叫んだ。
「そっ、総統! テロリストです! テロリストが…」
 秘書はそこまで言うと、もう何も言わなかった。直後に執務室に飛び込んできた男のアサルトライフルによって、その頭部を消失させられてしまったのだから。
 崩れ落ちる秘書。その光景が彼には、客観的な映像に見えた。自分の目の前で起こった出来事に見えなかった。
「総統だな? この国を変えるために、その命をもらおうか」
 秘書を殺した男(30代のようだったが、その口調はまだ若さを残していた。ちなみにこの男が白石京介だった)が言った。自分に向けられたアサルトライフルの銃口。ようやく彼は事情を理解した。
 だが彼は冷静だった。男に彼は訊いた。
「リーダーは誰だい?」
「…リーダー」
 男は後ろに立っている男に言った。男は返した。
「ここは、彼に出てもらおう」
 そう言うとリーダーらしき男は引っ込み、代わりに別の男が出てきた。彼はその男のことをよく知っていた。
「…白鳥君」
 彼…尾賀野飽人(現・大東亜共和国総統)は呟いた。
 忘れもしない、11年前に今は離れてしまった旧友―彬合晴知と共に担当したプログラムの優勝者で、呉道教教祖。
 そう、そして私の前でこう言った。
―俺は全ての決着をつけるからな。いずれ…全てを終わらせる。この国の国民のために…そして、このクラスの皆のために。
 そう言った少年―白鳥浩介が11年の時を経て再び、尾賀野の前に現れたのだ。
「久しぶりだな」
「ええ…本当に久しぶりですね」
 浩介は淡々と答えた。その表情からは、彼の感情の起伏が読み取ることが出来ない。11年前と比べるとそれは成長といえるのだろうか?
―いや、言えない。
 尾賀野は思った。
 おそらく浩介は、感情を封印することを覚えてしまったのだ。だから今、尾賀野は浩介の感情を読み取ることが出来ない。
 それは人間にとって、正しい成長とは言わないものだと、尾賀野は思っていた。
「あなたが総統にまでなるとは…思ってもいませんでしたよ。あなたもそれなりに苦しんだんじゃないですか? あなたはまだ、他の馬鹿な連中と比べると幾分か賢いはずですから」
「まあ…な」
 尾賀野は言った。
 苦しんだ。確かに自分は苦しんだ。トップに上り詰めるのは夢だった。この国の将来のことを真剣に彬合や比良玉と話し合った日もあった。
 だが全ては幻想だった。この国は腐りきっていて、もはや施しようがなかった。それでも自分はトップに拘った。まだ変えられる気がしていた。そう信じていた。
 しかし現実は甘くなく、自分は跳ね返された。やがて比良玉、彬合が離れて行き、最後は自分一人になった。
「俺はもう、この国の暗部を見すぎたよ。もう…耐えられないだろうな、これ以上は」
 尾賀野は浩介に向かって、そう言った。それは尾賀野が全てを諦めたことを示した。
「さあ、全てを終わらせろ」
 そして浩介が拳銃を(あのプログラムの時に最後、
牧原玲(女子特別参加者)を撃ったのと同じブローニングハイパワーだった)抜き、尾賀野に向け…その引き金を絞った。
 一つの銃声と共に、額を撃ち抜かれた尾賀野の身体が崩れ落ちた。
 やがて、専守防衛軍本部、警視庁を完全に制圧したとの情報が入った。

 こうして、大東亜共和国最後の総統、尾賀野飽人は死んだ。
 そして、大東亜共和国は崩壊した…。


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