BATTLE
ROYALE
〜 誓いの空 〜
第10話
辺りを森に囲まれた、F−6に立つ廃屋。
その廃屋の部屋の一つに、石城竜弘(1番)は壁にもたれかかりながら窓の外の夜空を眺めていた。
夜空には無数の星が輝いていて、雲ひとつ無さそうだ。
そっと竜弘は、右手に持っている携帯端末の液晶画面に眼を落とした。最初は何なのかさっぱり分からなかったが、この廃屋についてから説明書をよく読んで、大体のことは分かった。
この携帯端末は、探知機なのだ。今竜弘の首にも着いている忌まわしい首輪に反応して、近くに誰がいるかを探知してくれる。ただ、死んでいる人間と生きている人間の区別がつかないことと、その相手が誰かまでは分からないことが難だったが。
今のところ、この周辺に自分以外の生徒はいないようだった。
―雄一…マッシー…早く来いよ…何やってんだよ…。
未だに佐野雄一(4番)と鈴木政仁(5番)は現われない。とっくに出発しているはずなのに、未だに現われない。
「信じなきゃ…駄目なんだよ…人を信じられなくなったら、人間おしまいなんだよ…」
思わず、口をついて出た。
もしかしたら、雄一と政仁は自分を裏切ったのかもしれない。そんなことを考えてしまう自分がどうしようもなく哀しくて、哀しくて、しょうがなくなる。
―でも俺は待つ。絶対に。あいつらを待っててやる。あいつらは俺の親友なんだ!
その時、探知機に二つの反応が現われた。
―まさか!
竜弘は慌てて立ち上がった。同時に、廃屋のドアが叩かれた。
「おーい、竜弘。俺だ、雄一だ! マッシーも一緒だ! 中に入れてくれ!」
竜弘は玄関へと向かい、そのドアを開けた。そこには確かに、日本刀らしきものを持った雄一と、右手に味の素の瓶を持った政仁の姿があった(ちなみにそれぞれが持っていたのはそれぞれの支給武器だった)。
「バカヤロウ…遅ぇじゃねーかよ…何やってたんだよ…」
竜弘は雄一と政仁の肩を掴み、言った。雄一が言った。
「悪かったな…実は、スタート地点に血の痕があってな。何かあったんじゃないかってマッシーと考えてたんだ。…それで、遅くなった」
「血の痕だと?」
竜弘は二人を自分がいた部屋に招きいれながら訊き返した。確かそんなものは、自分が出発したときにはなかったはずだ。
「多分…俊希か草川のだ。死体がなかったから、どっちも死んではいないと思うけど…」
政仁が言った。
「少なくとも、やる気になった奴がいるってこと…だよな? 竜弘?」
「悔しいけど…そうなるんだろうな」
「でも…誰がやったんだ?」
雄一が呟いた。そこで竜弘は自分なりに考えてみた。
可能性としては山吹志枝(14番)か吉岡美佳(15番)は有り得そうだが…竜弘が出発した時点で、あの辺りに人の気配はなかった。この二人は銃声の持ち主でないと判断していいだろう。
―じゃあ、誰が?
竜弘はこれ以上、考えが思いつかなかった。その時、雄一が言った。
「なあ、そろそろ仲間を探しに出てみないか?」
「ああ、そうだな…俺のこの探知機で、近くに誰かがいるかどうかが分かるしな…ん?」
そこで竜弘は気が付いた。この廃屋に、一人、誰かが接近しているのだ。
「誰か、来る」
「…誰だ?」
そして廃屋の前でその首輪の反応が止まった。その時、竜弘は何かの視線を感じた。それは、氷のように冷たい視線…。
嫌な予感が、した。
「雄一、マッシー…荷物をまとめて出るぞ。嫌な予感がする…」
「え…」
政仁が何かを言おうとした瞬間だった。
突如、小気味良い連続した銃声と共に部屋の窓ガラスが割れ、砕け散った。
「な、何だ!?」
「分からん、誰かがここを襲ったんだ、逃げるぞ!」
竜弘はそう言って、雄一と政仁を促して玄関から外に飛び出した。そしてそこで、さっき割れた窓の傍に、マシンガンらしきものを右手に持った人物がいた。しかし、その顔は暗くてよく分からない。
だが、月の明かりに照らされて、その襲撃者の顔が少しずつ見えてきた。
それは、竜弘も、雄一も、政仁も、三人ともが全く予想していなかった相手だった。
クラスで唯一と言っていい、短く刈ったスポーツ刈りの頭、切れ長の眼。そう、それは竜弘が信用の置ける人物としていた、大谷俊希(2番)の姿だったのだ。
「と、俊希…お前…」
竜弘は俊希に向かって言いかけた。だが、その言葉も途中で遮られた。何故なら、俊希は相手が竜弘たちだと分かっても表情一つ変えず、マシンガンの銃口を三人に向けてきたのだ。
「逃げろ!」
竜弘が叫び、駆け出す。雄一と政仁もそれに続く。そしてそれと同時に、俊希の手の中のマシンガンが火を噴いた。
タララララッ!
再び小気味良い連続音が鳴り響く。静かな森の中だけに、その音は余計によく響いた。
俊希が三人を追ってくる。だが三人は少なくとも、俊希よりは足は速かった。俊希の姿がだんだん遠ざかる。
―よし、逃げ切った―。
竜弘がそう思った瞬間だった。
何かが、竜弘たち目掛けて飛んできた。それは表面がゴツゴツした何か…パイナップル型手榴弾だった。
―何!?
竜弘は失念していた。さすがに俊希が手榴弾を持っているとまでは思っていなかったが、俊希は足は速くないが、肩の強さなら県下トップクラス。遠投ぐらい簡単なのだ。
「しまった…!」
竜弘が雄一と政仁に逃げるよう指示する寸前で、手榴弾は地面に着地し、そして破裂した。
「ぐわっ!」
竜弘は爆風に吹き飛ばされ、山の斜面を転がり落ちた。先程までいた場所からはどんどん遠ざかっていく。
―くそっ! 雄一…マッシー…!
そして竜弘は祈った。二人が無事であることを。
<残り15人>