BATTLE ROYALE
誓いの空


第11話

「ううっ…竜弘…マッシー…?」
 
佐野雄一(4番)は、大谷俊希(2番)の起こした爆発の後すぐにその身体を起こした。辺りは爆風でボロボロで、森の木などは原形を留めていなかった。
 雄一の身体は幸い、それほど酷い傷は負っていなかったのだが…。
「マッシー!」
 
鈴木政仁(5番)は雄一のすぐ傍に倒れていた。しかし、どうやら一番酷く傷を負ったらしかった。
「ゆ、雄一…? 無事か? …竜弘は?」
「俺は大丈夫だ。でも、竜弘が何処にいるか…」
「そうか…」
 二人が話している時だった。三人に手榴弾をくらわせた男―大谷俊希が現われたのは。
 俊希の眼は、このプログラムに巻き込まれる以前の、無愛想だが優しさのある眼ではなかった。冷たく、暗い、そして何か悲壮な決意を感じる眼だった。
「俊希…お前…どうしちゃったんだんだよ…?」
 雄一は尋ねた。だが俊希は何も言わず、雄一と政仁に向かってマシンガンの銃口を向けた。鈍く銀色に光る銃身が、闇に非常に映えていた。
「なあ…何でこんなことをするんだよ? 何で!」
「…所詮俺が、その程度の人間だっただけだろ」
 俊希がボソッとそんなことを呟いたのが、雄一には聞こえた。
「何だと!?」
 雄一には、俊希の真意が掴みかねた。俊希は一体何を思っているのか、それがさっぱり掴めなかった。そんなことは殆ど無かったことなのに。
「俺を軽蔑してくれても構わない。俺は人からどうこう言われようと、もう決意は揺らがない。…もう決めたことだ。さぁ…」

 僅かな、間。

「死んでくれ」

 そう呟いた俊希が、マシンガンの引き金を引こうとしたその時、政仁が俊希に向かって動いた。
―マッシー!?
「うおらぁぁぁ!」
 政仁は雄一が初めて聞く咆哮を上げると、俊希のマシンガンを持った両手にしがみついた。突然の政仁の行動に、俊希も驚いた様子だった。
「マッシー…お前何してんだ!」
「雄一、逃げろ…」
 政仁が雄一の方を見ることなく、言った。
「…え?」
「間違いなく俊希はやる気だ…。これじゃ俺もお前もやられる…。だから…逃げてくれ、雄一…」
 政仁の声が、だんだん力を失う。傷が、彼の体力を蝕み始めているのだ。
「でも…」
「お前は、竜弘を、探せ…。それで、皆で脱出して、くれ」
「ふ…ふざけんな! 死ぬな! 死ぬんじゃない! マッシー!」
 俊希が腕を振り回す。力を失っていた政仁の身体が硬い土の地面に叩きつけられた。
「俺の…邪魔をするな」
 俊希がマシンガンの引き金に掛けられた人差し指に力を込める。
「やめろ、やめてくれぇ! 俊希ぃ!」
 連続した銃声が響き、同時に政仁の身体から飛び散る血飛沫。びくん、と政仁の身体が跳ね、動かなくなった。身体の下から染み出す血。
 死んだ。政仁が死んだのだ。
―マッシーが? 何で…何でマッシーが死ぬんだ!? 何であいつが死ななきゃならない? 何で!
 そして政仁を屠った俊希は、再び雄一のほうを向いた。その顔に、夏服の開襟シャツに飛び散った、政仁の血飛沫。

 確かに俊希は、政仁を殺していた。

「次は雄一…お前の番だ」
 俊希が淡々とした口調で言った。まるで、政仁の死すら他人事のように。
「俊希…!」
 雄一は、まだ右手に持っていた日本刀を握り締めた。
―殺してやる。マッシーをこいつは殺したんだ! 許せない、殺してやる!
 だがその時、死ぬ前に政仁が言ったことが、脳裏を過ぎった。

―お前は、竜弘を、探せ…。それで、皆で脱出して、くれ。

―そうだ、マッシーは俺が人を殺すのを望んでなんかなかった。なら俺は…? そうだ、竜弘を…!

―竜弘を、探そう。

 雄一はすぐに、踵を返して走り出した。背後から俊希が追ってくる音が聞こえたが、無視した。また手榴弾が飛んでくるかもしれなかったが、構わなかった。
―俺は竜弘にもう一度会う! そして皆で…脱出するんだ!
 幸い、俊希の足音はだんだん遠ざかっていった。

 やがて雄一を追うことを諦めた俊希は、立ち止まった。
 竜弘と雄一を仕留めるのには失敗したが、政仁だけでも倒せたのは収穫だった。正直、政仁の抜群の運動神経は場合によっては脅威になると思っていた。
「…仕事は片付いた。戻るぞ」
 突然そう言うと、俊希は森の中に姿を消した。

 5番 鈴木政仁 ゲーム退場

                           <残り14人>


   次のページ   前のページ  名簿一覧  生徒資料  表紙