BATTLE
ROYALE
〜 誓いの空 〜
第20話
―私は…何もできなかった…。
山口県にある、一軒の家。そこの一室に、笹川恭子(元山口県立殿場中学校3年1組担任教諭)は、座り込んでいた(そこは恭子の実家だった)。
ちょっと前に、2組の生徒の原井康幸たちに言われた言葉が、まだ恭子の心に突き刺さっていた。
自分のクラスがプログラムの対象クラスに選ばれた。
そのことを知らされた時には愕然とした。何故、あの子達が選ばれなくてはならないのか。そんな思いが頭を過ぎるばかりだった。
そしてガシシ若松とか名乗ったあの男が、自分に1組のプログラム参加を承諾するように言ってきた。
承諾なんか、できるはずが無かった。でも、過去にプログラム参加を承諾しなかった担任教諭がどうなったかは、恭子もよく知っていたのだ。
皆、国家への反逆として、そして生徒たちへの見せしめとして…殺される。
恭子は全てを承諾した。心に無い言葉まで残さざるをえなかった。
―私は生徒たちを助けたかった。しかし、自分一人に何ができるというの?
そして兵士たちの船で、プログラムが始まる前に本土に送られた。そして島民たちがいる体育館へと向かった。
そこで待っていたのは、康幸たちからの責め。辛かった。しかし、自業自得なのも分かっていた。
―どうしよう…私はどうすれば…。
その時だった。部屋に恭子の母が入ってきた。
「恭子、お客さんだよ」
「…え?」
―誰? こんな時に…。
そんなことを思いながら、恭子は玄関へと向かっていった。そしてそこに、見覚えのある顔があることに気が付いた。
「笹川…恭子さんですね?」
「あなたは…」
そこには、同じ島民で、正直どんな人だかよく分からなかった人物、貞川永次の姿があったのだ。
「生徒たちを救えなかったあなたのその気持ち…お察しします。今回、あなたに話がありまして…」
「何の用でしょうか」
ついつっけんどんな対応になってしまった。だが、貞川永次は別に気にしていないかのように、続けた。
「実は…あなたにも私にも、微力ながらできることがある、とお教えしようかと思いまして…」
「えっ…!? それは一体…」
恭子は話に食いついていた。
気になってしょうがなかった。永次が何を考えているのかが。
そして永次は話し始めた。
「…それって…!」
「かなり危険な行動になります。発覚したら大変ですが…どうします? おやりになりますか?」
「……」
危険なのは分かった。正直、この家に戻ってこれるかも分からない。それでも、恭子は意を決して言った。
「分かりました。やります」
「そうですか。それでは荷物をまとめてください。今すぐ出発します。今のうちにご家族の方とお別れをしておいてください。危険ですから…」
「はい…」
恭子はすぐに、両親がいる居間へと向かった。そこでは、二人が座っていた。
「お父さん、お母さん、私…しばらくここを出ます。もしかしたら…帰って来れないかもしれません」
すると、父が微笑んで言った。
「お前の可愛い生徒たちを助けに行くのか? …頑張ってこい」
「は、はい」
そう言って、恭子は荷物をまとめ、出て行った。
外では、永次がセダンを用意して待っていた。
「お待ちしていました。さあ、乗ってください」
恭子はそのセダンの後部座席に乗り込んだ。そしてセダンは発進した。
―皆。あの時は私、何も出来なかった。でも今から、私が出来ることをやろうと思う。だから、待っていて…!
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