BATTLE
ROYALE
〜 誓いの空 〜
第22話
突然自分の前に現れた松谷沙耶(10番)を、山下由里加(13番)はなかなか信用できなかった。
山吹志枝(14番)のように由里加が自分の家に入るのを見ていた可能性だってある。それに由里加自身、あまり親しくもなかった沙耶のことがどうしても信じられなかったのだ。
しかし、その沙耶はどうやら由里加を信用しているようだ。
「山下さん…私も仲間にしてくれないかな? 大丈夫。私は『権利者』じゃないから」
沙耶は由里加が何も言わないうちから窓を開けて部屋に入ってきた(鍵は開けてあった。いつでも脱出できるように)。結構沙耶はこういうところがあることだけは由里加も知っていた。
「え? でも…草川さんと一緒じゃないの?」
由里加は沙耶の親友である草川麻里(3番)の名前を出してみた。麻里が一緒にいないのが、どうにも引っ掛かったのだ。
「それが…麻里ったら、教室で『先、行ってて。私…沙耶とは一緒に行けないから…』なんて言っちゃってさ…。最初は麻里を待とうかと思ったんだけど…よく考えたら大谷がいたしね、大谷に麻里のことは任せたほうがいいのかもって思って」
「えっ? そこで何で大谷君が出てくるの?」
由里加にはそこが分からなかった。何故大谷俊希(2番)が草川麻里と合流してくると確信できるのかが。
確かに俊希は沙耶や麻里とも話していたが、むしろ能代直樹(7番)や石城竜弘(1番)と合流しそうな気が由里加はした。
「あっそうか、山下さんは知らないんだっけ…麻里ってさ、実は大谷のことが好きらしいんだよ」
「ええっ!?」
由里加はただただ驚いた。
まさか麻里が俊希を好きだとは…。確かに俊希はやや男臭さを感じるものの、容姿自体はなかなかだ。ただ由里加は、以前の志枝を評したときの俊希の口調から、あまり好感を持っていなかった。
「しかもね、大谷もまんざらじゃなさそうなんだよね。あいつは照れ隠しでますます無愛想になるからさ。バレバレだよ、私には」
「へぇ…」
そこで由里加は、沙耶が右手にまだ自分の支給武器らしき物を握っていることに気が付いた。
「あの…松谷さん、それは…?」
そこで沙耶は少し笑って、右手に持った鎌らしきものを掲げた。
「ああこれ…鎖鎌。私の支給武器だったの。山下さんは…その右手に持ってる銃?」
「ううん…これは、裕香のものなの…。志枝に、殺された…」
「あっ、まずいこと聞いちゃったかな?」
沙耶はしまった、といった感じの顔つきで言った。
「大丈夫だから…」
それ以上沙耶は何も聞いてこなかった。そして唐突に言った。
「山下さん…見た感じ、船石さんが死んだことで何か悔やんでるって感じだけど…?」
「えっ…!」
図星だった。随分と沙耶は勘が良いようだ。
沙耶はさらに続けた。
「あのね、山下さん…。何があったかは私もよく知らないけど…そうやって悔やみっぱなしじゃ、死んだ船石さんだって…浮かばれないと思うけど?」
「そ、そうかな…?」
「そうだって! もし私が船石さんで、山下さんが麻里だったら…私はそう思ってる…っていうか、そう言っちゃってると思う」
「う、うん…」
由里加は確かに、沙耶の言う通りなような気がしてきた。
別に裕香は、由里加を恨んで死んでいったわけではなかった。確か彼女は言っていたのだ、『笑ってよ』と。
―そうだ。裕香は私に言葉を残してくれていた。それなのに私はこんな…駄目じゃない! 何で裕香の分、精一杯やろうって思えなかったのよ!
「ありがとう…松谷さん。何だか私…吹っ切れた気がする」
「そう、そりゃ良かった」
そう言って沙耶はニッコリと笑った。沙耶は優しい人だった。よく知らないからと警戒していた自分が馬鹿らしく思えてきた。
「それじゃ、これからどうする? 山下さん」
沙耶が訊いてきた。
「私は…裕香の分も精一杯やりたい。だから…脱出の方法を探したい」
「それは私も思ってた。でもどうやってやる?」
「方法は思いつかない。でも信用できる人を集めたら言い知恵が浮かぶかもって私は思うの。だから松谷さんも一緒に行かない? よかったら、草川さんを一緒に探そう?」
由里加がそう言ったのには訳があった。自分を立ち直らせてくれた沙耶を、今度は自分が助けてあげたかったのだ。
「でも、いいの?」
「いいの。今度は私が…松谷さんの力になるの」
「ありがとう…」
結局、沙耶は由里加と一緒に来ることになった。
「それじゃあ、行こう?」
由里加は沙耶に呼びかけ、そっと家の裏口から庭を伝って出ようとした。その時だった。物陰から何かが覗いているように見えた。
「山下さん、逃げて!」
後ろから来た沙耶が叫ぶ。その瞬間、由里加は覗いているのが銃身だと理解した。だが、遅かった。
刹那、銃口が火を連続して噴き、由里加の全身を鉛弾が貫き、由里加は地面に倒れこんだ。
全身が痛かった。血液が撃たれた箇所から溢れ出すのがはっきりと分かった。
―あ…私…もう終わりなの…? 松谷さんの力になろうと思ったのに…裕香の分も…精一杯やろうって…誓ったのに…。
沙耶が裏口から出てきて、銃口が覗いていた方向に叫んだ。
「誰!? 出てきなさい!」
そして由里加を撃った人物は、ゆっくりと由里加と沙耶の前に姿を現した。
「な…何であんたが山下さんを撃つのよ…答えなさいよ、大谷!」
沙耶は怒りのこもった声を、由里加を撃った人物、大谷俊希にぶつけた。
<残り10人>