BATTLE ROYALE
誓いの空


第23話

「答えなさいよ、大谷!」
 
松谷沙耶(10番)は目の前の大谷俊希(2番)に向かって叫んだ。しかし、俊希は冷たい眼で沙耶を見るばかりで、何も言おうとしない。
 沙耶は信じられなかった。俊希が今、
山下由里加(13番)を撃ったことが。
―おかしい…! 大谷はこんなことをするような奴じゃないはずなのに…!
 沙耶は、大谷俊希という男のことを少しだけ考えた。

 俊希はいつも、無愛想で、親しい仲間(例えば、
能代直樹(7番)とか、2組の原井康幸、大神真義、丸川洋介などだ)以外には無口。
 基本的に笑うのは苦手(小学校の修学旅行とか、林間学校とかでも笑顔で写った写真は一枚もない。いつもむすっとしていた)。
 しかし、仲が一度よくなれば、ほんの少しだけ笑顔を見せる(沙耶や
草川麻里(3番)にも見せていた時がある)。
 そしてこの島を…愛している。この島を離れることを誰よりも嫌がっている。

 そんな俊希がこのゲームに乗ることは考えられなかった。
 この島を愛する俊希なら、この島を血で汚すような真似をしたがらないはずだ。
 思い切って沙耶は、俊希に言ってみた。
「大谷…あんた、誰か殺したの?」
 俊希は思いもかけずあっさりと答えた。
「ああ…マッシー、勇一郎、東野…あと朝になってから吉岡も殺したな。頭を吹っ飛ばした」
―そ、そんなに…。
 つまり俊希は放送前に
鈴木政仁(5番)鶴見勇一郎(6番)東野博俊(8番)を、さらに放送の後に吉岡美佳(16番)を殺したのだ。
「何でそんなことを…」
「理由をお前に話す必要はない。誰も知る必要はない。何故なら松谷…お前も死ぬからだ。山下に止めを刺すついでに、お前も殺す」
 そう言って俊希は、じりじりと沙耶と由里加との距離を詰めてきた。近づいて二人いっぺんに殺す気なのがよく分かった。しかし、沙耶はあることに気が付いた。
 冷たい、氷のような眼をしているように見えた俊希の瞳が、心なしか愁いを帯びているように感じられた。
 だが、そんなことを気にしている暇はなかった。今は生命の危機なのだ。そして由里加も守らなければならない。
「殺されて、たまるもんか!」
 沙耶は由里加の手にあったH&Kデトニクスを取り、俊希にその銃口を向けた。
「私と山下さんを撃とうとしたら、あんたを先に撃つからね!」
「…できるのか? 松谷…。お前にはまだ覚悟はできてないだろうな…だが俺は…」
 僅かな、間。
「お前と山下を殺す覚悟はとっくにできてるんだ」
 俊希の手のペネトレーターの銃口が沙耶に向く。
「――!」
 沙耶は引き金を絞った。
 パーン。そんな音がした。
 俊希は沙耶の手の動きを見たのか、すぐにもといた物陰に隠れていた。
「へえ…覚悟…できてたのかよ…さすが松谷だ。俺としたことが…殺すことも死ぬことも覚悟はできてたのに…びびっちまった…」
―違う! 私は…大谷を撃つことなんて…考えて…。
「タイムリミットまであと20時間ってとこだな…まあ、山下はどうせすぐ死ぬだろうしな…今回だけは見逃してやるよ。じゃあな」
 そう言って俊希は背を向けて歩き出した。
―大谷を放っておいたら…麻里も…!?
 そう思った沙耶は、鎖鎌を取り出して俊希に向かっていこうとした。それは無意識の行動だった。麻里の身に危険が及ぶかもしれないと思ったら、体が勝手に動いていた。
 だが、沙耶の動きはすぐに止まった。大きな銃声と共に、裏庭の山下家の給湯器が壊れた。
―他にも誰かが…!
 そして姿を現した人物の姿に、沙耶は驚きを隠せなかった。
「何で…」
 それは、コルトパイソンの銃口を沙耶に震える手で向けている草川麻里だったのだ。
「ま、麻里…何で…」
「邪魔しないで」
 麻里が沙耶の言葉を遮って、言った。震えた声、沙耶と戦うのを拒む、しかし強い決意の感じられる声で。
「私は覚悟を決めたの。私は…俊希君についていく。俊希君のために戦う」
「麻里…」
「じゃあね、沙耶。また、会えたら…ね」
 そう言って麻里は、俊希の後を追っていった。
 沙耶は呆然としていた。追えそうもなかった。麻里の決意が、そう簡単に覆せそうになかったから。
―そうだ、山下さん…!
「山下さん!」
 沙耶は由里加のもとに駆け寄った。
「ま、まつ、た、にさん…」
 由里加の状況はますます悪化している。このままでは…死んでしまうだろうというのは、沙耶にも分かった。
「ごめんな、さい…わた、し…ま、つた、にさんのちからに…なれなかっ…た…」
「いいの、いいの! だから、もう何も言わないで…」
 しかし、由里加は話し続ける。
「わた、し…いのっ、てる、から…。まつた、に、さんが…くさか、わさんにあえ、ること…だっしゅ、つ、できること…いのって…るか、ら…」
 それっきり、だった。由里加はそれっきり、何も喋らない。
「駄目だって、死んじゃ駄目なんだってば! 船石さんの分、精一杯やるんじゃなかったの!? まだ何も…まだ何もしてないよ!? だから…死んだら駄目だってば!」
 沙耶は、由里加の亡骸を揺すり続けた。

 13番 山下由里加 ゲーム退場

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