BATTLE ROYALE
誓いの空


第25話

 目の前に広がる海。以前はとても綺麗に見えたのに…今では何か、どす黒く見えてしまう気がする…。
 
佐野雄一(4番)はそんなことを思いながら、G−6エリアから瀬戸内海を臨む叢に立っていた。
 未だに
石城竜弘(1番)も、横溝朋美(15番)も見つからない。結局、最初に竜弘や鈴木政仁(5番)といた廃屋の近くを通った。その時に再確認した。
 全身に空いた穴から血液が流れきり、既に死んでいるのは明白な政仁の死体を。確かに政仁は死んでいたことを。
 まだ時々、雄一は思う。これが悪い夢なのではないかと。
 しかしそんなことはなかった。確かに政仁は死んだ。以前とは変わり果ててしまった、
大谷俊希(2番)に。
 さっきも俊希が政仁を殺したときに響いた銃声がした(それは俊希が
山下由里加(13番)を撃った音だった)。
―俊希…お前はまた、誰かを殺したのか? 何でお前はクラスメイトを殺すんだ? 分からない…、あいつがゲームに乗った理由が分からない…。
 しかし、考えてばかりいても何も分かりはしないのは分かっていた。生きていればいずれ俊希にもまた会えるだろう。その時に聞いてやろう。
「さて…ずっとここにいても仕方がない。行くか」
 そう一人で呟き、移動しようと考えたときだった。
「そこにいるのは、佐野か?」
 いきなり、声をかけられた。驚いた雄一が日本刀を構えて振り返ると、相手は少し後ずさりしたが、雄一はすぐに相手に敵意がないのが分かった。
「いきなりだな…おい」
 その相手―
宮崎紀久(11番)が呆れ顔で言った。
「仕方ないだろ。いきなり声かけられたら、この状況じゃ誰だって驚くって」
「言えてる言えてる。ノリさん、もっと考えろって」
 隣の
脇坂将人(17番)が紀久に言う。紀久も少し機嫌を損ねた、といった感じで言った。
「悪かったな」

「なるほど、そんなことがあったのか…」
 紀久が呟いた。
 結局雄一は、紀久と将人に今まであったことを全部話した。
 政仁と一緒にF−6に行き、竜弘と合流したこと。直後に何者かに襲われ、それが俊希だったことに驚いたこと。
 竜弘と逸れ、政仁を俊希に殺され、自分は政仁に逃がされ、助かったこと。
「…本当に俊希はゲームに…?」
 将人が尋ねてきた。
「本当に…って?」
「実は…真介に会ったんだが…真介は錯乱してて…その時口走ったんだ。俊希は冷たい眼をして、吉岡を簡単に殺した、って。多分真介はその現場を見たんだ」
 ということはその
森木真介(12番)の言葉が正しければ、俊希はさらに吉岡美佳(16番)をも手に掛けたことになる。
「俊希は何で一体…?」
 雄一は二人に訊いてみた。
「さあ…? 俺たちが直接見たわけじゃないしな…。普通に考えれば、俊希が『権利者』なんじゃないか?」
「『権利者』か…」
 しかしそこで雄一は、あることに気が付いた。
「そういえば…森木は結局どうなったんだ? 逃げたのか?」
 すると、二人の表情が固くなった。そして、ゆっくりと紀久が口を開いた。
「殺されたんだ。俺たちの目の前で」
「誰に?」
「…横溝だよ。横溝が斧を真介の首に突き立てて…倒れた真介の首を…」
 紀久の顔がそのときのことを思い出したらしいことを表していた。しかし、雄一には別のことが心に残った。
「ちょっと待て! じゃあ、横溝が森木を…」
「そうだ。横溝の眼は…怖かった。耐えられなかった…」
 将人が口走った。
「そんな馬鹿なことあるか! 横溝が…彼女がそんなことするはずが…」
「事実なんだよ!」
 紀久が叫ぶ。
「確かに横溝は、真介の首を斧で…」
「そんなはずない! 彼女は…横溝は…そんな子じゃないんだ! そんなはずがない!」
 雄一には信じられなかった。横溝朋美が森木真介を殺したなどということが。
「なあ、佐野…お前が横溝を信じたいのは分かるけど…」
「もういい! 実際に横溝に会って確かめる!」
 そう言うと、雄一はその場から離れていった。
―横溝…お前がゲームに乗ったなんて、嘘だよな…嘘だよな…?

「佐野…大丈夫かな…?」
 将人が、去っていく雄一を見ながら、言った。
「…横溝に会ったりなんかしたら、佐野の奴…」
「一応、後を追ってみるか」
 紀久のその一言で、二人は雄一を追うことにした。

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