BATTLE ROYALE
誓いの空


第26話

「…やっぱり俺たちじゃ無理なのかもな…」
 
石城竜弘(1番)は、頭をポリポリ掻きながら呟いた。それを見て能代直樹(7番)は、無理もない、と思った。
 二人は今、B−4の林の中に身を隠しながらいた。
 竜弘はもともとこういう、こう言っては失礼だが、頭脳労働といったものはとことん苦手にしているのだ。だがそんな竜弘でもこの首輪の図面から脱出の糸口を見つけようと必死だった。
 そんな竜弘のためにも、ぜひ脱出したかった。
「うーん…」
 しかし直樹にもこの図面から出されるアイデアは少ない。
 首輪の解除がひょっとしたら可能かもしれないかと思ったが、失敗したらまず首輪が吹き飛ぶし、だいいちどうやって外せばいいかが分からない。
―どうしたらいい? やっぱりミヤさんを探すのが一番なんだろうか…?
 その時、近くで木の枝を踏んだような、ぱきっという音がした。
―誰か近くにいる!?
 直樹は周囲を見回した。しかし、誰かがいるようには感じられない。
「気のせいか…?」
 しかし、気のせいなどではなかった。直後、近くの木の陰から人影が覗いたのだ。
「誰だ!」
 直樹はその人影に向かって叫んだ。人影は、一言こう言った。
「竜弘君…やっと見つけた…」
 その声で正体が、
横溝朋美(15番)だと分かった。彼女以外に竜弘を下の名前で呼ぶ生徒はいなかったはずだからだ。
 その声の感じからして、朋美は竜弘を探していたようだった。そう考えて、直樹は朋美を危険視すべきではない、と思った。
 だが、その判断が間違っていたことをすぐに思い知らされた。
「やっと…やっと見つけた…やっと…殺せる…!」
―え!?
「な、何言ってるんだ、横溝!」
 直樹は朋美に向かって、叫んだ。しかし、朋美は直樹が目に入っていないのか、さらに言った。
「やっと…竜弘君を殺せる…やっと…私の愛が成就するの…ずっと求めていた、竜弘君を手に入れるの!」
 そう叫ぶと、朋美は直樹を気にせず、隣の竜弘目掛けて勢いよく走り出した。その手には、僅かながら血のついた斧を持って。
「お、おい、竜弘!」
 直樹は隣の竜弘に声をかけた。
「どうするんだ? 横溝は完全に…」
「…朋美の奴…そんなに俺がほしいか…俺が…」
 竜弘はボソッとそう呟いた。
「おい!」
「…! ああ…とにかく、ここで死ぬわけにはいかない、逃げよう」
「よし」
 直樹と竜弘は、同時に駆け出した。だが、後ろから朋美が予想外のスピードで追ってくる。もともと運動神経も良かったはずだが、あの斧を片手で持って、なおも二人を追ってくるのは、『竜弘を殺したい』という想いがとんでもない能力でも生み出したのだろうか?
 しかし、そんなことは直樹にとって、どうでもよかった。
 とにかく分かったのは、
大谷俊希(2番)だけでなく、横溝朋美もやる気である、ということだけだった。
 なおも追ってくる朋美に、直樹はその手に持ったステアーを向け、一発撃った。
 その一発は朋美の左肩を掠め、一瞬朋美が怯んだその隙に直樹は竜弘を促して、走った。やがて、朋美の姿は見えなくなった。
「す、少し…休もう…」
 竜弘がそう言い、直樹はそこで立ち止まり、木に背を預けた。
「なぁ、今の横溝の言ったことの意味、何なんだよ…」
 直樹は、思い切って竜弘に疑問を投げかけてみた。すると、竜弘は息をつき、言った。
「…あいつは…俺を手に入れるために殺そうとしてるんだ…」

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