BATTLE ROYALE
誓いの空


第29話

 時は、宮崎紀久(11番)たちがD−4で血痕を発見したことより10分ほど遡る。
 その時、
横溝朋美(15番)はD−4にいた。少し前まで追っていた石城竜弘(1番)能代直樹(7番)を完全に見失ってしまったのだ。
 やっと見つけた竜弘。この手で殺すチャンスだった。
 しかしそれを直樹が妨害してしまった。直樹などどうでも良かったのに、直樹はあの場にいた。そして竜弘を追う朋美に一発、銃弾を浴びせていった。
 その銃弾が掠めた左肩は別に問題なかった。しかし、悔しかった。
 全くの部外者であるはずの直樹に邪魔をされたことが。
「よくも…私の邪魔を…私はサロメになるのよ…そして竜弘君は…ヨカナーンに…」
 朋美は呟いていた。

 朋美と竜弘は、お互いの家が隣同士だったためか、小さい頃からお互いよく知っていた。小学校に上がるまでは、よく一緒に遊んだ。
 その頃から、ずっと朋美は竜弘が好きだった。その思いは今だって少しも変わらない。
 幼稚園の頃は先生に『将来は竜弘君のお嫁さんになる。それ以外にはなりたくない』などと言っていたらしい(親に聞かされた話だった。もう覚えていなかった)。
 しかし小学校に上がってから、竜弘は
佐野雄一(4番)鈴木政仁(5番)と仲良くなり、朋美とは疎遠になった。
 悔しかった。今までの竜弘との絆が全て壊された気が、した。
 それでも、ずっとずっと竜弘のことは好きだった。しかし、どうしてもその思いは伝えられなかった。それがどうしようもなくもどかしかった。

 そして中学に上がっても、なかなか竜弘に思いを伝えられなかった。
 少しでも竜弘に会う機会を増やそうと、何度か竜弘のサッカーの試合に足を運んだこともあった(佐野雄一が朋美に好意を持ったのはそのうちの一つのときだった)。
 それでも思いを打ち明けられなかった。いや、打ち明けたときもあった。
 しかし、竜弘の答えはそっけなかった。
―今は、そういうことが考えられない。

―どうして!? 何で私のほうを見てくれないの? 何で!?
 朋美は悩んだ。そんな時、街に出かけ、古本屋で一冊の本を見つけた。
―オスカー・ワイルドの『サロメ』。
 それは、朋美の心を捉えた。
―預言者ヨカナーンを愛してやまない王女サロメは、7つのヴェイルの踊りと引き換えに、ヨカナーンの首を所望する―。
 そのストーリーに、朋美は何かを感じた。サロメに何かを感じたのだ。
―サロメに、なりたい。サロメのようにやれば…竜弘君を…。
 もちろん、そんなことが現代社会で許されるはずがないことは分かっていた。だからこそ、この今の状況は大歓迎だったのだ。
 朋美の目的は、ただ一つ。
 石城竜弘の身体の一部―サロメのように首じゃなくても良い―何かを手に入れること。
 考えていたのは、ただそれだけ。

 だから、最初に会った
山吹志枝(14番)も殺した。彼女はやる気だった。彼女は誰だって…竜弘だって殺すつもりでいた。
 そんな彼女を放っておいたら、竜弘は自分に殺される前に殺されてしまうかもしれない。それだけは避けたかった。だから…志枝の頭を斧で割った。
 
森木真介(12番)も同様だった。
 真介のあの様子は尋常ではなかった。下手をすれば竜弘に危害を加えかねない。
―竜弘君に傷をつけていいのは私だけ…。
 そう思った朋美は、真介の首に斧を振るい、倒れた真介の首を切り落としてやった。
 その場にいた宮崎紀久(11番)と
脇坂将人(17番)をどうするかは悩んだが、結局放っておいた(実際、二人はすぐに朋美の前から姿を消した)。
 そして…いずれは竜弘を手に入れる。そのつもりだった。

 しかし、そのチャンスを能代直樹に阻まれた。そのせいか、朋美は苛立っていた。
―次に会ったら、絶対に殺してやる…。
 その時だった。
「横溝? 横溝か?」
 突然声がして振り返った。そこには佐野雄一が、呆然とした顔で立っていた。
「なあ…君はやる気になったりなんか…してないよな? 嘘だよな? 横溝…? 森木を殺したなんて…嘘だよな?」
 朋美は正直に答えた。
「ええ…私は殺したわ。全ては竜弘君を手に入れるために…」
 すると雄一は強い決意を秘めた瞳で朋美を見据え、言った。
「そう、か…俺は君がやる気だなんて、信じたくなかった。戦いたくはなかった。でも…やる気だと分かった今…君を野放しにできない。そして伝える。俺の心を! 全身全霊を込めて!」
 雄一が日本刀を構える。その切っ先は震えている。まだ人に向かって刃を振るったことがないのは間違いなかった。
 しかしその瞳は、じっと朋美を見据えている。
 そして…朋美は斧をぎゅっと握り、雄一に向かっていった。

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