BATTLE
ROYALE
〜 誓いの空 〜
第30話
朋美の接近に対して、雄一は右へと素早く動いた(サッカーで鍛えたフットワークだ)。
朋美が斧を両手で握り、右方向へと斧の刃を振るう。しかし雄一は素早くその軌道から逃げるためにしゃがみ、すぐに日本刀の切っ先をがら空きの朋美の足に向かって突き出す。
だがそれに気付いた朋美も後ろに飛び退く。
少し、膠着状態になった。
―くそ、まさか本当に…本当に横溝がゲームに乗っているだなんて…。
宮崎紀久(11番)が言っていたことは本当だった。その言葉を信じられなかったことを、雄一は心の中で紀久に詫びた。
―竜弘を、手に入れるためにって…言ってたな…。
雄一は少しだけ石城竜弘(1番)のことを考えた。
朋美が竜弘に好意を抱いていることはちゃんと気付いていた。自らの心を伝えても、決して実らないのは分かっていた。それどころか、竜弘が相手ならしょうがないとまで思っていた。
最初は朋美に想いを打ち明け、そして仲間になって竜弘を見つけて合流する、なんて青写真を描いていた。
だが、今は違った。
―絶対に竜弘と横溝を会わせるわけには行かない。
おそらく二人が会ったら、朋美は竜弘を殺そうとするかもしれない。叶わずにいる恋に思いつめて…。
―そんなことをさせるわけにはいかない!
竜弘は恋のライバルであると同時に、大事な親友だ。危険に晒させたくはしたくなかった。
そのためには、自分の愛する人間でも…放っておくわけにはいかないのだ。ここで、朋美を倒さなければならないのだ。決して戦いたくなんかない…しかしやらなければならない。
雄一はぎゅっと、日本刀を握り締めた。
次に最初に仕掛けたのは、雄一だった。
雄一は足に力をいれ、朋美に向かって日本刀を袈裟懸けに振るった。
しかし…やはり朋美を殺すことを、深層心理では躊躇していたのかもしれない。ほんの僅かに、雄一の太刀筋が鈍った。
それを、朋美は見逃さなかった。
朋美は日本刀の刃を身体を傾けて避け、同時に斧を横薙ぎに振るった。
斧の刃が、雄一の脇腹に食い込む。
「ぐう…っ!」
雄一の身体が傾ぐ。さらに朋美は斧を雄一の頭部目掛けて振るう。しかし…その狙いは僅かに逸れ、雄一の右肩に食い込んだ。
「がぁ…ぁっ…」
雄一の身体が崩れ落ちる。雄一は仰向けに倒れこんだ。
そして朋美は雄一の手から日本刀を奪い取ると、その腹に突き立てた。雄一が苦悶の表情で腹に突き立った日本刀を見る。
朋美は日本刀を引き抜くと、走っていってしまった。
―横溝…。
雄一は、朋美の姿が見えなくなってから、辛うじて立ち上がった。しかし、自分の命はもう長くないのが分かった。
―横溝に…俺の気持ちを…せめて、それだけでも…。
滴る血。しかしそんなのは気にならない。腹に刺さった日本刀を抜いて右手に持ち、朋美の走っていった方に歩を進める。しかし、D−4とD−3との境で力尽きて倒れてしまった。
「ちく…しょう…」
その時だった。
「佐野、おいしっかりしろ! 佐野!」
「佐野! おい!」
「佐野君しっかりして!」
声が聞こえる。最初、誰の声だったかも分からなかった。
しかし、目を開けてみると、雄一の顔を紀久、脇坂将人(17番)、そして松谷沙耶(10番)が覗き込んでいた。
「何で…ここが…?」
「お前の血の跡を辿ったんだよ…」
将人が呟く。
「誰にやられたの? 横溝さん?」
「ああ…横溝は竜弘を殺す…つもりだろうな…」
「くそ! 横溝の奴…」
紀久が呟いたが、雄一は言った。
「横溝を…恨まないでくれ。俺が悪いんだから…」
「でも…」
将人が言いかけたのを制して、雄一は言った。目がだんだん霞んできた。もう長くないのがはっきりと分かった。
「もし横溝に会ったら…伝えてくれ。俺は…君に殺されようとも、ずっと君が好きだから…って…そう…伝えてくれ。危険かもしれないけど…頼めるか?」
「ああ…約束する」
紀久が頷いて言った。
「サンキュー…」
そう最後に言うと、雄一は目を閉じ、もう何も言わなかった。呼吸は止まっていた。完全に佐野雄一は死んでいた。
「佐野…」
将人が呟く。
こうして、佐野雄一はその生涯を終えた。
4番 佐野雄一 ゲーム退場
中盤戦終了――――――――
<残り8人>