BATTLE ROYALE
誓いの空


第3話

「あの…あなたは誰ですか? そして、あなたの周りにいるその人たちは何なんですか?」
 
能代直樹(7番)が、教卓のところにいる男に向かって、言った。すると男は突如こう言い放った。
「えぇー私は、今日から君たちの担任になりました…」
 そして男は、黒板のところにあるチョークを一つ取ると、黒板に汚い字で書き始めた。その字は
大谷俊希(2番)には辛うじてだったが、こう読めた。

―ガシシ、わかまつ。

「ガシシワカマツです。よろしく。一緒にいるのは羽縄君。この国の専守防衛軍の一等陸曹です。他の人たちはその部下」
「羽縄と言います。ところでガシシさん、名前くらい漢字で書いてくださいよ。こうですよ」
 さっきのガラガラ声の男が挨拶の後で、黒板の「ワカマツ」の文字を消して、「若松」と書き込んだ。
「すまないねぇ」
「担任? 何だよ、それ? 俺たちの担任は笹川先生だろ? 何言ってんだよ」
 
石城竜弘(1番)が立ち上がって、言った。
「あぁ、悪い悪い。じゃあその辺の説明をするから。えぇっとまぁ、簡単に言うとだね、君たちは今年度の…えぇっと、何号だっけ?」
「第18号です、ガシシさん」羽縄が言う。
「あぁ、そうだった。そういうわけで、君たちは今年度第18号プログラムの対象クラスに選ばれました、おめでとう!」
 ガシシ若松なる男は、そう言って拍手したが、教室は静まり返っていた。
―ハハァ、そうですか。プログラムですか。俺たちに殺し合いをしろって言うんですか。この殿場島で、クラスメイトと、殺し合いを?

―……。

―ふざけんじゃねぇぞ、このクソ野郎!
 俊希は心の中で、そう思っていた。しかし、その言葉は喉元まで迫ったところで辛うじて止められた。あのガシシとかいう男はともかく、隣の羽縄とか言う男は専守防衛軍兵士だ。そう考えると、銃を持っているのだろう。ならば、ここでわざわざ彼らを不快にさせてむざむざ殺されるのは良くない。

―しかし…。
 そこで俊希は、一つの疑問が頭を過ぎっていた。それは、本来このクラスの担任だった笹川恭子先生のことだ。
 一体彼女はどうしたというのだろうか? 今この学校にいるのだろうか? だとしたら彼女は無事なのだろうか? それとも…。
 俊希はふと、嫌な想像をしてしまった。
 だがその疑問は、他のクラスメイトも持っていたらしい。竜弘に代わって、今度は
山下由里加(13番)が立ち上がってガシシに言った。
「それで、笹川先生は何処にいるんですか?」
 ガシシはその質問を聞いて少し笑うと、すぐに答えた。
「えぇっと、笹川先生は、皆がプログラムの対象クラスになったと知ると、すぐに仰いましたよ。『頑張って生き残ってね』と」
「そ、そんな…笹川先生はそんなことを言う人じゃありません! いつも優しい、良い先生なんですから!」
 由里加が怒鳴った。同時に教室中が騒がしくなった。しかし無理も無いことだった。確かに笹川先生は良い先生だった。でも彼女だって、逆らって死ぬような目に遭うのは嫌なのだ。
―誰だって、命は惜しむ。俺もそうだ。もっとも、命が惜しくても身体が動く場合だってあるとは思う。けど…結局笹川先生は『その程度』の教師だったってことだ。
 既に俊希は割り切っていた。クラスメイトの中でも直樹や
横溝朋美(15番)も俊希と同じような感じだった。
 だが、他の生徒はそうはいかなかったようだ(むしろそっちの方が当然だが)。
「そんな…笹川先生が裏切るはずがない…僕たちを…裏切るはずがないっ!」
 突如、
森木真介(12番)がそう叫ぶと、教室の後ろのドアに向かって駆け出した。真介はいまいち気が弱い。どうやら『笹川先生が裏切った』ということでパニックになってしまったのだろう。
 ガシシの隣にいた羽縄がアサルトライフルを真介の方に向けた。
―やばい!
 そう思った瞬間、俊希は真介のほうへと駆け出した。そして暴れる真介をその場に倒して抑えるのと、羽縄がアサルトライフルを発砲したのは、ほぼ同時だった。
 銃弾は、さっきまで真介がいた場所の壁に撃ち込まれた。突然の発砲に、皆静まり返った。
「森木、ここでジタバタしても、死ぬだけだ。大人しくしておけ」
「う、うん…」
 そして俊希は真介を立たせ、自分の席に戻った。
「大谷君だったかな? 君、なかなかのもんだね」
 ガシシが俊希に言った。
「別に…死人が出てほしくないし、身体が勝手に動いただけだ」
「ふーん…」
 ガシシがそう言っているとき、真介がようやく席に着いた。それを待っていたかのように、ガシシが話を始めた。
「はい、それじゃ説明を始めます」

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