BATTLE ROYALE
誓いの空


第32話

 エリアで言うと、C−3にあたる地点。そこに、宮崎紀久(11番)脇坂将人(17番)、そして松谷沙耶(10番)はいた。
―佐野…。
 紀久は、さっき最期を看取ったばかりの
佐野雄一(4番)のことを考えた。
 雄一の最期は、穏やかなものだった。しかも雄一は、自分を殺した
横溝朋美(15番)のことについて、こう言った。

―横溝を、恨まないでくれ。俺が悪いんだから…。

 何故そんなことを言えるのか、紀久は不思議でならなかった。
 いくら沙耶の言ったように、雄一が朋美に恋をしていたとしても、自分を殺した相手を恨まずに死ねるのかどうかが、分からなかった。
「なあ…松谷…」
「何?」
 紀久は、自分の持っていた疑問を思い切って沙耶に問いかけてみた。
「何で佐野は、自分を殺した相手を恨むな、なんて言ったんだと思う?」
 すると沙耶は、ふうっと溜息をついた。さながら、何も知らない間抜けな人間に解しているかのようだった。ちょっと、紀久は癇に障ったが、気にしないようにした。
「そんなの簡単よ。自分が惚れた相手に殺されて、恨むようなことをしたくなかったのよ、佐野君は。そして横溝さんが恨まれてほしくないとも思った…。それだけのことよ」
「でも、そんなの理屈が通らない…」
 紀久がそこまで言うと、沙耶は突然紀久の方を向き、言った。
「あのね、人の感情ってものは理屈じゃ片付けられないの。何もかも理屈で片がついたら、世の中寂しいと思わない? 理屈抜きの感情だって、人間は持ってる。佐野君の横溝さんへの想いは、それと同じ。理屈なんか超越しちゃってたのよ」
「…そういう、ものなのかな」
「そういうものよ、人間って」
 その時、今まで一言も話さなかった将人が、口を開いた。
「おい、二人とも…。今、そこの茂みが、動かなかったか?」
 将人はそう言って、右手に見える茂みを指差した。そしてその茂みは、また少し動き、人影が二つ見えた。
 その瞬間、紀久は叫ぶと同時に地に伏せた。
「伏せろ! 俊希だ!」
 直後、将人と沙耶が地に伏せると同時に、もう何度か耳にした、連続した銃声が辺りに響き渡った。銃声が止んでから紀久は身を少しだけ起こし、相手を見た。それは予想通りの人物だった。
「…俺がやる気だと気付いていたのか? ノリさん…。それとも、そこにいる松谷に聞いたのか?」
 そう言って姿を現したのは、その手にペネトレーターを持った
大谷俊希(2番)だった。そしてその後ろからコルトパイソンを手にした草川麻里(3番)が現われた。
「いや、どっちもだ。お前が吉岡を殺すところを真介が見たと言っていたし、松谷にも聞いた。山下も、殺したそうだな」
 そう言っている横で、沙耶がデトニクスを構える。臨戦態勢に入っているようだ。念のために紀久も将人も、モップとバールをぎゅっと握り締める。
「…まあな。さて…話をしてる余裕なんかない。早く決着をつけときたいからな」
 俊希の指が、ペネトレーターの引き金にかかる。同時に、沙耶がデトニクスの引き金にかかった指に徐々に力を加える。
「三人とも死んでくれ」
 その瞬間、俊希のペネトレーターが再び吠える。同時に紀久たちは近くの森に駆け込む。最後尾を走る沙耶が俊希に向けてデトニクスを撃つ。
 しかし放たれた銃弾は逸れて麻里の足元で跳ねた。その瞬間、今まで殆ど変化しなかった俊希の表情が、少し歪んだ。
「松谷…草川に危害を加えるようなら…許さん。吉岡のように頭を吹き飛ばしてやる」
 俊希が再びペネトレーターを乱射する。その狙いはかなり正確だったが、紀久たちも素早く駆けていく。なかなか当たらなかった。その時だった。
 一発の、沙耶でも麻里でもない、別の銃声が響き、俊希の左腕を掠めた。
「くっ」
 俊希が僅かに痛みに顔を歪める。
「と、俊希君!」
 麻里が俊希に駆け寄る。
「三人とも、こっちだ! 早く来い! 逃げるぞ!」
 さっきの銃声の主らしき声がした。三人はそれに反応してその声がする方向へと走っていった。
 そしてようやくその人物を見つけた。だがその人物は紀久たちを認めると、紀久たちを誘うように、森の奥へと入っていく。
 やがて海際の、エリアで言うとB−3あたり。ようやくその人物は立ち止まり、追いついてきた紀久たちに振り返った。
「危なかったな、ミヤさん」
 その手にステアーAUGを携えた男子生徒、
能代直樹(7番)が言った。
 そして傍に座り込んでいる
石城竜弘(1番)が言った。
「よく来たな。歓迎するよ」

                           <残り8人>


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