BATTLE
ROYALE
〜 誓いの空 〜
第33話
「実は俺たちは、ずっとお前を探してたんだ、ミヤさん」
能代直樹(7番)が唐突にそう言ったことに、宮崎紀久(11番)は驚きを隠せなかった。大谷俊希(2番)の襲撃から逃れて、大体30分は経った頃だった。
「え? 何で、俺を…?」
「実は…これなんだ」
そう言って、傍らの石城竜弘(1番)が手に持った紙切れのような物を見せた(佐野雄一(4番)のことは話しておいた。相当ショックのようで、今もまだ完全に立ち直ったとは言いがたい感じだ)。
竜弘が見せたそれを、紀久はじっくりと見つめた。横から脇坂将人(17番)と松谷沙耶(10番)も覗き込んでいる。
よく見ればそれには、今ここにいる全員に着けられていると思われる首輪の図面が描いてあるようだった。
「これが、脱出の糸口にならないかって、思ってるんだ」
竜弘が呟く。その眼には、希望が宿っているのが紀久にはよく分かった。
そして紀久はゆっくりとその図面を読み進めていく。そこで紀久は、興味深い記述に気が付いた。だがその記述にどうも直樹たちは気付いていないようだ。
―よし。
紀久は一芝居うつことにした。
「…無理だよ。俺でもちょっと、これは分からない」
「本当か? ミヤさんなら、この図面から脱出の方法を探し出してくれると思ったんだけど…」
直樹はそう呟く。紀久の言った言葉を信じきっている。そこで紀久は図面を裏返し、シャーペンを一本用意した。
「…?」
紀久は訝しがる皆に、図面の裏にこう書いて見せた。
『気をつけろ。この首輪から、俺たちの声は丸聞こえだ』
全員、驚いたような顔をしている。当たり前だ。紀久は続けた。
『盗聴されてるんだ。この図面で脱出が可能なのがばれたら、俺たちは首輪を吹っ飛ばされる。だから、肝心なことは筆談で話そう』
そこで将人が紀久のシャーペンを取って、書いた。
『脱出が可能、って…じゃあ、分かったのか? この図面』
「この図面が使えないのなら…どうやって、脱出するんだよ?」
同時に将人は図面の裏に書いたこととは裏腹のことを言った。
―さすが親友だけある、こっちの考えてることをしっかりと当てている。頼りになる奴だ。すぐに将人の本心の質問に答える。
『もうすぐで外せるだろうな、この首輪を』
同時に建前の会話もする。
「とにかく、あの本部さえ何とかしてしまえばどうにかなるとは思ってるんだ」
しかし、竜弘たちは理解できていないようだ。紀久はすぐに説明をした。
『盗聴されてるからって会話をやめたりしたら、疑われるかもしれない。だから、本音とは別の会話をあえてガシシたちに聞かせてやって、計画の発覚を防ぐんだ』
『なるほど』
理解したらしい直樹が、自分のシャーペンを取り出し、書いた。
「爆弾か何かで本部を吹っ飛ばしてしまうとか?」
直樹が言う。
『盗聴されてるのが分かったのなら、首輪の外し方の方は分かってるのか?』
直樹にシャーペンを借りた竜弘が書く。
「でも、爆弾なんかないぞ?」
『そっちのほうは当てがある。貞川さんの家に戻るんだ』
紀久は書く。竜弘や直樹は驚いた顔をする。仕方のないことだ、特に直樹には。直樹の話だと、あそこで大谷俊希(2番)に鶴見勇一郎(6番)と東野博俊(8番)が殺されたそうだから。
「確かに…そうだな」
ここで一旦全員黙る。あまり喋りすぎてもボロが出る。あえて悩んでいる振りをして、安全な時を作る。
『何で貞川さんの家に行く必要があるの?』
ここで初めて、沙耶がペンを取り、書いた。
『能代の話だと、この図面は貞川さんの家から見つかったらしいな』
『ああ、そうだ』
図面の裏にスペースがなくなった。仕方なく、ノートを取り出してそれに書く。
『おそらくそれは貞川さんが用意した物だ。貞川さんが何でそんなものを持っていたかはこの際どうでもいい。だが、これを貞川さんが俺たちのために残したとしたら、首輪を外すための工具だって用意してる可能性がある』
『そうか…』
竜弘が、思わず呟きそうになるのを堪えて書いた。
ここで無言時間は終了だ。
「とりあえず、場所を変えようか」
紀久は言った。
『今から、貞川さんの家に行こう』
四人は、動き出した。
<残り8人>