BATTLE
ROYALE
〜 誓いの空 〜
第36話
「…大谷君に草川さん…竜弘君を、殺そうとしてた…竜弘君は、私が…私が殺すの」
エリアで言うとF−3辺りにある民家の陰で横溝朋美(15番)は、呟いた。
朋美は見たのだ。大谷俊希(2番)と草川麻里(3番)が石城竜弘(1番)たちを襲撃していたところを。
その行為は朋美にとって、許される行為ではない。何故なら朋美にとって自分はサロメ、竜弘はそのサロメに首を刈られたヨナカーンなのだ。
朋美にとって俊希と麻里は、ヨナカーンを奪う罪人だった。
その光景を目撃した朋美はすぐに集落へと向かった(その後、その場で脇坂将人(17番)、そのしばらく後には宮崎紀久(11番)が殺されていたが、そんなことは朋美は知らなかった)。
俊希はマシンガンらしきもの、麻里は拳銃を一つ持っていた。対する朋美は斧が一つ。これでは勝ち目はなかった。
だが、二人の不意をつけば勝ち目はあった。そして念のために武器を集めようと思った。
そのためにまずは自分が最初に殺した山吹志枝(14番)の死体からシーナイフを手に入れた(あの時はその存在を忘れていた)。
そして民家に入って、文化包丁、裁ちばさみ、とにかく武器になりそうなものをかき集めた。
すべては竜弘を奪おうとする罪人を始末するためだった。
そして今、現われたのだ。
その罪人二人が目の前に。
二人は辺りを警戒しつつも、歩を進めていた。
俊希が呟くのが聞こえる。
「竜弘たちは、こっちに向かったと思ったんだが…ここにはいないな」
「もっと遠くなのかな…」
隣を歩いている麻里が言った。
この二人の会話の様子だと、まだ竜弘は死んでいないようだ。しかし、竜弘がこの方向に向かったこと、そして俊希と麻里が未だ竜弘を狙っている、というのは非常に危険だった。
―竜弘君を、あの二人に殺させたりしない。だって竜弘君は、私がこの手で殺すんだもの。愛する竜弘君を…ね。
問題は、どうやって不意をつくか…だった。
俊希も麻里も、銃を持っているのだ。生半可なやり方では勝てない。
その時、朋美はあることに気が付いた。麻里が、ほんの僅かだが俊希から遅れた。
その瞬間、朋美の脳は急速に回転し、一つの作戦を、単純だが有効な作戦を思いついた。
すぐに朋美は駆け出し、麻里の両腕を掴み、羽交い絞めにした。
「う…っ…横溝、さん…」
「…草川!?」
俊希は急なことに、驚きが隠せなかったようだ。朋美は麻里の首筋にシーナイフを近づけた。
「大谷君…草川さんの命が惜しかったら、その場にそのマシンガンを置いて。あなたたちは竜弘君を殺そうとしてる。そんなことはさせない!」
「草川…。ちくしょう…」
俊希は大人しく、その場にペネトレーターを置こうとした。しかしその時、麻里が叫んだ。
「駄目、俊希君! マシンガンを置いちゃ駄目! 撃って! そのまま撃って…!」
―…随分と仲が良いみたい…この作戦を取ったのは正解だったかな?
朋美は、俊希と麻里の姿を見て思った。
「…俺にはできない。そんなことはできない。草川にも弾が当たっちまう…、だからできない」
「撃って! このままじゃどっちにしたって二人とも殺されるに決まってる…。だからお願い!」
「……」
「何をしてるの、早くそのマシンガンを置きなさい!」
朋美が言った。
「…分かった。その代わり、草川を殺さないでくれ」
そう言って、俊希がペネトレーターを置いた。
「俊希君…」
―上手くいった! あとは草川さんの持ってた銃を奪う!
そして朋美は、麻里が持っているであろう拳銃を奪おうとした。しかし、そこで朋美はとんでもないことに気が付いた。
麻里は銃を持っていなかったのである。
―何故!? 一体草川さんの銃は何処に…。
その時、背後で声がした。
「草川の銃なら、ここだよ」
はっと気が付いた。そう、麻里が持っていないのなら、持っているのは…。
「残念だったな」
そこには、朋美の頭部にコルトパイソンの銃口を向けている俊希の姿。
―や、やられた…。
「横溝、お前がいることには気が付いてた。そして俺が殺した奴以外にも死んでるってことは他の誰かが殺してるってことだ。でも竜弘たちは誰も殺したようには見えなかった。となれば殺してるのは横溝しかいないよな」
「…それで、ここに私がいるのに気が付いて、一芝居うったってわけ?」
「まあな。草川が偶然、お前に気付いたんだ。銃の類は持ってないこともな。俺たちを倒さない限り、お前はどうあっても勝てない。だから襲ってくるとは思った。だが、ろくな武器のないお前がどうやって勝とうとするかを考えた…」
その先は朋美にも分かった。俊樹たちは結局、朋美の行動が予測できていたのだ。
「そこでお前を嵌める方法を考えてみた。その結果、こういう方法を取ってみた。大博打だと思ってたが、大成功だったよ」
―やっぱり。
思ったとおりだった。完全にやられたのが分かった。
「それじゃ…死んでもらう。俺は草川を優勝させる」
―竜弘君を…殺せなかった…それだけは、心残りだな…。ちょっと、悔しいな…でも…仕方ないのか…なぁ…。
銃声。
朋美の頭部が撃ち抜かれ、その場に崩れ落ちる。そっと流れ出す朋美の血液。それは横溝朋美の死を証言しているようだった。
俊希は地に落ちたペネトレーターを拾い上げて、麻里の方を向いた。
「行こう、草川。あと少しだ」
「うん」
二人は歩き出した。途中、麻里はそっと振り返って、朋美の死体に目をやる。しかしすぐに前を向き歩き出した。
15番 横溝朋美 ゲーム退場
<残り5人>