BATTLE ROYALE
誓いの空


第37話

 殿場島へと向かっている一台の船。
 その甲板に笹川恭子(元山口県立殿場中学校3年1組担任教諭)は腰を下ろしている。
 傍らには、この船に乗る前に貞川永次に渡されたベレッタとステアーがあった。
 今から自分は、生徒たちを助けに向かう。しかし…いざという時、自分は戦えるのか、そんな不安も過ぎる。だが恭子は決意している。この先には平穏だってない。こんな行為をすれば、政府からも追われる。
 しかしそれでいいのだ。これが恭子に課せられた使命なのだと思っている。
 大事な生徒たちを殺させたくはない。プログラムの対象クラスになったと言われた時、何も出来なかった自分を捨てて、待っていたはずの平和な刻を捨てて。
 それこそ、選ぶべき道だったはずだから。

―皆は今、どうしているだろうか?
 恭子は、今も殺し合うことを余儀なくされている1組の生徒たちのことを思った。

 石城竜弘(1番)。態度が良いほうじゃなかった。でも、気が良くて、責任感も強かった。彼は今、クラスメイトをまとめ、戦いを拒否していたりするのだろうか? 恭子は竜弘がゲームに乗る、ということを考えはしなかった。

 大谷俊希(2番)。仏頂面で、いちいち言うことが辛口だった。でも、心の根は優しいのは知っていた。表現が下手なだけだったのだ、俊希は。

 草川麻里(3番)。彼女は、この状況に耐え抜いているだろうか? 少々不安でもある。しかし、彼女は恐らく俊希と一緒にいるだろう。恭子も、麻里の想いは知っている。今は俊希と共にいることを祈るばかりだ。

 佐野雄一(4番)。彼のような人物なら、この状況下でも自分を保っていられるだろう。今は、竜弘たちと一緒にいるのだろうか?

 鈴木政仁(5番)。クラスの遅刻魔。それを悪びれる様子もなかったから、他の教師からの受けは悪かった政仁。でも、彼の仲間を思う気持ちはとても強いはずだ。彼はゲームに乗ったりしない。恭子は信じていた。

 鶴見勇一郎(6番)。色々なことに詳しかった勇一郎。彼みたいな人間が、この状況では冷静でいられるのかもしれない…。

 能代直樹(7番)。いつも一歩引いて物事を見ていた。だから誤解されやすかった。もっと人に近づいていけば良いのに、と思っていた。

 東野博俊(8番)。特に取り柄がない、みたいなことを言っているのを聞いたことがある。しかし、彼の優しさはこの状況はでも重宝しているかもしれない。

 船石裕香(9番)。どんな人だって信じられる裕香は、実は一番強いのかもしれなかった。そんな裕香が、時々羨ましい。

 松谷沙耶(10番)。彼女の一声で、騒ぎが収められそうなぐらいの姉御肌だった。その性格をこの状況で生かして生き残っていることを祈るばかりだ。

 宮崎紀久(11番)。機械などに詳しく、その頭脳は恐らくクラス一と言っても良かった紀久。このゲームにおいても脱出の方法などを探しているのかもしれない。それでこそ紀久だ。

 森木真介(12番)。弱気な性格の真介は、正直不安だった。この状況でやっていけているだろうか…。

 山下由里加(13番)。誰からも好かれていた由里加は、この状況をどう乗り越えているのだろうか? 案外、仲間を集めるのに成功していたりするのかもしれない。

 山吹志枝(14番)。クラスではちょっと浮いていた志枝。彼女は徐々に嫌われていった自分をどう思っていたのだろう?

 横溝朋美(15番)。彼女が石城竜弘に好意を持っているのには恭子も気付いていた。彼女は竜弘といるのだろうか…。

 吉岡美佳(16番)。容姿を気にする彼女の行動は、別の見方で見れば大人びていた、ということなのだろう。少なくとも恭子はそう思っている。

 脇坂将人(17番)。ひょうきんな将人。だがそんな将人が実は隣の2組の女子に意外ともてていたことを、彼は知っているのだろうか。間違いなく知らないはずだ。将人はそういうタイプだ。


 ここまで、1組の生徒たちのことを考えてみたが、すぐに彼らが教室で戯れている姿が眼に浮かんでくる(当たり前だ。ついこの間まで普通に学校生活を送っていたのだ)。

 ……。
 サッカーの話をしている竜弘と雄一。その横で寝ている政仁。

 竜弘の姿を眼で追っている朋美。その手にはオスカー・ワイルドの「サロメ」がある。

 何やら笑い話をしている勇一郎と、それを聞いては笑みを浮かべる博俊。横で聞きながら含み笑いをしている直樹。

 将人の話に爆笑している真介と、吹き出している紀久。

 楽しそうに話をしている麻里と沙耶。そしてその横で何気に話を聞いている俊希。

 志枝の話に相槌をうつ裕香と由里加。

 すっと教室を出て行く美佳。


 ついこの間までの話なのだ。なのに…。
 今は何人があの島で生き残っているのかすら分からない。恭子にはせめて一人でも多く生徒たちが生き残っていることを祈るしかなかった。

「…そろそろ着きます。港には兵士がいるでしょうから、私の家の近くの岩場に接岸しましょう。準備してください」
「分かりました…」
 恭子はベレッタを握り締めた。

                           <残り5人>


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