BATTLE
ROYALE
〜 誓いの空 〜
フィニッシュ
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第39話
「……」
ガシシ若松(山口県立殿場中学校3年1組プログラム担当教官)は、モニタールームのソファーの上で生徒の会話記録をチェックしていた。
その中で、一人の生徒の言葉が心に違和感を残した。
少し前の、松谷沙耶(10番)の言葉。
―ねぇ、もし脱出できたらさ、何する?
「…やっぱり、おかしいよなぁ…?」
この松谷沙耶の言葉、普通に聞けば何の変哲もない、「脱出する、なんてことができたら何がしたいか」といった意味のただの願望の言葉に過ぎない。
しかし、この松谷沙耶の言葉の語気は強く、まるで脱出が可能だと言わんばかりの勢いである。これは、長く担当教官を務めてきた若松の『勘』だ。
―そして、羽縄が以前に言っていたこと―。
石城竜弘(1番)たちが貞川永次の家に向かっていること。
さらに松谷沙耶は竜弘たちと現在行動を共にしている。そこから考えられることは…。
―脱出への作戦の遂行。
「なるほど…もっと早く気付くべきだったかなぁ…おい、庸苦!」
そして若松はモニターから離れていた兵士、庸苦を呼びつけて言った。
「石城竜弘たちが脱出作戦を立てている可能性が濃厚になった。十分に警戒し、念のために戦闘準備を整えておくように羽縄に言っといてくれ」
「了解しました!」
そう言って庸苦はモニタールームから出て行き、休憩室にいるであろう羽縄のもとへ向かった。
若松は会話記録をテーブルに置き、モニター画面を眺めて呟いた。
「戦闘準備完了までに、脱出作戦を行うことは絶対にできない。何故なら…あの二人がいるからなぁ」
若松の視線の先には、モニターに映る番号、『2』と『3』があった。
「…ねぇ、俊希君」
ここは、D−4エリア辺りだろうか、草川麻里(3番)は一言、大谷俊希(2番)に向かって呟いた。
「ん?」
俊希は自分の後ろを歩いている麻里に顔を向ける。いつも通りの無愛想な顔。でも、それが俊希なのだから、それで良いのだと、麻里は思っている。
「どうした?草川」
「ううん…何でもない」
麻里はぷるぷると首を横に振った。俊希はまた前を向き、歩き始める。
―俊希君。俊希君は何で…そんなに私を助けようとするの?
―私は俊希君のことが好き。だから俊希君に生き残ってほしい。けど…何故あなたは私が生き残ることをそんなに求めるの? どうして?
もう一度麻里は、目の前にいる俊希の大きな背中を見つめた。
―まさか、俊希君も私を…とか? …そんな都合のいいこと、あるわけないよね…。俊希君。
もし、ここが殺し合いの場でなかったなら。俊希が自分のためなんかに人殺しになったり、自分が俊希のために戦おうなんて思ったりしなくて良い場所だったなら―麻里は今すぐにでも、俊希のその大きな背中に抱きつきたかった。
そして伝えたかった。
―「私は、俊希君のことが、とても、とても、好きです」と。
だがそんな思いは叶えることはできない、と麻里は感じていた。自分は人殺しをしようとしている。「俊希君を生き残らせるため」という、身勝手極まりない理由で、親友の沙耶にまで銃口を向けた。
そんな自分に、人を愛する資格などない。
もう、こんな苦しみから逃れたくて仕方がなかった。生き地獄だった。
しかし、逃れることはできないのだ。出発したあの時から、麻里は無間地獄に嵌っていたのだ。
麻里の心が泣いている。しかし、眼は涙一つ浮かべなかった。そんなことがあれば、俊希にいらぬ心配をかけてしまうから。
その時だった。俊希の足が、止まった。
「…草川、いたぞ」
俊希がペネトレーターを構える。
俊希の視線の先には、石城竜弘たちが、いた。
<残り5人>