BATTLE
ROYALE
〜 誓いの空 〜
第40話
殿場島の北にある岩場。そこに貞川永次と笹川恭子(元山口県立殿場中学校3年1組担任教諭)を乗せた船は接岸した。
「さぁ笹川先生。ここから島に侵入します。武器を持ちましたか?」
「は、はい」
恭子が答えると、永次は微笑んで言った。
「大丈夫ですよ…。それじゃ、あなたの教え子たちを助けに、行きましょうか」
「…俊希」
能代直樹(7番)は言った。
目の前に再び、大谷俊希(2番)と草川麻里(3番)が現われたのだ。俊希はペネトレーターを、麻里はコルトパイソンをそれぞれ構えている。
―二人は、お互いを生かすために自分自身を犠牲にしようとしている…。
それはあまりにも哀し過ぎる想いだと思う。そこまで互いを想い合っているが故の悲劇なのだろう。
「…能代、竜弘、松谷…これが最後の戦いだ。ここで俺はお前らを殺して全てを終わらせる」
「これが、最後? まだ朋美が残ってるんじゃないのか?」
竜弘が言った。確かにまだ、横溝朋美(15番)が生き残っているはずだった。しかし直樹には分かっていた。俊希が最後だといっている以上、俊希は朋美を…殺した。そして俊希は、予想通りのことを言った。
「横溝は俺が殺した。だから…これで終わりだ」
言い終わると同時に俊希がペネトレーターの引き金を引く。だが同時に竜弘が、
「能代、松谷!」
と叫んで直樹と松谷沙耶(10番)を横の茂みに引っ張り込んだ。銃弾はさっきまで二人がいた場所の地面を抉っていた。
「麻里…」
不意に、沙耶が麻里に向かって問いかけた。
「麻里、あなたが『権利者』なんでしょう?」
その問いかけに、コルトパイソンを構えていた麻里の眼が一瞬泳ぐ。しかし、すぐに平静を取り戻して、直樹たちのいる辺り目掛けてコルトパイソンを撃ってきた。
「そう…私が『権利者』よ…。沙耶の言う通り…私が…」
麻里が呟いた。
「そして俊希君は、私を生き残らせると言ってくれた…。嬉しかった。でも、私は…」
麻里が言葉を一旦切った。そしていっそう強い口調で言った。
「でも私は、俊希君を殺したくない。俊希君は最後に自分を殺せば私が生き残れると言った。けど、殺せない! だって、俊希君は…俊希君は…私の大切な人だから…」
麻里の眼に涙が浮かんでいた。そして一筋、頬を伝い落ちる。
「だから私はこのゲームに乗るの。生き残るのは私じゃない、俊希君だから…私は俊希君に生き残ってほしいから…。そのために全てを捨てる覚悟を決めたの」
「草川…」
一方でペネトレーターの弾倉を装填していた俊希が、麻里の方を見た。
寂しげな、表情だった。
俊希はきっと、麻里の決意に気付いていなかったのだろう。そんな俊希が直樹には、少し哀れに思えた。
―このままだと、一方が絶対に死ぬ…。そんなことあってたまるか。
「松谷…」
直樹は傍らの沙耶に声をかけた。直樹は沙耶の手にあるH&Kデトニクスを見て言った。
「この銃で二人の注意を引いてくれ。その間に俺が…俊希を捕らえる。俊希を捕らえれば草川は止められると思う。そして二人を説得しよう」
「で、でも…」
「いくらなんでも危険だ、やめろ!」
沙耶と竜弘が言う。
「でも、ここで二人を、止めないといけないんだ」
そして直樹は飛び出した。それを見て沙耶が麻里の方にデトニクスの引き金を引いた。銃弾は麻里の足元で跳ね、麻里はそれに気を取られていた。
―よし!
直樹は素早く俊希の背後へと近づく。だが直樹の予想外のことが起こっていた。俊希は沙耶の銃撃に釣られていなかったのだ。
俊希が振り向き、ペネトレーターを構えて、撃った。
連続した銃声。だが、直樹は近くの木の陰に隠れ、ステアーを構える。
―いざという時のために、準備しておかなくちゃな。
時々身を乗り出すと、俊希は直樹目掛けてペネトレーターを撃ってくる。直樹は必死でこれを続けた。
直樹は理解していた。サブマシンガンというものは、連射ができる反面、弾切れも早いということに。
そしてその時は訪れた。俊希のペネトレーターが弾を放たなくなり、としきが弾倉に予備の弾を込め始めていた。
直樹はこの好機を見逃さず、俊希の方へと駆け出す。
「―!」
俊希は反応できなかった。素早く直樹は俊希に接近してその手を捕らえ、その場に倒した。そして、沙耶たちに銃口を向けている麻里に向かって言った。
「草川、俊希は押えた! お前らの負けだ。俺たちの話を聞いてくれ」
「草川、構うな、俺を撃て!」
直樹の呼びかけと同時に、俊希が叫んだ。だが、先程の麻里の言葉を信じるならば、麻里は俊希を無視して直樹を撃つことはできない。
直樹はそう確信していた。
そして、その予想通りの結果が訪れた。
麻里はコルトパイソンを取り落とし、がくっと膝をついた。
「撃てないよ、俊希君…私には…撃てないよ…」
直樹はそんな麻里の姿を見てから、俊希に言った。
「どうする? まだ、続けるか?」
「……」
俊希はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「分かった…話だけでも聞く」
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