BATTLE
ROYALE
〜 誓いの空 〜
第41話
「…大谷と草川、合流しちまったな」
本部のモニタールームで、ガシシ若松((山口県立殿場中学校3年1組プログラム担当教官)は、呟いた。
普通、有り得ない展開だった。
やる気満々だったはずの大谷俊希(2番)と草川麻里(3番)の二人が石城竜弘(1番)たちのグループに合流してしまったのだから。
しかも竜弘たちが脱出作戦を立てている可能性は高い。
―しかし、二人が脱出作戦などという、場合によっては荒唐無稽なものに乗るだろうか?
若松はそう考えてもいた。
実際、脱出が成ったところで、もう普通の生活に戻ることはできない。ずっと共和国の政府に追われ続けることになるのだ。そうなったら、先に待っているものは…暗い。
果たして、あの二人が乗るかどうか…?
そして、二人が合流してから、20分ほど経った時。唐突に銃声が響き渡った。
生徒の反応を映し出しているモニターに向かっていた、庸苦が叫ぶ。
「1番、死亡しました!」
「何、石城竜弘がか?」
若松が聞くと、庸苦が応える。銃声は更に響き続ける。それは大谷俊希が持っていたはずのペネトレーターの音だった。
「は、はい…あっ、10番死亡、7番死亡!」
―松谷沙耶(10番)…能代直樹(7番)…。
これで残ったのは大谷俊希と草川麻里だけとなった。やはり、脱出は無理と判断した俊希が、竜弘たちを殺したのだろうか。
「盗聴の音量を上げて」
羽縄が盗聴の担当の兵士に命じた。そして音量が上がり、会話が鮮明に聞き取れるようになる。
『俊希…君?』
『草川…やはり脱出なんて無理だ。だから…草川。俺を撃て。それで草川の優勝だ』
『…駄目、私…、俊希君を撃つなんて…絶対に、絶対に出来ない!』
『草川、俺は構わない、だから撃て』
『いや…絶対に…いや!』
『何をするんだ、草川!』
『私は…俊希君に…生きてほしかった。それが望みだった。俊希君が生き残るためだったら何だって出来た。だからね、俊希君…』
……
『生きて』
……
ドン。
一発の銃声。それは間違いなく、草川麻里の持っていたコルトパイソンのものだった。そして聞こえる、大谷俊希の怒号。
「3番、死亡です」
庸苦が呟いた。
「ゲーム終了、ガシシさん、アナウンスお願いします」
そう羽縄に言われて、ガシシは立ち上がった。
「…分かった。但し…」
「戦闘準備は完全にしておけ」
「…よし、いいぞ、草川」
直樹は麻里の首輪を手順どおりに外すと、言った。
「…うん」
「やっと、首元がすっきりしたな」
「そうよね、気分が少し良くなったみたい」
竜弘と沙耶が交互に言った。
そう、今までの行動は全て演技だった。
まず、俊希と麻里には全ての事情をいつものように地図の裏に書いて説明し、納得してもらった。そして向こうを騙すのにおいて一番適役であるはずの、ついさっきまでやる気だった俊希を裏切る役に抜擢した。
そしてまず竜弘を殺した振りをして直樹に首輪を外させ、続いて沙耶も殺した振りをして竜弘に、そして直樹も竜弘に任せた(首輪の外し方をまず直樹だけでなく竜弘にも叩き込んでおく必要があったが)。
後は麻里が俊希を生き残らせるために自殺―した振りをして、直樹に首輪を外させた。
最後は優勝者役の俊希を本部に戻らせて、竜弘たちは優勝者を乗せる船に進入してガシシたちを倒す。そういう計画だった。
『大谷俊希君、君が優勝者です。全ての武器を捨てて、本部に帰還してください』
ガシシのアナウンスが流れた。
すると俊希が立ち上がり、歩き始めた。俊希は振り返ると、竜弘たちに、親指を立てた拳を突き出した。
ガッツポーズのつもりなのだろう。
「…俊希、頑張ってな」
竜弘が呟く。
俊希はゆっくりと、本部へと向かって歩き出した。ただ、その顔が少し哀しげだったのは、気にかかった。
1番 石城竜弘
3番 草川麻里
7番 能代直樹
10番 松谷沙耶 退場
<残り1人(実際は生存者5人)>