BATTLE
ROYALE
〜 誓いの空 〜
第42話
「…上手く、行くかな…」
石城竜弘が、呟く。ついさっき偽りの優勝者として学校に向かった大谷俊希の身が少し心配になっていた。
「大丈夫だよ、きっと上手く行くって!」
松谷沙耶が、少し不安がっている竜弘を励ますように言う。
「…とにかく、俺たちは優勝者を乗せる船がある港に行こう」
そう、能代直樹が残った三人に言った時だった。
「…残念ながらその作戦はこのままでは失敗するよ」
―誰だ!?
竜弘はぎくりとした。
もうこの島には竜弘たち以外いないはず。なのに…、その声はそこにいる面々とは違う穏やかな声で、竜弘の背後から聞こえていた。
―……!
竜弘が振り返ると、そこにはたくさんの銃器を持ったこの殿場島の住人、貞川永次と、竜弘たちの「元」担任、笹川恭子が立っていた。
―な、何でこの二人がここに…。
「何で、こんなところに…」
沙耶が言った。すると、笹川先生が申し訳無さそうに言った。
「ごめんなさいね…、私は一度は皆を裏切った…。だから、今度は皆を助けたいの。だから貞川さんと一緒にここに来たの」
竜弘は意外だった。まさか、笹川先生がそこまでするとは夢にも思っていなかった。心の隅で、彼女が助けに来ないかと思いつつも、有り得ないと考えていた、彼女が。
「貞川さん…あのメモは…」
直樹が尋ねる。
「君たちの役に立てばと思って、君たちのクラスがプログラムの対象になることを知ってから調べ上げて、残しておいたんだよ。ちゃんと役立ててくれたようで良かった」
貞川はそう言って微笑んだ。
「ところで…失敗するって…どういうことですか?」
草川麻里が不安そうに言った。そう、それが肝心の本題なのだ。竜弘も貞川が作戦が失敗するといった理由が気になっていた。
麻里の質問に貞川が答える。
「さっき、ちょっと私たち二人は本部の様子を見てきたんですよ。すると、本来のプログラムよりも警戒度が上がっていました。何故かは分かりませんが、脱出策があることが知られてしまったようですね」
「! …そんな…」
直樹が、絶望したように呟く。
「さっきの様子から見て、本部に向かったのは大谷君みたいですね。だとすると…彼らは大谷君を詰問するでしょう。そして…」
その先はもう、竜弘にも分かった。ガシシたちは、竜弘たちに協力した俊希を殺すだろう。そして竜弘たちも殺そうとする。
「俊希君が…、助けに行かなきゃ!」
そう叫ぶのが早いか、麻里が足元にあった俊希の置いていったペネトレーターを引っ掴み、腰にコルトパイソンを挿して駆け出していった。
「…俺たちも行くぞ!」
竜弘はそう叫んで、麻里を追って駆け出した。
―大丈夫なんだろうか…?
俊希は、一抹の不安を感じながらも、本部のある母校の前に立っていた。
その姿を認めた見張りの兵士が、近づいてくる。その兵士の数が、出発した時よりも多いことに、俊希は気付いていた。
―おかしいな…? 何で…。
「武器を、隠し持ってはいないだろうな?」
見張りのうちの一人が言う。それに合わせて、俊希はデイパックを見張りに渡し、もう一人の見張りのボディチェックを受けた。そして異常無しと分かると、中へと通された。
俊希は、廊下を歩きながら思った。
―随分物々しい警戒体勢だな…。これはひょっとして…能代たちの脱出策がばれてるのかもしれない…。でも不用意な発言は誰もしていないはず…おかしい…。
そう思いながらも、俊希は兵士が見張りに立つ部屋の前に来た。
兵士が、中に入れ、と促す。そして俊希は、その部屋の中に入る。
そこは、俊希たち1組の教室だった。だが、その部屋には今や多くのモニターが設置されていて、もう以前の姿はどこにもなかった。
そして奥のソファに座っていたガシシが立ち上がり、言った。
「よく来たなぁ、大谷君。まあ、もう一つソファがあるから座ると良い」
そう言われて俊希は、ガシシの座っていたソファのテーブルを挟んだ反対側のソファに座り、そしてガシシをじっと見据えた。
その頬が少しばかり緩んでいるのを見て、俊希は、嫌な予感を感じた。
<生存者5人>