BATTLE ROYALE
誓いの空


第43話

「まさか、草川が自殺するとは君も思ってなかったろ?」
 ガシシが俊希に、そう語りかけながら、手元にあった湯飲みを取り、飲む。湯飲みは俊希のほうにもある。中身は番茶のようだ。
「……」
 俊希は敢えて何も言わない。何となく、俊希は予感していた。

―ガシシは全て気付いてる。

 俊希と麻里の完全の翻意、そして竜弘や直樹たちの演技。それら全てに、何故かは分からないが―この、ちょっと抜けた風に喋る男は…気付いていることに。
 となれば待っているのは、俊希の死。そして残った全員の殺害。

「なぁ、君は草川を生き残らせるために戦ったんだよな? 『権利者』である彼女を生き残らせるには自分が戦い、最後に残った自分を草川に殺させる…。普通は出来ないよ、そんな真似。でも…」
 ガシシはそれだけ話すと、一呼吸置いた。
「君なら出来そうなんだよなぁ。君のこれまでの資料などから分析すると、君は草川麻里を…」
「うるさいな。そんなことはもうどうでも良いだろう? もう草川は死んじまった…。もうそんなことを言っても仕方の…ないことだ」

―そう、俺は死ぬつもりだった。草川を死なせたくなかった。

 だから俊希は、このゲームに乗ったのだ。麻里を死なせたくないから。麻里に生きていてほしいから。ずっと…ずっと笑っていてほしいから。俊希のことなど忘れて…笑顔でいてほしいから。
 しかし、そのためにはクラスメイトを俊希が殺さなくてはならない。
 だが、麻里を助けたかった。だから俊希は…ラインの向こう側へ行った。『人間』と『鬼』の境のラインを越えて。
 そうやって俊希は、
鈴木政仁(5番)も、鶴見勇一郎(6番)も、東野博俊(8番)も、吉岡美佳(16番)も、山下由里加(13番)も、脇坂将人(17番)も、宮崎紀久(11番)も、横溝朋美(15番)も殺したのだ。
 全ては麻里のため。そう思っていた。

 だが、竜弘たちに説得されて話だけでも聞くことにした時、直樹が言ったのだ。
「お前を殺して草川が優勝しても、草川は決して喜ばない。お前は、草川にとってのワーストワンの道を選んでいないか?」
 その時、俊希は思った。
―人を殺して、クラスメイトを殺して、たった一人生き残った草川に、笑顔はあるだろうか…いや、きっとないだろう。ならば…能代たちの作戦に乗るべきなのか…?

 結局、俊希は麻里と共に脱出作戦に乗ることにした。その時、裏切る『役』は自分にしてほしいと、言った。
 そして今、こうしてガシシと向き合っている。
「どうでも良くなんかないな。だって君にとっては、草川麻里が生き残るのが最善だったんだ。そうだろ?」
「…まあ、な」
「つまり、草川が生き残れるのなら、君には優勝だろうが脱出だろうが、どっちでもいい、ということにはならないかな? 君一人では脱出の方法が思いつかなかった、だからやる気になっただけのことで」
「そんなの…空論だろ?」
 だが、俊希はガシシの話が核心へと近づいていることが分かった。
―やはりこの男は気付いている…。どうする…、このままだと、草川たちが…。
「実は、だ。こっちはある理由から石城竜弘たちが脱出の方法を手に入れていることに気付いていたんだ。だから」
 一旦切る。
「あいつらはまだ生きてる。そして君を偽りの優勝者にして首輪を何らかの方法で外して、脱出、といったところだろ? でもな、ルール違反は駄目だ。だから君は…ここで死んでもらう」
―何処までも予想通りだ。いつもは予想がよく外れるのにな。こういう時だけ当たるなよ。
「大丈夫、君の優勝は認めるよ。だから今回の優勝者は負傷のため、帰還前に死亡…ってことにしておくよ。じゃあ…さようなら」
 そう言って、ガシシは腰から一丁の拳銃(コルト・ガバメントだろう)を抜き、その銃口を俊希の眉間にポイントした。
―こうなったら…方法は一つだな。
 俊希はその瞬間、手元にあった湯飲みを素早く奪い、ガシシの顔面に投げつけた。野球部時代に培った、正確無比のコントロール。放たれた湯飲みはガシシの顔面で砕け散った。
「ぐおあっ」
 ガシシがガバメントを取り落とし、両手で顔を覆った。すぐに俊希はガバメントを拾い、ガシシに向け、撃った。
 一発の銃声と共に、眉間を貫かれたガシシの身体がソファに崩れ落ちた。
「何とかに刃物、俺に投げられる物…なんてな」
 その時、ドアを開けて一人の兵士(その兵士の名を俊希は知らなかったが、庸苦だった)が入ってきた。
「非常事態、敵襲で…」
 そう言いかけた庸苦が、アサルトライフルを俊希に向けようとする。しかし俊希は一瞬早く、庸苦にガバメントの銃口を向けていた。
―狙うのは、頭!
 ドン、ドン、ドンという三発の銃声。俊希のガバメントから放たれた三つの銃弾は庸苦の顔に命中し、その場に倒れこんだ。
 俊希は庸苦に駆け寄り、その死を確認してから、アサルトライフルを奪った。
―敵襲って言ってたな…。まさか竜弘たちが来たのか? でも作戦とは違うな…何でだ?
 疑問に思いながらも、俊希はガバメントを腰に挿し、アサルトライフルを持つと、教室を飛び出した。

                           <生存者5人>


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