BATTLE ROYALE
誓いの空


第44話

―俊希君…!
 
草川麻里は走っていた。全ては大谷俊希のために。皆での脱出のために。
 麻里は俊希が自分のために殺人を始めた時、麻里は決めていた。

―最後は私が死んで終わろう。私の存在そのものが、俊希君を望まない殺戮へと駆り立てている…。そして、俊希君には生きてほしい。だから…。

 しかし、麻里はまだ自分は何もしていないと思っていた。ずっと俊希に守られっぱなしだと、思っていた。
 そして今、俊希の身に危険が迫っていると、貞川永次と笹川先生が教えてくれた。その瞬間、麻里の心は決まっていた。

―俊希君は私なんかのために、何かをしようとしてくれていた。今度は私が、俊希君のために何かをしてあげる番!

 そして麻里が殿場中学校の校庭の隅にやってきたその時、校舎の中で一発、銃声がした。そして間を置いて三発。

―俊希君!!

 麻里は校舎の前に立つ見張りに向かって飛び出していた。
「うわあぁぁぁーっ!」
 見張りが麻里に気付き、アサルトライフルを向ける。しかしほんの僅かに早く、麻里は右手に持ったペネトレーターの引き金を引いた。既に弾が充分に込められたそれの銃口から、見張りに向かって弾丸のシャワーが降り注いだ。
 見張りの兵士の全身に穴が空くと、その身体は力を失い、うつ伏せに倒れた。
「どうした、何だ今の銃声は!?」
 今度は、校舎の中から兵士が三人、駆け出してきた。そして麻里の姿を認めると、表情を強張らせてアサルトライフルを構えようとする。
「邪魔しないでっ!」
 また麻里はその兵士たちに向かってペネトレーターの引き金を引く。放たれた銃弾たちが兵士三人の身体を貫く。しかし、そのうちの一人は致命傷を負わなかったのか、まだ立っていた。
「こ…の…!」
 だが直後、一発の銃声と共にその兵士の額に穴が空き、崩れ落ちた。
―今のは…!
「一人じゃ無理だ、俺たちも手伝うよ」
 背後に、銃口から硝煙の立ち上るステアーを持った
能代直樹が、そう言いながら立っていた。そしてその後ろに、石城竜弘松谷沙耶、貞川永次、笹川先生もいた。それぞれの手には、様々な銃器が握られている(それらの殆どは貞川が用意した物だった。沙耶の持っていたデトニクスは殺傷能力が高くないので沙耶の腰にあった)。
「そう、俺たちだって俊希を助けようって、思ってたんだからな」
「あんたの好きな男なんだから、助けてやらなきゃね」
 竜弘と沙耶が揃って言う。
「さあ、じゃあ行きましょうか、皆」
「まずは俊希君を探しましょう」
 貞川と笹川先生が言った。
「…皆…!」
 麻里の目の涙腺が少しばかり、緩むのを感じた。
「よし、行くぞ!」

 校舎の中では、激しい銃声が響いていた。
 竜弘が手に持ったアサルトライフル(見張りが持っていたものだ)で、でてきた兵士の全身を撃ち抜く。直樹はステアーで一つずつ確実に、兵士たちの命を奪っていた。
 沙耶はそんな二人の後ろから、二人を援護する。
 そして麻里は、貞川、笹川先生と共に、校舎の中を走り回って大谷俊希を探していた。
「俊希君、何処!?」
 麻里は叫ぶ。力の限り、叫ぶ。そのためにできた一瞬の隙をついて、一人の兵士が物陰から麻里を狙う。
「邪魔をしないでいただけますか?」
「草川さんの邪魔をしないで!」
 貞川と笹川先生がその兵士に向かって持っていた小銃の引き金を引く。全身を撃ち抜かれた兵士が崩れ落ちる。それを尻目に、麻里は走った。
 そして…目の前に人影が見えた。
―あれは…!
「俊希君…!」
 それは、紛れもなく大谷俊希本人だった。その手にはアサルトライフルが握られていた。麻里の目に、涙が浮かぶ。
「何やってるんだ草川…!」
「何って…俊希君を…俊希君を助けに来たに決まってるでしょ…」
「馬鹿、そんなことしなくっても良かったのによ…」
 俊希が呟く。その瞬間、麻里は言っていた。ずっと言いたかったことを。
「だって…好きだから」
「え?」
「俊希君のこと、ずっとずっと好きだったんだから…だから、俊希君を助けたかった…」
「草川…」
 俊希がそう呟いて、麻里の方へ歩を進めたその時だった。
 俊希の背後からの連続した銃声と共に、俊希の身体が銃弾に貫かれた。
「ぐおっ…」
「と、俊希君!?」
 麻里は俊希の身体の向こうを見る。そこには出発する前に教室で見た男―羽縄が立っていた。
「終わりだ」
 羽縄はそう言って、アサルトライフルを撃つ。また響く連続した銃声。その瞬間、麻里は俊希に、倒れていた兵士の死体の陰に押しやられた。
「俊希君、何を…」
 俊希は麻里のほうを振り返った。ほんの僅かな微笑で。しかし、少し悲しむような眼で。まるで、別れを惜しむような眼で。
 そして、言った。

「俺も…草川のこと、好きだからな」

 そして、俊希は駆け出す。
「俊希君、やめて!」
 麻里の叫びも届かなかった。俊希は羽縄に向かって、アサルトライフルを撃った。そのいくつかが、羽縄に当たる。しかし、羽縄はまた、アサルトライフルを撃った。
 放たれた銃弾が再び、俊希の身体を貫く。俊希の身体は銃弾の中仁王立ちとなり、そして…うつ伏せに倒れた。
―俊希君が…俊希君が…? 嘘でしょ…? だって…、私のこと好きだって言ってくれたんだよ? 場違いなシチュエーションだったけど、好きだって言ってくれたんだよ…? なのに…。
―許さない!

「よくも、俊希君を―! 許さない!」
 麻里はすぐさま、羽縄の前に飛び出し、ペネトレーターを撃った。羽縄の身体をペネトレーターの銃弾が抉り、そのうちの一発が頭部を貫通した。
 羽縄の身体が崩れ落ち、もう二度と動くことはなかった。
「俊希君! しっかりして!」
 麻里はすぐに俊希に駆け寄った。俊希には、意識がなかった。しかし…まだ辛うじて息をしていた。その時、直樹がやってきた。
「草川、他の兵士たちは片付けた、そっちは…!」
 そこまで言ったところで、直樹は黙ってしまった。やがて、竜弘と沙耶、貞川に笹川先生もやってきた。
「これは…大谷、どうしたんだ!? おい!」
「大谷、ちょっと何やってんのよ、死んじゃ駄目よ!」
「大谷君…!」
「一体どうして…」
 黙っていた麻里は、俊希の身体を抱き起こした。そして、貞川に言った。
「俊希君は…まだ生きてます。貞川さん、お願いです。俊希君を、俊希君を助けてください!」
「…よし!」
 そして貞川は、竜弘と直樹に手伝わせて、俊希の身体を担ぎ上げ、走り出した。麻里と沙耶、笹川先生もそれに続いた。

    <ゲーム終了/生存者:1番石城竜弘、2番大谷俊希、3番草川麻里、7番能代直樹、10番松谷沙耶:以上5名、消息不明>


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