BATTLE
ROYALE
〜 誓いの空 〜
第6話
「17番、脇坂将人君」
ガシシに呼ばれて、脇坂将人(17番)が出発していった。
いつもはひょうきんで、クラスの盛り立て役になってくれる将人も、この状況下では普段の性格の片鱗も見せられなかった。将人は結局、デイパックを受け取るとすぐに廊下を駆け出して行ってしまった。
石城竜弘(1番)は、将人のそんな姿を見て、思っていた。
―将人のような奴でも、この殺し合いゲームの前では、恐怖に駆られる。でも、そんな状態になったら奴らの思う壺だ。
竜弘は教壇に立つガシシを睨みつけた。しかしガシシは、そんな竜弘の視線には全く気が付いていなかった。
―とにかく、仲間を作ることが重要なはずだ。だから…。
竜弘は、自分の前後に座る佐野雄一(4番)と鈴木政仁(5番)に、話しかけた。
「二人とも、後で学校の南の空き家に集まろう」
「えっ…分かった」
「おう」
二人は了解してくれたようだ。その時、ガシシが言った。
「先頭に戻って、1番、石城竜弘君」
すぐに竜弘は立ち上がった。その姿を雄一と政仁が見上げていた。
「大丈夫だ。俺は殺しあったりなんかしない!」
竜弘はそう言い放つと、ガシシの元へと向かった。羽縄がデイパックを渡してきた。その直後に、ガシシが言った。
「頑張って殺しあってくれよ」
「生憎だが、俺は人の言うことを聞くってのが苦手でね」
竜弘は精一杯の皮肉を込めて言ったが、ガシシはちっとも堪えていないようだった。
「ちっ」
竜弘はすぐに出口から駆け出し、玄関の近くまでやってきた。しかし、そこで竜弘は予想だにしていなかった光景を目撃した。
―そんな…。
誰もそこにはいなかった。竜弘はクラスメイトを信じていた。皆、こんなゲームに乗らないだろう。自分を信じてくれるだろう…、そう思っていた。
だがその希望は打ち砕かれた。
スタート地点で待ち伏せる奴がいるとでも、皆は思ったのだろうか? 分からなかった。
「ちくしょう!」
竜弘はすぐに駆け出した。こうなった以上、スタート地点に残る気はしなかった。大谷俊希(2番)などと合流することも思いつかなかった。
でも良かった。雄一と政仁だけでも合流の約束を交わせたのだから。
竜弘はそこで武器のことを思い出した。
―そうだ、武器は何だ?
竜弘は一旦立ち止まり、デイパックの中身を開けてみた。中にあった支給武器らしきものは、小さな携帯端末らしきものだけだった。
「何だ、これ…?」
とにかく、これが何なのかが分からなければ意味がない。
―まあまずは、空き家に着いてからだな…。
そう思って竜弘は、空き家を目指して歩き始めた。
その頃、学校の玄関先では、大谷俊希(2番)が立ち尽くしていた。
―…最初からそれほど期待はしてなかったけど…大当たりだ。
誰もいない運動場。少し強くなってきた風が木々を揺らし、砂埃が立ち、俊希の視界は狭まる。
「…やれやれ」
俊希は一人で呟いた。
先程確認したところ、デイパックに入っていた支給武器は手榴弾が3個。数の制限があるのは痛かった。
いっそこれを全部学校に投げてやろうかと思った。そうすれば助かるかとも思ったが、玄関で見張っている兵士に撃ち殺されるのがオチだった。
だいいち、この学校を壊すのもしのびなかったし、まだクラスメイトがこの校舎の中に残っているのに、そんな真似は出来なかった。
―とにかく、草川を待とうか。
俊希はここで、草川麻里(3番)を待つつもりでいた。正直な話、このゲームに巻き込まれたのを知った時に最初に考えたのが麻里のことで、次が能代直樹(7番)のことだった(悪いな、能代)。
何故だかは分からなかった。しかし、麻里を守ってやろうと思ったのだ。
「草川…」
その時だった。玄関から麻里が現われたのを俊希は確認した。
―来た!
「おい、草川」
俊希は麻里に向かって呼びかけた。麻里は俯いた頭を少し持ち上げ、こちらを見た。
「俊希…君?」
麻里の声は、何処か暗かったが、俊希は言った。
「草川、俺と一緒に行かないか? 俺さ…お前と今、一緒にいたいんだ。だから…」
「ごめん…なさい」
麻里が言った。そしてまた俯いた。
―えっ?
「何? ごめんって…何だよ?」
「ごめん…なさい…私…」
麻里はまた繰り返した。しかし、その声に少しずつ嗚咽が混じり始めたことに、俊希は気付いた。
その直後だった。麻里はデイパックから、何かを取り出した。それは夜の闇の中、銀色に鈍く光っていた…、
マシンガンだった。
「私…殺さなきゃ…!」
麻里がマシンガンの銃口を俊希に向けて構えた。
―ヤバイ!
「よせ草川!」
俊希は麻里の、マシンガンを持った腕を掴んだ。直後、あたりに連続した銃声が響き渡った。
<残り17人?>