BATTLE
ROYALE
〜 誓いの空 〜
エピローグ・1〜また逢える日まで〜
「…どうしても行くんだな。俊希、草川さん」
能代直樹(元山口県立殿場中学校3年1組7番)は、呟いた。
「ああ。もう、決めた」
「ごめんね、能代君」
大谷俊希(同2番)と草川麻里(3番)が答える。
あのプログラムから5ヶ月経った(結局俊希の傷が完治するのに時間がかかった)。直樹たちは貞川永次の案内で、韓半民国の空港までやってきていた。直樹たちを案内すると、永次は担任だった笹川恭子と共に、何処か別の国へと旅立った。
結局笹川先生は永次についていく決意をしたらしい。これから彼女も反政府組織の一員となる。直樹はそのことを聞いたとき、もう彼女とは会うことがないだろうと感じていた。
そして永次たちが旅立ってから3日後、石城竜弘(1番)と松谷沙耶(10番)も直樹たちと別れ、竜弘は中東の小国へ、沙耶は中央アジアの方へと旅立っていった。
脱出する前に全員でアメリカへ行かないか、という話もしたが、二人はやはりそれはやめよう、と思ったようだ。
竜弘はいつか大東亜共和国を倒したい、と言っていた。そしてこうも言っていた。
―俺はまだ、何も知らなさ過ぎる気がしてな。だから、これから行く所だけじゃなくいろんな所に行こうと思ってるんだ。
沙耶は結局色々考えた末、中央アジアの方なら政府に感づかれることはそうそうないだろう、と思ったそうだ。
―私、死んでいった皆の分まで生きて行きたいと思ってるんだ。それが私に出来る精一杯だと思ってるから…。
そう言っていた沙耶の顔はちょっと寂しげだった。
そして今、俊希と麻里の二人も直樹の前から去ろうとしている。
二人はアメリカに渡って、二人で一緒に暮らすことに決めたということらしい。お互いに好き合っていることが分かったようだし、良かった、と直樹は思っていた。
「…なあ、約束は守れよ、能代」
俊希が呟く。
「分かってるよ。もちろん、竜弘も松谷さんも守ってくれるって」
「そうか、なら良いんだ…」
そう言うと俊希は隣の麻里の顔をチラッと見て少し、笑った。麻里がにこやかに笑って言う。
「俊希君、10年後に一緒に行こうね。私たちの故郷に」
俊希は意識が戻った後、直樹たちを集めて言った。
「俺、夢に見たんだ。俺たちの故郷を。殿場島を。仲間の眠る島を。あの島の、空を。俺、また行きたいんだ。俺たちの故郷に。クラスメイトの供養に」
「ああ、俺も行きたいよ。雄一や、マッシー、それに朋美の供養に…」
竜弘が呟いた。
「ミヤさんや脇坂、勇一郎や博俊…」
直樹も、死んでいった友人たちの名前を呟いていく。
「山下さん、船石さん、山吹さん…」
沙耶がポツポツと呟く。
「森木君に吉岡さん」
麻里が最後の二人の名を挙げる。そして、続けて言う。
「行きたいね、皆で」
「でも、今すぐは無理だと思う。だから、今すぐじゃなくて…そう、10年後の夏くらいに、俺たちの島でまた、会わないか?」
「…名案だな」
竜弘が言った。
「よし、そうしよう! 10年後の夏、俺たちの島、殿場島で…」
直樹が一呼吸置いて、言った。
「また、逢おう。今、俺たちはそう誓う。あの島の空に」
「10年後に逢おうな、能代。絶対だぞ!?」
「ああ、俺の方はどうなってるか分からないけどな」
直樹は言った。
これは正直な言葉だった。直樹は一人、反大東亜共和国の戦いを続けることにした。たった一人での戦い。きっと、10年後には来られないかもしれないとさえ、思う。
「そんなこと言うなよ」
俊希が言った。
「俺たちはまたあの島で逢うって決めたんだ、約束を破るなよ」
「ああ」
「じゃあ…10年後にな」
「さようなら、能代君」
そして、俊希と麻里の乗った飛行機が飛び立っていく。
「…俺も、頑張らないとな」
直樹は自分の頬を張って気合を入れると、空港を後にした。
10年後の誓いを、あの空に誓った約束を絶対に守ろうと思いながら。