BATTLE
ROYALE
〜 誓いの空 〜
エピローグ・2〜誓いの空〜
2008年、夏。
殿場中学校の、懐かしい1組の教室に能代直樹は立っていた。
10年、経った。こうして直樹は殿場島にやってきた。しかし…他の4人は未だに現われなかった。
あれから、直樹はこの国を倒すために、必死だった。たった一人で色々やってきた。しかし、何ら成果のないまま7年が経ち…、直樹は22歳になっていた。
だがやっとその年に入って同志も出来て、ある大きな計画を実行しようとした矢先の4月、専守防衛軍の兵士たちがやって来て、直樹は連行された。
どうやら、同志が密告したということだった。直樹は国家に反抗したということで、樺太のキャンプ送りとなった。
樺太での生活は厳しく、栄養失調にもなりかけて、何度か生死の境をさまよった。
しかしそんな直樹を支えたのは、あの10年前の誓いだった。
あの誓いを守りたかった。そのために必死で耐え、密かに脱出の機会をうかがった。
そして2年前、直樹はキャンプの仲間の協力を得て、遂に樺太を脱出した。その時直樹は、殿場島を脱出したときのことを、思い出した。
それから東北、北陸(関東は危険な気がした)、山陰と日本海沿いに放浪を続け、今年に入って遂に山口県に入り、殿場島の見える港町にやってきた。
その時、直樹は町で、プログラムに参加させられる直前以来会っていなかった、古谷裕子と出会った。
裕子は直樹との再会を喜びながら、同時に樺太キャンプと放浪で変わり果てた姿になった直樹の姿に驚いていた。どうやら直樹の強制キャンプ送りと脱走は、ニュースになっていたらしいことも、裕子から聞いた。
しかし裕子はそれでも直樹を歓迎し、直樹を一人暮らししているアパートに匿ってくれた。
直樹は断ろうと思ったが、いつでも協力する、と言ってくれた。
そして今日、直樹は裕子に10年前の誓いを話した。裕子は協力すると言って、今もこの町にいるという原井康幸と連絡を取ってくれた。
船を持っているという康幸は、直樹との再会を喜んだ後、船で直樹を島に送ってくれた。
―俺たちも、時々島に行ってるんだ。東京にいる真義や大阪にいる洋介が戻ってくる度にさ。
康幸は、そう言っていた。
そうして直樹は、殿場島にやってきた(康幸は一旦帰っていった)。
島に辿り着いた直樹は、皆の姿を探した。しかし、その姿は見つからなかった。
直樹はその時、気付いた。また逢う日を決めていなかったことに。10年後の夏、としか決めていなかったことに。
―ああ、もうあいつらとは逢えないのかな…?
直樹はそう思いながら、殿場中学校に足を運び、1組の教室にやってきた。
そして、今―。
直樹は眼を閉じた。今もこの教室に、1組の皆がいるような気がするのだ。
眼を閉じるとその姿が見える。あの頃のクラスメイトたちが。でも、自分がいない。直樹だけ見当たらない。
―何でだよ。俺も仲間に入れてくれよ。
―俺を置いてけぼりにするなよ。なあ! 待ってくれよ!
…皆消えてしまった。直樹は眼を開ける。前が見えない。涙が溢れる。
涙なんて、何年ぶりに流したろうか? 涙なんて嫌いだったのに、だ。涙がどんどん溢れて、止まらない。
「ちくしょう…」
思わず口をつく悪態。世界にたった一人ぼっち。そんな気分がしていた。寂しくて寂しくて堪らない。
その時だった。
「何泣いてんだ? 能代」
その声に振り返ると、そこには思い思いに成長した、しかし全く変わらない笑顔を浮かべたあの頃の仲間がいた。
寄り添って立っている俊希と麻里。悪戯っぽく笑っている竜弘。あの頃と同じ雰囲気を漂わせた沙耶。
「皆、何で…」
すると4人の後ろから、帰ったはずの康幸が顔をのぞかせて、言った。
「古谷から能代の話は前から聞いててさ、そしたら能代の少し後に皆町に来て、事情を聞いたんだよ。それで、ちょっとした悪戯を仕掛けようってことになったんだ。能代の寂しがる姿、初めて見たな」
更に皆が言う。
「お前が泣くのなんて、十何年ぶりか?」
「能代君、私たちはちゃんと来たよ」
「あの時の誓いは、ちゃんと守ったぞ」
「久しぶりね、能代君」
「はは…、驚かしやがって…この野郎…」
直樹は思いっきり笑った。涙を流しながら、思いっきり笑い声を上げた。
誓いは守られた。あの日の、空への誓いは。
誓いの空が、美しい青色で彼らの再会を祝福していた。
BATTLE ROYALE〜誓いの空〜 完