BATTLE ROYALE
仮面演舞


第11話

―頼む、出て行ってくれよ、広志…!
 利明はただただ、すぐ近くにいる友人の浦安広志に向かって祈った。
 出会ってしまったが最後、先程の粟倉貴子に対する広志の行動からして確実に、利明に襲い掛かるだろう。
―来るな、来るな、く、る、な…。
 その時、利明の硬直した身体が一瞬だけかすかに動いた。しかしその動きは、利明の脇にあるダンボールを少し動かすのには十分すぎる力があった。
 わずかにダンボールが動いた。
 その瞬間、倉庫の奥を見ていた広志が反応する音がした。
 足音…。そして、利明が顔を上げるとそこに、肩をいからせて血走った眼でこちらを見据える広志の姿があった。
―見つかった!
「と、利明…」
 広志が、唸るようにして声を絞り出す。
「広志…」
 利明は、そっとその場に立ち上がる。いざという時のためにも、動く準備は必要だった。
「利明も、俺を殺すんだろ?」
「広志?」
「…そうだ、利明も俺を殺すんだ! 粟倉だって、きっとあいつが芳泉を殺したんだ、そうに決まってる…殺さなきゃ、こっちが殺される…」
 やはり、広志は様子がおかしかった(そして同時に利明は、広志が貴子を襲ったのは、彼女が
芳泉千佳(女子13番)を殺したと思ったからだ、と気付いた)。
 広志は口から唾を飛ばしながら続ける。
「容赦なくやるんだ…死にたくない、死にたく…ないぃっ!」
 瞬間、広志の右手にあるダイヴァーズナイフが振るわれる。
 利明は必死でそれをよけると、広志の横っ腹に体当たりした。広志がその場に倒れこむ。
 右手のスコーピオンの銃口を広志に向ける。しかし…撃てなかった。
―撃てない。俺は誰も信用しない…、でも、人殺しだけは…!
 瞬時に利明は、デイパックを引っ掴んで倉庫の外へと駆け出し始めた。今は、逃げることが何より重要だった。
「ま…待ちやがれぇ!」
 起き上がったらしい広志が、日常で一度も口にしたことのないような汚い口調で叫びながら、追ってくる。それは、このままずっと利明のことを追いかけそうな勢いだった。
 利明は思った。
―このままだと確実に広志は、俺を追い続ける。どうすれば…。
 その時、利明の心の中で何かが叫んだ。

―殺せ、奴を。

 利明は必死で拒む。

―でも、出来れば人殺しだけは…!

 心は、しばしの沈黙の後、言った。

―このまま追われ続けて、恐怖の中で死んでも良いのかな?

「―――!」
 その瞬間、利明は決意した。
―広志を、殺す。俺が、生き残るために。
 利明は立ち止まり、広志の方に向き直った。突然のことに、広志も立ち止まった。呆然とした顔つきで、こちらを凝視している。
 スコーピオンの銃口を、広志に向ける。

―悪く、思うなよ。広志。

 その引き金を、ぐっと引く。

―俺はまだ、死にたくないんだ。まだ色んなことがやりたいんだよ。

 スコーピオンの銃口から無数の銃弾が吐き出され、広志の全身を貫く。頭部が撃ち抜かれ、中の脳漿らしき物が飛び散る。体中に風穴が空いた。
 そして広志の身体は、風穴だらけになりながらしばらく立ち尽くし、やがて、うつ伏せに崩れ落ちてもう動くことはなかった。
 雪の上に広志の脳漿が散り、流れ出す血液と混じり合っていた。
 利明は、その姿をじっと見ていた。そして…その場で嘔吐した。
「ウゲェェェェェーッ」
 朝食はもう消化済みだったらしく、胃液ばかりが出る。
 やがて落ち着くと、利明は身体を起こして広志の死体に近づく。そして広志の手からダイヴァーズナイフを取った。何かの役に立つ可能性だってあると思った。
 利明は、呟いた。

「生き残ってやる、生き残ってやるぞ、絶対…」
 利明は、辺りを見回した後、南の方角へと歩き出した。
 全ては、これ以上の犠牲をこの手で出さずに生き残るため。利明の頭の中では、これからのシナリオが動き始めていた。

(AM2:38)男子2番 浦安広志 ゲーム退場
                       

                           <残り33+1人>


   次のページ   前のページ  名簿一覧  生徒資料  表紙