BATTLE ROYALE
仮面演舞


第12話

「女子7番、大安寺真紀さん」
 福浜に呼ばれて、
大安寺真紀(女子7番)ががたんと大きな音を立てて立ち上がるのを、西大寺陣(男子8番)は見ていた。
 バレー部のエースアタッカーの真紀には、陣も気丈なイメージを持っていた。
 それが今はどうだろう。その身体は恐怖でガタガタと震え、デイパックを渡している作東とかいう兵士の所まで歩くのも遅い。恐怖に満ちた目をこちらに向けてから、真紀は外へと走り出していった。
―これが、殺し合いゲームの恐ろしさって奴だ…。
 正直、陣も出発が近づくにつれて、その身体が震えてきた。
 陣はそっと後ろを振り返る。後ろに控えるのは仮面の女―
シバタチワカ(転校生)。陣はこの転校生の直前に出発しなければならない。
 シバタチは正直言って…、危険な存在だと陣は思っている。
 さっきからシバタチは、一人出発するごとに仮面の奥の眼が笑っていた。
 この状況で、いくら自ら参加を志望したとはいえ―いや、それ自体が異常なのだが―笑っていられるなど、尋常ではない。
 幸いにも、陣とシバタチの間の間隔は5分開いている。出発してすぐにこの場を去れば大丈夫そうだ。
 しかし…そうなると陣は外で待っているかもしれない友人の
庄周平(男子10番)多津美重宏(男子13番)、恋人の粟倉貴子(女子1番)などとの合流はまず無理となる。
―どうする…?
「男子8番、西大寺陣くん」
 福浜が自分を呼んだのに気付いて、陣は思考を一旦中断した。
 とうとう、陣の順番が来た。陣はゆっくりと立ち上がると、デイパックを渡している作東のところへと歩いていく。
「…頑張って、ね」
 突然、福浜に声をかけられた。さっきまで、福浜は出発する生徒の名前を呼んだ後、声をかけたりしていなかったのだが…。
―まあ、いいか。
 陣は疑問もあったが、特に気にしないでデイパックを受け取り、外へと出て行った。

 ロッジの外に出る。
 外は吹雪いていて、人一人見つけることが出来ない(
芳泉千佳(女子13番)の死体は陣のいる位置からは見えなかった)。
 どうやら、周平と重宏や、貴子は待ってくれているわけではないようだ。
―まあ、この状況でそこまで気が回るはずないよな、普通。誰かに襲われたりしたら尚更だしな。
 とにかく陣は、素早く支給されたデイパックの中身を確認する。水や食料などに混じって入っていたのは、トンファーだった。ハズレとは言い難いが、使いやすいとはいえない。
―身が守れればいいけど、な。
 そう思って陣はトンファーをその手にぐっと握り、地図を赤いウェアのポケットに仕舞う。そして少し考えると、駆け出した。
 周平たちが待っていない以上、これ以上ここに残っている意味はなかった。
 それに、考えているうちに陣にはやらなければならないことができた。そのために会わなければならない人物がいる。
―とにかく、あいつを探さないと…。
 陣の姿が、吹雪の中に消えていった。

 それからしばらく後、ロッジの前にはシバタチワカが立っていた。
 しばらく考え、ふっとシバタチの仮面の下の顔に笑みが浮かぶ。
 彼女の目的はただ二つある。
『奴』の力量を見抜く。そして『あのこと』をどう考えているか。その二つを達成すれば、彼女の目的はほぼ終わりといえる。
―今後の展開次第では…フフフ…。
 この先、このスキー場で起こることを考えると笑いが止まらない。
―とにかく、移動が必要だ。『奴』を探すことが必要だ…。
 シバタチは、デイパックを開けて一振りの、緑色の鞘に収まった日本刀を取り出し、その鞘から刀を抜く。その刃が雪の白銀を撥ね返す。
 シバタチは、歩く。
 鬼となり、鬼の子を生むために…。

「ようやく、全員出発しましたね、福浜先生」
 生徒たちが全員出発し終えた部屋に、少し腹の出た中年の男が入ってきた。
「犬島三佐」
 福浜にそう呼ばれた男―犬島は、福浜に言う。
「先生、そろそろモニタールームに行きましょう。作東二尉も行こう」
「ええ…そうですね。作東君、行こう」
 福浜は隣の作東を促すと、犬島と共に、部屋を後にした。
 モニタールームは、ロッジの二階で兵士たちの仮眠室と隣接してある。二階への階段を上がりながら、犬島が福浜に問いかけてきた。
「そういえば先生…例のW計画は、順調ですか?」
「ええ…浅口三曹がここに来れば、計画は成功です。今のところは何とも…」
「そうですか…是非、成功してほしいものです」
「もちろんです。それが…制裁になる」
 そう言って、福浜は笑った。
  

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