BATTLE ROYALE
仮面演舞


第13話

 スキー場の初級ゲレンデが全て見渡せるE−3エリアにある、リフト降り場。
 その係員室の中に、
玉島祥子(女子8番)は身を隠していた。
 先頭であのロッジを出発する前、祥子は
粟倉貴子(女子1番)たちと、C−1エリアにある山荘に合流することを約束した。
 しかし雪道は歩きにくい上、突然の吹雪に見舞われた。これでは方角なども分からなくなってしまうと思った祥子は、一旦この係員室に入ってこの吹雪をやり過ごすことにした。

―いつになったら止むのかな…?

 もう随分時間が経ったような気がする。
 あまり足止めを食っていると、貴子や
上斎原雪(女子3番)たちの方が先に山荘に着いてしまうかもしれない。
 最初に出発したのだから、出来れば最初に到着しておきたかった。

「死にたく、ないな…」
 祥子はポツリと呟いた。まだ死にたくはなかった。しかし、人殺しなど出来ない。
 だからこそ、貴子が合流を申し入れてきたとき、良かったと真剣に思った。
 三人寄れば何とやら、という諺があるくらいだ。きっと何人も人数を集めることが出来れば、脱出のための妙案だって浮かぶかもしれないという、祥子にとっての一縷の望みに賭けた。
 そう思うと希望が見え、支給武器が足のマッサージに使う足踏み竹だと気付いても、落胆はしなかった。

―生きて、帰りたい…。そして米帝、アメリカに行きたい…。

 祥子の夢。それはこの大東亜共和国にとっては敵国も同然の国―米帝に行くことだった。
 この国は米帝を敵視しながらも、英語を学ぶ自由くらいはあった。そして祥子はその英語に興味を持ち、英会話部を創部して活動していた。
 そして米帝について色々と調べて、思ったのだ。

 米帝に、アメリカに行きたい―と。

 その望みが叶わないまま死ぬのは、嫌だった。そして大事な友人たちも失いたくない。
 だから、何としてでもこのプログラムから脱出したい。それが今の、祥子の願いだった。
 そんな時、ふと祥子が外を見ると、吹雪が若干弱まり始めていた。そして、窓の外に見える山の中腹に、目指す山荘の姿がおぼろげながら見える。
―よし、行こう。
 祥子は係員室のドアをそっと開けて、外に出た。その時だった。
「そこに、誰かいるのか?」
 男子の声だった。振り返ると、男子らしき影が二つ祥子の目に映った。
 正直祥子はいきなりの出現に驚いたが、こうやって話しかけてくる以上は危険人物ではないと判断することにし、その二人に問いかけた。
「私、玉島よ。あなたたちは、誰?」
「俺たちか? 俺たちは…庄と、多津美だ」
 そんな声がして、やがて祥子の目にはっきりと
庄周平(男子10番)多津美重宏(男子13番)の姿が見えた。
「庄君に…多津美君か…なら、大丈夫ね」
「おぉ、俺たちを信用してくれるのか?」
 重宏が言う。
「だって、二人は私はわざわざ話しかけてきたし…、それに、二人は人殺しなんて出来そうな人には見えない」
「そりゃ、ありがたいな。ちゃんと冷静な奴もいて良かったよ」
 周平が呟く。その言葉が少し、祥子は気になった。そして問いかけてみる。
「冷静な奴もいて、良かったって…?」
「ああ、俺たちはスタート地点で芳泉に襲われたんだ。その後で美星まで俺たちに銃を向けてきたし、正直、少し不安になってた。陣とも合流できなかったしな」
 周平が答える。そして逆に質問をしてきた。
「なあ、玉島。陣を見なかったか?」
「…ううん。見てないわ」
「そう、か」
 すると、今度は重宏が話しかけてきた。
「玉島、俺たちは陣や、他の信用の出来る奴らを探してる。そして見たところ、玉島は信用できそうだ。どうだ、俺たちと一緒に信用できる奴を探さないか? 粟倉や上斎原とも出来れば合流したいと思っているし…」
 祥子はしばらくおいて、答えた。
「ごめんなさい、私は…無理よ。貴子や雪たちと、あの山にある山荘で落ち合うことになってるの。だから…」
「そうか…。だからあの時、お前らのテーブルでは何か話をしていたんだな。しっかりしてるよ」
 重宏は、そう言って笑った。
「じゃあ、私はそろそろ行くね」
「ああ。じゃあ…元気でな」
 周平が言った。そして祥子は踵を返して、山に向かって歩き出す。
―大丈夫、貴子や雪たちだけじゃない。信用できる人はもっといる。希望を、希望を持とう…!
 祥子は歩く。ほんの少しの希望を信じて。


 その頃、G−7エリアを南北に走る林道に、
シバタチワカ(転校生)はいた。
―『奴』は近い。
 ワカはそう感じていた。それは確信に近かったが、根拠はなかった。要はただの勘に過ぎない。
 しかしながら、ワカは今の自分にならその程度のことは出来て当たり前だと思えてならなかった。
―今の私には、神が憑いている…。
 そんなことを感じる。
 そして、その勘は当たっていた。少しばかり先の林の中を動く、『奴』の後姿。
 ワカの日本刀を握った右手に力が入る。気分が高揚する。こんな気分は初めてだった。
―もうすぐ、もうすぐ…。
 ワカはそっと、『奴』の後を尾けていった。

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