BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
第14話
しばらく続いていた吹雪が弱まってきたのを確認して、湯原利子(女子16番)はI−6エリアにあるコンビニの陰から顔を出し、外の道路へと出た。
出発してすぐにこのコンビニがある方向へと向かった利子は、すぐにコンビニに入って食料や防寒具などを調達した。
この先どれだけの期間、殺し合いが続くかは分からない。だからこそ、支給品の食料だけでは足りなくなる可能性を、利子は考えていた。
おまけにこの寒さだ。これに耐えられなければ生きることなど出来ない。
こんな状況下において、利子は自分でも驚くほどに冷静になれていた。それはきっと、自分が腹を括ったからなのだろうと利子は思っていた。
利子は、このゲームに乗る決意を固めていた。
その手に握った支給武器のリボルバー、S&W357マグナムを見つめる。
―生き残ってやる、絶対に。死んでたまるもんですか。生き残るためなら、人だって殺してやるわ。
そう思いながら利子は、雪の積もった道路を歩きだそうとした。しかしその直後、目の前に人影が見えて、利子は再びコンビニの陰に隠れた。
こちらに向かって歩いてくる人影、それは利子の仲間の鯉山美久(女子18番)だった。
それを見て利子は、そっとほくそ笑んだ。
利子と美久が知り合ったのは、1年前のことだった。
岡山の街を利子があてもなくブラブラしていた時、利子は路地裏から声がするのを聞いた。
そっとその路地に近づくと、二人の男が一人の少女に声をかけていた。どうやらナンパのようらしい。
だが、直後に男たちの口調が一変し、怒声に変わった。言葉の内容からして、どうも少女が男たちを馬鹿にしたらしい。
―馬鹿な女…。
利子はそう思ったものだった。
そして男たちが少女に襲い掛かった…瞬間、少女は二人の男を簡単に地に這わせてみせたのだった。そして表情一つ変えず、路地から出てきた彼女と利子の目が合った。
少女は、利子を一瞥して立ち去った。その少女の容姿は、驚くほど美しかったのを覚えている。
その少女が、当時利子の隣のクラスにいた美久だった。
利子は翌日、美久に声をかけた。彼女とは普段行くところが似ていたので、よく話をするようになり、一緒に出かけるようになった。
そしてその過程で気付いた。美久があの時見せた強さは、常に発揮されていたのだということに。
以前に倒した連中が美久に屈服し、美久の友人だということで自分にも良くしてくることが分かった利子は、「これは使える」と思った。
それからの利子は、ひたすらに美久を利用した。
美久の強さを背景に、全ては利子の思うままになった。時には犯罪すれすれの行為すらやった。
美久は特に何も言わず、利子と一緒に行動していた。
やがて利子は、美久ですら自分が操っているという事実に溺れていった。
―このまま、のし上がってやろうかな…。
そしてその美久が今、自分の目の前にいる。利子は思った。
―優勝すればプログラムの生き残りとしての箔がつく…そうしたら、美久は必要ないわ。私一人でのし上がって行ける。
―そう、もう美久に用はないわ。それに、美久は私の言いなりにしかならない…私の方が頭が切れる。だから私の方が生き残るのに相応しいはずよ。
―殺そう、美久を。
そして利子は、357マグナムを、美久に向かって構えた。そしてその引き金を引こうとした瞬間だった。
美久がこちらを振り向いた。
―気付かれた!?
利子は一瞬慌てた。その一瞬の狼狽が、357マグナムの狙いを逸らさせた。
一発の銃声。しかし銃弾は、美久には当たらない。そして美久は、こちらへと近づいてくる。
―間違いない、もう美久は私に気付いてる! 撃たなきゃ、撃たなきゃ!
もう、利子には冷静さの一欠けらも残されてはいなかった。引き金が引けない。冷や汗が流れる。
そして首筋に走った一瞬の痛みの後、利子の意識は深淵へと沈んでいき、もう、戻ってこなかった。
動かなくなった利子の死体を見下ろしながら、美久は呟いた。
「私は、あなたが私を利用しようとしてることぐらいとっくに気付いてたわ。でも、それで良かったのよ、私。だって、壊せるから。別にあなたでも良かったのよ」
狼狽している利子にあの瞬間、美久は支給武器のテトロドトキシン入りの注射器の針を、利子の首筋に突きたて、一気に中身を彼女の体内に送り込んだ。
利子の体内に回った神経毒が、彼女の筋肉や神経を麻痺させ、利子を殺した。
美久はそっと357マグナムを拾い上げると、利子のデイパックを探って、予備の弾を赤いウェアのポケットにしまった。
「壊したい、もっと…」
美久はさっと踵を返すと、立ち去った。
その後姿は、見目麗しく、同時に危険な香りを漂わせていた。
<AM3:18>女子16番 湯原利子 ゲーム退場
<残り32+1人>