BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
第16話
西大寺陣の手で気絶させられていた大元茂は、陣と上斎原雪が立ち去ってすぐに意識を取り戻した。
茂が意識を失っていた時間はごく短いものだったが、茂からしてみれば非常に長い時間のように感じられてならなかった。
「ち…っくしょう! 上斎原ぁっ! それと…俺を気絶させた奴! 絶対にぶっ殺してやる!」
茂の心からはもう恐怖は失われていた。といっても、その代わりに上斎原雪と自分を気絶させた人物への(茂は背後から殴られたため、自分を気絶させたのが陣だとは気付かなかった)憎悪の感情が高まっていく。
茂は、殴られたときに地面に落ちた文化包丁を拾い上げた。
拾い上げると、自分が何でも出来そうな気分が…万能感がこみ上げてくる。
「やってやる…どうせなら全員ぶっ殺してやる。上斎原たちを殺すついでに全員ぶっ殺してやる」
もはや、茂の精神は当初から感じていた恐怖で破綻しきってしまっていた。
「殺す、殺す殺す殺す…」
うわ言のように呟きながら、立ち上がると歩き始めた。
―まずは上斎原と…俺を殴った奴だ。どうせそれほど遠くまで行ってないだろう…。最初にぶっ殺してやる。
そして、H−4エリアとH−5エリアの境界辺りに差し掛かった時、茂の眼に一人の人影が映った。その人影は、木に寄りかかっているように見える。
不意にその人影が、茂の前に全身を見せた。茂は文化包丁を握り締めた。
―誰だ? いや、誰でも良い。どうせ皆死ぬんだ、俺の手にかかって死ぬんだ。ここでこいつもぶっ殺してやる。
しかし、その人影の正体に気付いた茂は驚愕した。
立っていたのは、仮面をつけた人物―そう、あのロッジの部屋で見た転校生、シバタチワカ(転校生)に他ならなかった。
最初、驚愕のあまり思考停止状態になっていた茂だったが、すぐに思った。
―待てよ? いくらこいつが危険人物だとしても…今こいつは武器を持ってない。丸腰じゃないか! なら…ここで殺してしまえ。
「うおおおあああっ!」
「―――」
茂は思い切って、シバタチに向かって文化包丁を振り上げながら躍りかかった。シバタチは動かない。
―もらった! 死ねっ!
しかし直後、シバタチの右手が素早く動くと同時に、茂は腹部に強い痛みを感じた。
―え…?
そして腹部を見る。するとそこには、日本刀が茂の腹部に突き刺さっている光景があった。
「があっ…!」
茂は瞬間、呻き声を上げた。痛かった。痛くて仕方がない。痛みを堪えきれず、茂の眼から涙が出る。そして日本刀の柄を握っているシバタチ。その仮面の奥にある眼が、笑っている気が、茂はした。
そしてそんなシバタチの眼は、冷たく冷え切った眼をしていた。思わず茂は、叫んでいた。
「う、うわあああああっ! 頼む、殺さないでくれぇ!」
シバタチのあの眼を見た瞬間、茂の心からは雪や陣への憎悪など、消え去っていた。
抱いたのは、最初と同じ、恐怖。
―死にたくない! 死にたくない!
その思いだけで、茂は叫ぶ。
「助けてくれ!」
直後、シバタチが日本刀を茂の腹から抜いた。鮮血が茂の腹の傷から吹き出し、雪を染める。
―え…?
そして、シバタチが仮面の奥で何事か呟くのを、茂は聞いた気がした。
―恨み、晴らさで、おくべきか…。
直後、茂の喉元にシバタチの日本刀が突き立てられる感触がした。そしてそれ以降は痛覚が無くなった。さらに聴覚も。続いてシバタチの日本刀が茂の顔面に向かって迫る。茂は、全ての感覚を失った。
シバタチは、目の前に転がる肉塊と化した茂の死体を見下ろしていた。
―愚劣な奴だ。死んでしまって、良かったのではないか?
シバタチは、ふと『奴』のことを考えた。少し前に会った『奴』は『チカ』から何も聞かされていなかった。シバタチの話を聞いて驚愕していた。
今回は殺さずに置いたが、次は分からないと言ってやったが、『奴』は言い切った。
―次は、殺してもらってもいい。
肝の据わった奴だ、と正直思った。
「『チカ』…。このクラスの奴らを皆殺しにするから、見ているんだよ?」
シバタチは呟く。天に昇ってしまったであろう、『チカ』に向かって。
そこでシバタチは、視線を再び足元の茂の死体に移す。茂の赤いウェアが、妙に膨らんでいる気がした。
―まさか…。
シバタチは、茂のウェアを脱がせた。そして下から出てきたのは、黒いごわごわしたチョッキだった。
―なるほど、こんな物を…。
「でも、これじゃ宝の持ち腐れ…」
そう言ってシバタチは、茂の防弾チョッキを脱がせにかかった。
<AM4:02>男子3番 大元茂 ゲーム退場
<残り31+1人>