BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
第17話
「迷った、のかな…?」
粟倉貴子(女子1番)は周囲を見渡しながら、呟いた。
―参っちゃうな、全く…。
ロッジの前で赤磐利明(男子1番)と別れて、その場を去ろうとしたときだったはずだ。彼が…浦安広志(男子2番)が貴子に襲い掛かってきたのは。
広志はその手に握ったダイヴァーズナイフを振りかざしながら、大きな声で叫びながら向かってきた。
―お前が、芳泉を殺したんだな! 人殺し!
彼は、貴子が芳泉千佳(女子13番)を殺したと誤解していた。貴子は説得しようとも思った。しかし、広志は話をする余裕すら与えなかった。
―このままだと、殺される!
そう思った貴子は走った。ひたすらに走り、林の中に飛び込んだ。しばらく走っていくともう、広志は追ってこなかった。貴子は助かったと思って立ち止まった。
しかしすぐにまた広志の声がしたかと思うと、次に聞こえたのは…連続した銃声。
貴子は直感した。広志は、何者かに殺されたのだと。
そして貴子はなるべく現場から離れるために、再び走り…疲れて立ち止まるとそこは、林道の中(正確には、C−7エリアである)だった。
「ここは…何処?」
貴子は、困り果てていた。
一心不乱に走るあまり、方角も、距離も分からなくなってしまっている。これでは、目的地のC−1にいつまで経っても辿り着けない。
―どうしよう…?
とりあえず貴子は木の陰に入ると、ポケットにしまっていた地図とコンパスを取り出し、現在地をチェックしようとした。
その時、何者かの気配を貴子は感じ、木の陰から顔を出した。そして周囲を見回す。
すると、林道の南方向、ちょうどスタート地点のロッジがある方向から二つの人影がやってくるのが見えた。
一方はどうやら水島貴(男子18番)、その背後に見えるのは成羽秀美(女子10番)だった。
―二人でいるってことは、やる気じゃないってことかな…?
正直貴子は、貴と秀美についてはよく知らない。貴は野球部で、秀美は野球部のマネージャー。そして二人は付き合っている、というぐらいしか知らないのだ。
―二人は、どうなんだろう…?
貴子がひたすら考えていた、その時だった。近くまでやってきていた二人のうち、貴がいきなり貴子に向かって何かを向けたのが見えた。
それは、拳銃だった。
―ま、まさか…。
その、まさかだった。
貴は、貴子が隠れている木に向かってその拳銃を撃ってきた。
一発、二発。
飛んできた銃弾は全て木にかすることも無かった。しかし、それ以上に貴子を恐れさせる事実がある。
それは、二人で行動しているとはいえ、確実に貴と秀美はやる気だということ。そして、二人は何らかの方法で木陰に隠れている貴子に気付いた、ということだ。
「……!」
貴子は、走り出した。とにかく、ここから逃げなければならなかった。そして、C−1に向かわなければならない。新雪に足が埋まりかけながらも、走る。
背後から、貴が放った銃弾が飛んでくる。しかし、全て外れている。貴も当然といえば当然だが、銃の扱いに慣れているわけでは無さそうだ。
走っていくと林を抜け、開けたゲレンデに出た。傾斜が比較的きついところを見ると、中級ゲレンデなのだろう。
貴子は必死で走る。ちらりと振り返ると、貴は後ろから来る秀美を気遣いながら走っているようで貴子との距離は広がり始めている。
―よし!
貴子は、ゲレンデを勢いよく駆け、ゲレンデの奥に見える林に駆け込んだ。
貴と秀美の来る気配は無い。どうやら、秀美を気遣っているうちに見失ったらしい。しかし、木々の隙間から覗いてみると、二人はまだ貴子を探しているようだ。
この状況で飛び出したりしたら、確実に見つかってまた追われるだろう。
―何とか、ここをやり過ごさないと…。
貴子はそう思って、身を低くした。
―早く、あきらめてよ…! お願いだからっ…!
貴子は、ただただ祈った。
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