BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
第18話
「秀美、粟倉は何処に行ったか分かるか?」
水島貴の問いに、成羽秀美はその手に握った支給武器―探知機の液晶画面を見る。探知機の液晶画面には今現在いるエリア、B−9にいる、首輪を着けた人物の反応―つまりは秀美と貴の反応しかなかった。
「…駄目。探知機の範囲からは外れてる。でも近くにはいるはずよ、貴」
少なくとも、探知機の範囲以内には粟倉貴子の反応は無い。あるのは間違いなく、秀美と貴の反応だけだ。
「そう、か」
貴は支給された武器の拳銃―ルガーP08を持った手を下げると、呟く。
「どうする? まだ粟倉を、追うか?」
出発して最初に秀美が考えたことは、恋人の貴と一刻も早く合流することだった。ロッジを出てすぐに秀美は、周囲を見渡した。そしてその時に秀美は見た。壁際に隠れている庄周平(男子10番)の姿を。
正直、秀美は周平が『どう』なのかは分からなかった。普段親しくしている多津美重宏(男子13番)や西大寺陣(男子8番)と合流しようとしているのかもしれない。
しかし、秀美にはどうしても周平を信用は出来なかった。案外、スタートした生徒を殺そうとしているのかもしれないとも思った。
それは考えすぎなのかもしれなかった。しかし、そのくらいがちょうど良いと思っていた。
秀美は大安寺真紀(女子7番)や早島光恵(女子11番)、御津早紀(女子15番)と親しくしていたが、彼女たちだって信用は出来ない。
秀美がこの状況下で心の底から信用するのは―水島貴、秀美の愛する人だけだった。
とにかく周平との距離を置こうと、秀美はロッジから少し離れることにした。そして様子を見ていた。
やがて聞こえてきたのは一発の銃声、そしてよく通った美星優(女子12番)の声。
秀美はひたすらに様子を見た。そして頃合を見て、もう一度ロッジに近づき、ロッジの壁際に潜んだ。ロッジの前には、芳泉千佳(女子13番)の死体しか残っていなかった。
そして湯原利子(女子16番)が出て行くのを見送った。そして次に出てきたのは、若干伸びた髪をヘアバンドでオールバック気味になでつけた男子。秀美がマネージャーをしていた野球部のサード、政田龍彦(男子17番)だった。
龍彦は最初、千佳の死体に驚きを隠せない様子だったが、やがて最初庄周平がいた辺りの場所に隠れた。
そして次の吉井萌(女子17番)を見送ると、しばらくして貴が現われた。
それを見て秀美が飛び出すと、龍彦は一瞬秀美の方を驚いた顔で見ていたが、すぐに貴に話しかけた。
―おう、貴。待ってたぞ。俺と一緒に行かないか? 実は良い考えがあるんだ。
しかし、貴は秀美の方を一旦見てから、龍彦の方に向き直って言った。
―悪い、龍彦。俺は…秀美と一緒に行動したいんだ。俺にも考えがあるから…龍彦、お前の話には、乗れない。
それを聞くと、龍彦はニッと笑って肩をすくめ、言った。
―そう、か。カノジョ、大事にしろよ? 俺は陽一を探しに行ってくる。待ってろって言ったのにいないんだよあいつ。
―また、会おうな。貴。
そう言い残すと、龍彦はその場から走り去って行ってしまった。秀美は、その場に残った貴に聞いた。
―何で? 何で政田君と行かないの? 私は別に…良いんだよ?
すると、貴は秀美の手を掴むと走り出した。貴が秀美を連れてきたところは、ロッジの隣のエリア、E−6エリアにある倉庫の裏だった。貴は言った。
―俺は、秀美が大事だ。部活中にも、皆のことをいつも気遣ってくれてた秀美のことが、本当に大好きなんだ。だから俺は…秀美を死なせたくない。
―そこまで言われると、照れるよ…。
―だから、俺は。
一呼吸置く。
―このゲームに乗る。乗って、秀美を守って…生き残らせたい。
それは、秀美にとって予想外の言葉でしかなかった。自分のために貴がその手を血に染めると言う。そんなこと、認めるわけにはいかなかった。
だからこそ、秀美は貴を説得しようとした。しかし、貴の決意はもう揺らがなかった。
…結局、秀美は貴に押し切られてしまった。そして貴は、見つけた粟倉貴子を襲った。
―止めなきゃ。貴が人殺しだなんて…! いつも心優しかった貴がクラスメイトを殺すなんて光景、見たくない!
秀美はもう一度、貴の説得を試みた。
「ねえ、貴? やっぱり、止めようよ…、こんなこと」
「いきなり、何言い出すんだよ?」
貴が怪訝そうな顔をして、聞き返す。
「だって、私…クラスメイトが皆死んで、貴も死んで…その代償に生きるなんてことに、きっと耐えられない。それに…そんなこと、貴にしてほしくないよ…」
貴は黙ったままだった。秀美は必死で続ける。
「だから…二人で政田君を探そう ?出発したとき、政田君言ってたよね、良い考えがある、って。きっと政田君はここから逃げ出すいい方法を考えたんだと思う。政田君がどれだけ頭が良いか、貴が一番よく知ってるでしょ?」
そう、龍彦の頭の良さは半端じゃなかった。知識量も多いし、頭の回転も良い。そして何より、大変なアイデアマンだ。
そんなことは、小学校の頃から龍彦や灘崎陽一(男子14番)と一緒に野球をやってきた貴はよく知っているはずだった。
やがて貴が、ゆっくりと口を開く。
「しかし、俺は…」
「政田君に賭けてみようよ! それにここから逃げ出すなら、私も貴も一緒に逃げ出せるし、他の皆だって逃げ出せる! それが一番良いのは分かるでしょ!?」
「…分かったよ。秀美の、言う通りかもしれない。探そう。龍彦を」
そう言って、貴は笑った。何の邪気も無い笑顔だった。もう、誰かを殺そうという殺意は見えない。秀美は心の底から安堵した。
「行こう、秀美」
貴が、秀美に手を差し出す。
「うん」
秀美はその手を取る。
―やっと、いつもの貴が戻ってきた…!
その時だった。
背後で、足音がする。秀美は気になって振り返った。そして振り返った先にあった光景。それは、煌く刃。
刃は、正確に秀美の腹部を貫いた。あっという間のことだった。秀美は貴の方を見る。何が起こったのか分からない、といった顔でこちらを見ている。
そして、もう一度向き直る。自分の刃を突き立てた人物の顔を確認する。
そこにあった顔、それは…仮面を着けた顔。まさしくシバタチワカ(転校生)だった。
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