BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
第2話
バスが出発してから、もう2時間は経って、バスの中の時計が正午を指した。最初は大騒ぎしていた連中も、時間の経過と共に多少落ち着きを取り戻してきたようだ。
西大寺陣(男子8番)は、ぼうっとバス中を見回してみる。
さっきからずっと小説について語らっている伊部聡美(女子2番)と木之子麗美(女子4番)の後ろでは、平井誠(男子15番)と福居邦正(男子16番)が二人で話し込んでいる。
二人とも相当の映画好きだから、きっとまた映画の話で盛り上がっているのだろう。
その後ろの方では元生徒会長の赤磐利明(男子1番)、ひょうきん者の浦安広志(男子2番)、サッカー部のエースストライカーの可知秀仁(男子4番)、バスケ部で、温厚な性格の児島真一郎(男子7番)、正義感が強くて暑苦しい太伯高之(男子12番)のグループが陣取って話をしている(尤も、利明は外の景色を眺めているから他の奴らの話を聞いているかは分からない)。
ただ、ちょっと広志や高之の声が大きく、大元茂(男子3番)が彼らの方をギロリと睨みつけていた。
陣の少し斜め前の座席にいる灘崎陽一(男子14番)は、何処からか移動して来て補助席に座っている野球部仲間の政田龍彦(男子17番)と並んで座っているが話はしていないようだ。
二人は小学校の頃からの野球仲間らしい。
あと、水島貴(男子18番)も幼馴染らしいが、その貴は野球部のマネージャーで恋人の成羽秀美(女子10番)と一番前の方の席に座っているようだ。
陣は、政田龍彦のことを考えてみた。陣は利明たちのグループにはあまり好感を持っていなかったのだが、龍彦のことは結構高く評価していた。
彼は学校の成績は並程度だったが頭の回転が速く、様々な雑学知識があって、何ていうのか、生活力のある奴だった。
何でも夢は『万能の天才』だとかで、普通は荒唐無稽なことだと言うだろうが、陣は龍彦ならなれるかもしれない、と思っていた。
そして最後尾に座っているのは、『帝王』旭東亮二(男子5番)が率いる不良グループが座っている。
腕っ節が強く、喧嘩も相当の腕だという桑田健介(男子6番)と、陣から見たらただ亮二の後ろにくっついているだけにしか見えない柵原康幸(男子9番)の二人が、亮二を挟んで座って、騒いでいた。
そして、健介でも敵わない強さだという亮二。
亮二については、ろくな話を聞かなかった。大体の犯罪行為はやっているとかで、何度も補導されている(普通は補導どころじゃ済まなさそうなこともやっているようだが、以前康幸が漏らしていた。『亮二さんは知恵者だから、バレないようにやるのさ』と)。
そんな亮二たちに、一番前に座る担任教師の幸町隆道(さいわいちょう・たかみち)は何も言わない。
まあ、事なかれ主義の幸町に、陣は元々そんな期待はかけていなかった。
そして…。
「おい、陣」
そう言って、陣の反対側の席、通路側から話し掛けてきたのは、陣の親友の庄周平(男子10番)だった。
周平とは、東中剣道部に入部してからの親友だった。そして小学校の頃、陣が一度も大会で勝てなかった、ライバルでもある。
しかし正直、陣は今はもう周平に勝てるとは思っていない。
周平はいつも快活で頼りがいのある奴で、何というのか…カリスマ性のある男だった。そして陣は、女子人気はあるらしいが(周平が何時だったか、そう言っていた)、そんなカリスマ性が自分にあるとは思っていなかった。
剣道の腕も、中学三年間で一度も周平に勝つことは出来なかった。
―周平は、きっと大物になるんだろうな。
そんなことを、陣は考えている。
「…周平、何だよ?」
陣が言うと、窓際に座っていたもう一人の親友、多津美重宏(男子13番)がクラス一大きな身体をこちらへと乗り出してきた。
重宏は柔道部所属で、同じ格技場で陣や周平と練習をしていたのが縁で仲が良くなった。力なら多分桑田健介などにも負けないが、それを決して誇示しない、良い奴だった。
その重宏が言う。
「陣、周平の奴心配してんだよ。今まで女子と付き合ったこともないお前が、ちゃんとやれるかどうかが。粟倉、美人だからな」
「まあ、そういうことだな」
周平も言う。
そう言われて、陣は隣に座って、後ろの席にいる上斎原雪(女子3番)と話している恋人、粟倉貴子(女子1番)を見た。
確かに彼女は、クラスでも有数の美少女だった。肩口までのセミロングヘアが美しい。
そんな貴子に陣は、少しばかり見とれていた。すると、その視線に気付いたらしい貴子が振り返った。
「どうしたの、陣?」
「い、いや…何でも、ないよ」
「…そう」
そう言うと、貴子はまた雪との話を始めた。
正直、今貴子に見つめられて、陣は心臓が高鳴っていた。
―大丈夫、かな…?
少し、不安になった。
そして、バスが出発してから4時間…。
陣はうとうととしていたのだが、身体が通路に乗り出して身体が突っ張って、目が覚めた。
「ん…?」
そこで、陣は気付いた。今バスに乗っている全ての生徒が眠っていることに。
庄周平も、多津美重宏も、粟倉貴子も。生徒たちだけでなく、よく見ると担任の幸町も眠っている。
何かが、おかしい。
「貴子…たか、こ…」
陣は隣の貴子の身体を揺り動かす。しかし彼女は何の反応も示さない。
―くそ…。
「周平、しげ、ひろ…」
周平と重宏を起こそうと、陣は通路に出た。
しかしそこで、陣の視界が急速に狭窄し、意識がぷつん、と途絶えた。
ガスマスクを装備した運転手は、他のクラスのバスとは違う道を選んで走り出した。
C組の生徒、36名の死地へと向かうために。
<残り36人>