BATTLE ROYALE
仮面演舞


第3話

 一瞬、頭がぼうっとする感覚を覚えながら、粟倉貴子(女子1番)はその身を起こした。そこで貴子が気が付いたことは、自分が何故かテーブルに突っ伏していたらしいことだった。
―あれ、何で…? 私たちは、バスに乗ってスキー旅行に行くはずじゃあ…。
 そう思いながら目を凝らすと、同じテーブルに椅子を並べて、
上斎原雪(女子3番)幸島早苗(女子5番)玉島祥子(女子8番)益野孝世(女子14番)吉井萌(女子17番)といった友人たちが座っている。
「ゆ、雪、雪!」
 すぐに貴子は、一番の大親友、雪の肩を揺り動かした。
 すると雪は少し身じろぎした後、その身を起こして覚醒した。
「ん…? 貴子? どうしたの一体…」
「分からないの、起きたら何だかよく分からない部屋にいて…」
 そうまで言ったところで、貴子は周囲を見渡す。貴子たちのいる部屋には、他にいくつかのテーブルがあり、それらにもC組の他の生徒たちが突っ伏している。
 その中には恋人、
西大寺陣(男子8番)の姿もあったが、かなり遠くにいた。
 そして窓らしきものはあるにはあったが、全てが鉄板のようなもので塞がれていて、外を見ることは出来ない。正面には何か、厨房のようなものが見える。
 これでは、この部屋が何処の何の部屋なのか、さっぱり分からなかった。
 また、もう一つ貴子は気付いたことがあった。
 今この部屋にいるC組の生徒たち全員が、制服とは違う、何かの服を着込んでいることだった。
 貴子は改めて自分の身体を見てみる。すると貴子も、他の生徒たちと同じ物を着込んでいる。色は赤っぽい…何か、スキーウェアのようなものだ。
 その時だった。雪が呟いた。
「ねえ、貴子…? あんた、首に何つけてるの?」
 雪にそう言われて初めて、貴子は自分の首に何やら妙な圧迫感を感じ、首元に手をやってみた。
 するとその指先に、ひんやりと冷たい、金属の感触があった。
「何? これ…」貴子は雪に問う。
「さあ…?」
 雪が呟いたその時、貴子は雪の首にも、何かがあるのを見た。そしてぐっと近づいて、それを見た。
 それは、銀色に光る首輪だった。その首輪の銀色は、暗い部屋の中で、きらりと光っている。
「雪の首にも、あるよ? 首輪みたいな…」
「ええっ!?」
 やがて、同じテーブルの早苗や祥子、孝世、萌も眼を覚ましたのか、続々とその身を起こし始めた。また、他のテーブルにいる他の生徒たちも。そして貴子は見た。早苗たちの、いや、この場にいるC組の生徒全員の首に、雪の首にも、貴子の首にもあった銀色の首輪があるのを。
 彼らは口々に今置かれている状況についての意見を交わしたり、狼狽したりし始める。
「ホントに、何なんだろ…不安になってきた…」
 雪が不安そうに呟いたのを、貴子は聞いた。気の強い雪がここまで不安がる姿を、貴子は初めて見た気がした。
 その時、誰かの声がした。
「なあ、今何時だ周平?」
 陣の声だった。暗がりでよく分からないが、どうも陣は
庄周平(男子10番)に今の時間を聞いているようだ。
 確かに、貴子も今の時間は気になっていた。だが、貴子は時計を持っていなかったので、知る術がなかった。
 そして、周平が呟く声が聞こえる。
「夜中の…1時10分だ」
「何でそんな時間なんだ?」
「さあ…?」
―夜中の1時!?
 これには貴子も驚いた。バスに乗っていたのは午前中だったのだから、軽く12時間以上、貴子たちは眠っていたことになるのだから当然だ。
「何なの…? 萌、訳分からないよ…」
 萌が鳴きそうな声で呟いたのが聞こえた。か細い、聞き取りにくい声だ。皆がこの状況を飲み込めず、何が起こったのかを考えては、恐れていた。

 その時、正面の入口のドアが音を立てて開いたかと思うと、何人かの人間が入ってきた。その内の一人が部屋の電気を点け、一気に部屋が明るくなった(そこでやっと貴子は、この部屋が食堂のような部屋だと理解した)。
 そして電気を点けた人物(体格の良い、迷彩服を着た…兵士だった)が部屋の隅から何やらホワイトボードを正面に持ってきた。
 すると最初に部屋に入ってきた人物が、その前に立った。
 その人物は、黒のスーツに黒のネクタイ、黒い革靴といったファッションに身を包み、キチンと固められた髪とたくわえた口髭と顎鬚が渋さを感じさせる中年の男だった。
「はい、皆さん、よく眠れましたか?」
 男は唐突に、渋みのある声で言った。
 貴子は、何が何だか分からなかった。

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