BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
第4話
「はじめまして。私は今日から君たちの新しい担任になった、フクハマコウセイと言います。以後、どうかよろしく」
そう言って西大寺陣(男子8番)たちの前に現れた男は、ホワイトボードにペンで何か書き始めた。やがて書き終えると、こちらに向き直った。
「福浜 幸成」
「はい、これが私の名前です。それじゃ…」
「あの…」
そんな時、突如挙手して立ち上がったのは、元生徒会長の赤磐利明(男子1番)だった。利明は毅然とした態度で、福浜に向かって言った。
「何が何だかさっぱり分かりません。僕たちは、スキー旅行に行くはずだったんです。なのに、何ですかこれは。それに、新しい担任って、幸町先生はどうなったんですか」
「そ、そうだそうだ!」
「キチンと説明しろ!」
利明に便乗して、同じテーブルについていた浦安広志(男子2番)と太伯高之(男子12番)が声を荒げる。
「はいはいはい、分かってます分かってますとも。ちゃんとした説明を今からするのでお静かに」
そして福浜は一呼吸置いて、静かに、しかしそれでもはっきりと聞こえる声で言った。
「君たちは、今年度第41回目のプログラム対象クラスに選ばれました。おめでとうございます」
―な!? プログラム…。
その単語を聞いた瞬間、陣だけでなく、生徒たち全員が凍りついたように感じた。
「そんな…」
そう呟く女子の声(声の感じからして木之子麗美(女子4番)だろうか)が聞こえる。
そしてなおも福浜は続ける。
「それと、さっき赤磐君が言っていた、担任の幸町先生ですが、今ここに来ています。先生、どうぞ」
そう言って福浜がドアの方に立っている兵士(これが政府によって行われるプログラムだとすると、兵士は専守防衛軍の連中だろうか)に促すと、その兵士は一旦ドアから出て行き、すぐに一人の男を連れて戻ってきた。
ひょろりと細い、痩せぎすの身体に、黒縁の眼鏡。
それは間違いなく、陣たちC組の担任教師だったはずの幸町隆道だった。
「えー、幸町先生は君たちがプログラムの対象クラスに選ばれたことを知ると、こう言われました。『分かりました。皆には頑張って貰いたいです』と。今回はそのことを本人に伝えていただこうと、つれて来ました」
そして幸町はこちらを向くと、一言言った。
「皆、頑張れよ。先生、応援してるからな!」
その表情は、教え子が死地へと向かうことを憂いている顔ではなかった。ただただ自分の生命が保証されて良かった、といったほっとした顔をしていた。
それに気付いたのか、生徒たちの間から怒号が上がる。
「何だよそれ!」
「私たちのことはどうだって良いって言うんですか?」
「ふざけんな!」
―…予想通りのお言葉、ありがとうございますよ。
陣は正直、幸町のこの対応は予想していた。あの事なかれ主義で、波風立てたがらない性格の幸町が、自分から危険に身を投じたりするはずがない。
だがその時、陣も、そしてどの生徒も予想していなかったであろう事態が起こった。
今まで黙っていた福浜が懐から一丁の拳銃を取り出すと、幸町にその銃口を向けたのだ。
「…え?」
幸町も、ぽかんとしている。福浜が、淡々と言った。
「本来、プログラムに賛同してくださった先生は無傷で帰還させることになっています。しかし、私はこういう下衆が大嫌いです。ですからここで…君たちへの見せしめとして使わせていただきます」
―何だって?
「そ、そんな…は、話が違うじゃないですか…助けてくれるって言ってたからここまで来たのに…!」
幸町が叫ぶ。しかし、福浜の銃の銃口は幸町に向けられたまま動かない。
「さっさと消えていただきましょうか」
そして、一発の銃声。
同時に、幸町の頭の上半分が吹き飛ぶと、幸町はその場に仰向けに崩れ落ちると、もう二度と動くことはなかった。
部屋中に、生徒たちの悲鳴があがる中、陣は呆然としていた。
―こ、こんなにあっさりと…。
陣は、ただただ驚愕していた。ごくごく紳士的に振舞いながら、幸町を「下衆」と呼んであっさりと殺して見せた福浜の姿に。
陣は福浜の顔をその瞬間、見た。
その顔には、何もなかった。感情は感じられず、ただ、さっきまでの笑顔が張り付いていた。
(AM1:27)担任教師 幸町隆道 死亡
<残り36人>