BATTLE
ROYALE
〜 仮面演舞 〜
第20話
それは、粟倉貴子(女子1番)が、何とか水島貴と成羽秀美から逃れようと、そっと動き始めた時だった。
一発の銃声。そしてその少し後にも聞こえた銃声。
何が起こったのか、貴子は気になって仕方が無かった。そして林の木々の間からそっと覗き込んだ。
貴子は、そこに広がっている光景に戦慄した。二人の男女が倒れている。真っ白な雪の上に倒れているのは紛れも無く、水島貴と成羽秀美だった。
―一体、何があったっていうの!?
貴子はついさっきまでその二人に殺されそうになっていたことなど忘れて、林を飛び出して二人の下へと駆け寄った。
貴は、二箇所に斬られたらしい傷があり、そこから未だにじわりじわりと血が染み出している。
秀美は、腹部に一つ刺し傷があり、それが致命傷になっているようだった。そこで初めて貴子は、二人の息が無いことを確認した。
「死んでる―」
貴子はただただ、恐怖していた。
まだ貴子は、二人が死んだことを認められずにいた。
―さっきまでは、生きていたのに…。何でこんなことに?
貴子は、その場に膝をついた。力が抜けて、立てなかった。
―いくら何でも、酷すぎる…。
その時だった。
「うわあああ! ひっ、人殺し!」
背後で何者かの叫び声が聞こえて、貴子は振り返った。そこには、顔を引きつらせた男子―妹尾純太(男子11番)が立っていた。
「人殺し! ふっ、二人も殺したんだな!? ぼ、僕はそう簡単には殺されないぞ? そうだ、やられるまえにやってやる。お前に殺される前に僕がお前を殺してやる!」
純太は、殆ど息継ぎもせずにまくし立てた。
「ちょっと、待って? 私が殺したわけじゃないわ、さっきここに来たときにはこの二人は…」
「うるさい、他人の言うことなんて信用するわけにいくか! 僕を騙そうったって、そうはいかない」
そう叫んで、純太は手に持っていた特殊警棒を握り締め、貴子の方へと走ってきた。
慌てて、貴子も手に持った柳刃包丁を握り締める。
「うああああーっ」
純太が貴子目掛けて特殊警棒を振り下ろす。しかしその動きは比較的緩慢で、貴子にも容易にかわすことが出来る動きだった。やはり、運動神経が優れているとは言いがたい純太では、この雪の中でのダッシュはきついようだ。
だが、純太は諦める気配を微塵も見せない。
それどころか、より貴子への殺意を燃やしている様子だった。
「避けるなよ…よくも避けたなぁぁぁ!? 黙って食らえよぉぉぉ?」
貴子が今の一撃をかわしたことに怒っているようだが、そんなもの、貴子にとっては理不尽以外の何物でもない。
貴子は改めて、純太の方を見る。その丸眼鏡の奥に見える眼は血走って、見開かれ、荒い息を吐きながらこっちを見据えていた。
―怖い。何なの、これは…。
背筋を、冷たいものが流れる。身体ががくがくと震える。
もはや、純太は普通の状態ではなかった。この状況において、完全に精神が破綻しきっていた。正直、人間以外のもの―ただの化け物にも見えてきた。
その、純太の狂気に貴子は、心の底から恐怖を感じていた。
「ちくしょう、死ねよ…、大人しく死ねよぉぉぉ!」
純太が再び向かってきた。その時だった。
一発の銃声がすると同時に、貴子と純太の間の雪が跳ねた。そして貴子と純太は、同時に銃声のした方に振り返った。
「誰だ、僕の邪魔をするのは! 殺してやるぞ! ぶっ殺してやる!」
純太が声を荒げる。
「…殺して、みろよ? 出来るんならな。一度やってみせてくれよ、なあ?」
銃を撃った相手らしき人物は、純太に向かって堂々と言い放った。貴子はその人物の顔をよく見る。
少し伸びた髪を、ヘアバンドでオールバックになでつけ、いつも『万能の天才』になるという、荒唐無稽にしか見えないようなことを夢みていた―しかし、それが出来そうな気もする男。
そう、それは―手に回転式拳銃を持った、政田龍彦(男子17番)だった。
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