BATTLE ROYALE
仮面演舞


第21話

「なあ、やってみろよ、妹尾」
 龍彦は、なおも純太に言い続けている。純太は、じっと龍彦の方を見ている。
「できないのか? じゃあ、失せろ。邪魔だ失せろ。行かないって言うなら…もう一発撃つぞ?」
 そう言って、龍彦は純太に手に持った拳銃を向けた。
 それだけで、純太には十分だった。純太はその姿に恐怖したのか、慌てて駆け出していった。もう完全に貴子のことは無視していた。
 そして純太の姿が見えなくなると、龍彦は貴子の方を向き、近寄ってきた。
―政田君は、大丈夫なんだろうか?
 貴子は少し、身を硬くした。
「よう、大丈夫だったか? 粟倉」
 龍彦が一言、貴子に声をかけた。
「政田君…、政田君は、『どっち』?」
 貴子は、思い切って龍彦に尋ねた。龍彦がやる気なのかどうか、貴子には分からなかった。
「どっちって…ああ、俺がやる気かどうか聞いてるわけか。安心しなよ、俺はやる気じゃないからさ」
 そう言って龍彦は、拳銃を持った手を掲げる。貴子は龍彦の持っている拳銃を見て、尋ねた。
「それ…、政田君の武器?」
「ああ。ニューナンブM60って言うんだと。さっき初めて撃ったんだけど、意外と使いやすいな…ん?」
 そこまで話したところで、龍彦は貴子の背後に見える貴と秀美の死体に気付いたらしく、黙り込んだ。そして近づいていく。
「…貴…、秀美ちゃん…。粟倉、死んでるのか? 二人は」
「うん、さっきここに来たら、もう…。それで、妹尾君にも疑われて…」
「そう…か」
 そう呟くと、龍彦はしゃがみ込み、二人の眼を閉じさせた。そして立ち上がった龍彦は、貴子に背を向けた。貴は龍彦や
灘崎陽一(男子14番)と共に、小学校の頃から野球をやっていたと貴子は聞いている。秀美も、三人が所属していた野球部のマネージャーだった。 龍彦の受けたショックは大きいはずだと、貴子は思った。
「政田君? その…何て言ったらいいか…」
 貴子は、龍彦を励まそうと声をかけた。
「…なあ粟倉? 貴…馬鹿だよなぁ?」
「え?」
 貴子には、龍彦の突然の言葉の真意が分からなかった。龍彦はなおも続ける。
「カノジョを、秀美ちゃんを、大事にしろって…ロッジの前で会ったとき、言ってやったんだよ、俺。また会おうって、約束したんだよ。けどな…死体になって会おうなんて約束はしてねぇって。誰がそんなこと言ったよって話だよ全くよぉ…貴のバカヤロウが!」
 龍彦の肩が震える。泣いているのだろうか?
 正直、貴子は龍彦が泣くところなど、想像がつかなかった。いつも仲間と馬鹿話をしていて、時々自信過剰なんじゃないかとも思えることを言っていて…。
 しかし、龍彦も普通の男子中学生だった。
「政田君?」
 もう一度、声をかける。
「……」
 龍彦は何も言わない。もう一度、貴子は話しかける。
「ねえ、政田君…」
「粟倉…ありがとう。俺は、大丈夫だよ、もう。貴や秀美ちゃんのためにも俺は、やらなきゃならないことがあるからな」
「やらなきゃならないこと?」
 貴子は尋ねた。
「ああ。実は俺、出発前からこのゲームからの脱出方法を探してて、スタートする時にある計画を思いついたんだ」
「ある、計画?」
「ああ、脱出するための、な」
 貴子はその言葉に、胸が躍った。
「じゃあ、皆で生きて帰れるの!?」
「まあ、上手く行けばな。それでここからすぐ北、A−9エリア辺りだな、とにかくそこにあるもうひとつのロッジにさっきまでいたんだが、粟倉と妹尾の声がしたから飛び出してきたんだよ」
「そう…」
「それで、そのロッジに行く途中で陽一にも会ってな、あいつも今ロッジにいるよ。粟倉、お前も俺の計画に乗らないか? お前は信用できると思うんだよ、俺は」
 貴子は、黙った。そしてしばらくして、言った。
「政田君の申し出は凄く、嬉しい。けど私は、雪たちが…仲間が待ってるの。それに、陣も探さなきゃ。政田君の計画のことは、皆にも伝える。それから、改めて乗らせてもらうわ」
 そう言うと、龍彦はしばらくして言った。
「お前も、仲間思いなんだな…いいぜ。いつでも歓迎するよ」
「じゃあ、また会いましょう」
 そう言い残して、貴子はその場を立ち去ろうとした。しかしそんな貴子を、龍彦が呼び止めた。
「おい、粟倉」
「何?」
「陽一が言ってたことなんだが…、美星には、気をつけろ」
「美星…美星さんに?」
 何故、
美星優(女子12番)に気をつけなければならないのか。正直、貴子には分からなかった。
「あいつの話だと、美星が芳泉を殺したそうだ。芳泉を刺すところを出発直後に見たらしい。おそらく美星はやる気になってる。注意しろ」
「…ありがとう。十分注意するわ。それじゃ」
 貴子は今度こそ、その場を走り去った。龍彦はしばらくそれを見送っていたが、やがてロッジへと戻っていった。

―脱出が、できる!
 貴子は、B−8エリアの林道を走っていた。
 政田龍彦が、自分たちを脱出させてくれる。その事実は、貴子の心を少しだけ明るくした。
 こうなったら一刻も早く、仲間たちと―
上斎原雪(女子3番)たちと合流したかった。そして龍彦の元へと向かいたかった。
 貴子の心は弾んだ。足取りが軽くなった気が、した。

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